第二話 初めての出会い
山を下って何日が経ったのか。
東に歩いているが、未だ村はない。
「いやぁ、困ったな」
そんなことを呟きながら歩いていると、前方の静寂を破って、鋭い金属音と複数の足音が聞こえてきた。
シンは音のする方へと歩を進める。
木々が開けた先、すぐに大きな村に到着した。
「飯屋どこですか?」
知らない人には丁寧にと教えられた。道行く人に聞くと、すぐに場所を教えてくれた。
やっとまともな飯にありつける。浮き足立ちながら歩いていると、目的の店の前で、白い鎧に金の縁がついた騎士たちと出会う。
「おい、ここにタロスという大男が来ただろう? 隠してないで今すぐ出せ!!」
店主の胸ぐらを掴み上げているのは、騎士の隊長だった。
他の四名が、店内の机や椅子を乱暴に荒らしている。
シンは、ゆっくりと近付くと剣を抜いた。
その冷徹な殺気に気付き、隊長は店主を放り出して槍を構える。
相手の方が大きく、リーチも長い。
鋭い突きが放たれる。
しかしそれは、シンが嫌というほど経験してきたヒスイの突きとは程遠く、止まって見えた。
一瞬で間合いを詰める。
シンは、ただ剣を振り下ろした。
ガキィィィン、と硬質な音が響き、槍が中ほどから両断される。
勢いを失った隊長は、そのまま地面に尻餅をついた。
呆然と見上げる隊長の目に、シンの瞳が『辰砂の赤』へと変貌しているのが映る。
冷酷な、大地の底のような赤。
しかし、すぐに目はいつもの黒へと戻った。
「隊長!! よくも隊長を!!」
正気を取り戻した他の兵たちが一斉に突っ込んでくる。
シンは冷静だった。剣を構え直すまでもなく、足元に落ちていたゴツゴツした石ころを拾い上げる。
一閃。
放たれた石は、恐ろしい精度で鎧の隙間へと滑り込み、兵士たちはまともな悲鳴すら上げられずに仰向けに倒れた。
「化け物か……」
「退け!! 一旦引くぞ!!」
隊長が形相を変えて叫ぶと、兵達は這うようにして引いていった。
シンは剣をサヤに収め、店主に歩み寄る。
「大丈夫ですか?」
「はい……」
その時、大男がどこからともなく現れた。
「いや、凄い御仁だ。 見事としか言いようのない武だな。 しかしこの目は誤魔化せれんぞ。 ヒスイ様に武を習ったな」
「誰ですか?」
「あぁ、失敬。 俺の名はタロス。 ちょっとしたお尋ね者だ」
「そうか。 なら助けなければよかった」
「おいおい、なぜその様な……」
「お前が罪を犯し隠れていたから店主が被害に遭った。 お前が悪い」
「そうか……確かにそう言われたらそうだな。 よし店主、食い物と酒をくれ。 さぁ座ってくださいな」
「……」
「俺なりの店主への贖罪だ。 付き合ってくれよ、まだ名も聞いてない」
その時シンの腹の音が鳴った。
「お、腹は素直だな。 とって食ったりはしん」
そこへ店主がお酒とお茶を用意してくれた。
「彼は我々の為に罪を犯してくれたのです」
「え?」
「ここの村長は地方の役人でした。 しかし左遷になりこの村に来たのですが税の徴収が酷くて、それを助けてくれたのがこちらのタロスさんなんです」
「そうだったのか」
「まぁいいってことよ。 それにあいつは見下すのが好きそうだからな、高いところに磔にしてやった」
笑いながら酒を飲み店主が持ってきた肉をシンに渡す。
「食えよ、生きなければ意味ないだろ?」
シンはハッとした。
その言葉はヒスイもよく口にしていたのである。
肉を食い二人はすこし話をした。
そしてタロスが店に金を渡すと店を出る。
「泊まるところはどこにするんだ?」
「山の中で眠る」
「それはまずい、名前はなんだ?」
「シンもいう」
「シン、あんたは俺と同じお尋ね者になった。 いい場所知ってるぜ」
そういうと大股で歩きながらタロスは先導した。




