第2話:鉄の棺桶と再会のタバコ
指定されたワークスのガレージは、街の外れにある廃工場を居抜きで使ったような場所だった。
立ち込めるオイルの匂いと溶接の火花。その中央に、ジャッキアップされた1台のビークルが鎮座していた。
「……ハッ、冗談だろ。これが俺たちの『足』か?」
ガレージの入口でシケモクに火をつけながら、ダミ声が響いた。
ガンビーだ。軍を追われてから数ヶ月、やつもだいぶ荒んだ面構えになっていたが、鋭い目つきだけは昔のままだった。
リュウは無言で機体に近づき、歪んだ装甲をコンコンとナックルで叩く。
「型落ちの作業用ビークルをベースに、装甲板を溶接して誤魔化してある。アームは油圧式の単腕。……ワークスの実験用プロトタイプを急造でB級仕様に仕立て直したってところか」
「おいおい、あんたらが『黒い老いぼれ』の言っていた元軍人か?」
ガレージの奥から、油汚れのつなぎを着たワークスのメカニック長が歩み寄ってきた。二人のくたびれた身なりを上から下まで見下し、鼻で笑う。
「文句を言える立場か? 興行主から金は出ている。あんたらは大人しくステアリングとレバーを握って、明日のバトルロイヤルで車輪のついてるうちに相手をぶっ叩けばいいんだよ」
「……おいリュウ」
ガンビーが紫煙を吐き出しながら、リュウの隣に並ぶ。機体の下を覗き込み、一瞬で顔を顰めた。
「アーム右の油圧ライン、カプラの締め込みが甘い。ついでにバイパスの安全弁がサビついてやがる。このまま10台の乱戦に突っ込んでごらん、一発デカいのを喰らった瞬間にシリンダーが逆流して、コクピットの中で俺の足が吹き飛ぶぞ」
「なに……? 素人が知ったような口を叩くな!」
メカニック長が青筋を立てて怒鳴り散らすが、リュウは意にも介さず、ガレージの壁に立てかけられていた重量級のレンチを一本引っ掴んだ。
「作業用工具を貸せ。……それと、予備の油圧ホースと圧着具だ」
「ああ!?」
「こんな鉄の棺桶に命は預けられん。今から明日の出走までに、俺たちの手で組み直す」
リュウはジャケットを脱ぎ捨て、袖をまくりあげた。その腕には、軍時代に刻まれた数々の古傷と、オイルに塗れた整備のタコが残っている。
ガンビーは呆れたように笑い、吸い殻を足元で踏み消した。
「やれやれ……久々の再会だってのに、挨拶代わりに夜明かしでドブ板整備かよ。おいリュウ、アーム右軸は俺がバラす。お前は足回りのキャスター角を直せ。軍用のラインで走れるようにセッティングしねえと、旋回で死ぬぞ」
「わかっている。……頼んだぞ、ガンビー」
「任せとけってんだ」
ワークスのメカニックたちが唖然と見守る中、二人は手際よく工具を交わし、マシンを解体し始めた。言葉など最低限でいい。互いがどこを触り、何を求めているかが手に取るようにわかる。
かつて激動の戦場で死線を潜り抜けてきた二人の呼吸が、泥臭いB級デュエルのガレージで、再び完全に噛み合った瞬間だった。
(第2話:終わり)




