第三章「ヤブサメサバイバル」2
妨害が肯定されるルールにおいて、お互いが意識し合ったなら当然敵同士となる。
次にマモルの意識の中に入り込んできたのは、紫色のローブとヨレヨレの三角帽子をかぶった中年男だった。
左手に長さ1メートルほどの杖を右手には弩を携えている。
見た目は絵に描いたような魔法使いだろう。
「私の名は氷魔導士クオーツ。奇跡の魔法に慄きなさい」
(何だこいつらは。名乗らなくてはならないルールでもあるのか?)
マモルがそんなことを考えていると、クオーツは慎重に距離を詰めて杖を突き出す。
「アイスボックス!」
クオーツの掛け声で、頭ほどの大きさの四角い氷の塊が宙に発生し、回転してマモルの方に飛んできた。
(何だこの超常現象は!?)
マモルは驚きつつも馬を走らせ、どうにかそれを回避する。
「なるほど、これが魔法というやつか」
「そんなに珍しいですか。ならば、もっとご覧に入れましょう」
「させるかよ」
マモルはそう言う前に2つの矢を放っていた。
しかし、真っ直ぐ飛んだ2つの矢はクオーツに到達する直前で砕け飛ぶ。
結晶の壁がクオーツ目の前に出現していたのだ。
「アイスウォール・・・通常の弓矢で私に勝つことはできませんよ」
どうやら、クオーツは氷を自由に生成できるらしい。
マモルが矢を放ち、クオーツが氷塊を放つ。
マモルは必死で氷の塊を避けなければならないが、対してクオーツは氷の壁を出現させて矢を簡単に防いでしまう。
攻撃と防御の両方でマモルは負けていた。
それでもマモルは矢を放つ。
幸い矢は無限。マモルとしては何か突破口を探すしかない。
「無駄ですよ」
クオーツは鼻で笑っている。
クオーツが氷の壁を自在に出し入れできるのであれば、弓矢しかないマモルに攻撃手段はなかった。
だが、すでにマモルは生死を賭けた戦いの虜になっている。
その狂気こそがマモルの強力な武器であった。
(滾る・・・何かが・・・)
マモルは弓を引く手を止めなかった。
確証はないが、何かの予感がマモルを突き動かしていた。
不思議なことに放つ矢の十数回に1回だけ手応えが変化するのだ。
マモルはその感覚を必死に感じ取ろうとしていた。
それが弓使いの素質であると信じて。
一方、クオーツは氷の塊を飛ばさなくなっていた。
発生させた氷の塊を宙に浮かべ、すでに20個ほどの氷の塊がクオーツの後ろに控えている。
(その貯めた氷の塊を一気に放つつもりか?しかし・・・)
弓を引く右手は脈打っている。
マモルは急いでクオーツに向かって馬を走らせた。
「次の矢は俺の期待を超えてくるッ!」
クオーツが大量生成した氷の塊に襲われれば、ひとたまりもない。
しかし、マモルは氷の壁を貫くことしか考えてはいなかった。
そのための疾走である。
弓使いの素質の開花に、馬の推進力を加え、一撃で壁を破壊しようとしていた。
(何ということでしょう・・・)
クオーツの目に映る、弓を引くマモルの姿は輝いている。
マモルはギリギリまで加速する。
矢を放つのは、氷を飛ばすのと同時と決めていた。
「いいでしょう。死になさい。アバランチッ・・・!」
しかし、クオーツは一瞬攻撃を躊躇った。
「定期ミッション開始」
定期アナウンスの重厚な声が場内に響き渡った。
「これより15秒以内に5本の矢を的に命中させなければ、失格とする」
「何ッ!?」
クオーツは声を上げた。
クオーツは魔法使いであり、矢の命中精度が低く、幅25メートル掘の向こうの的を5回射抜くには、すぐにでも取り掛からなければ間に合わないのだ。
まさにクオーツのような者を篩にかけるようなミッションだった。
その一瞬の心の迷いに糸を通すように、輝く矢が一閃。
氷を穿つ音が聞こえたかと思えば、クオーツの身体は宙を舞っていた。
そして、マモルはすぐに弓の狙いを、的へ変え5本の矢を放った。
「アナウンスに助けられたが、次は苦戦することもないだろう」
弓使いの素質。
マモルはその真価をこの一戦で手にしていた。
マモルがクオーツを下し、すでに残り4人のまで絞られている。
腹の膨らんだモスグリーン色のターバンの男と、左腕を右手で押さえている薄着の男。
そして、余裕の表情でレイヴンも残っていた。
(やはりアイツは格が違うな)
ここからマモルに最も近いのは、左腕を押さえている男だ。
初めは怪我をしているのかと思ったが、そんな様子でもない。
まるでねじ式のように、馬に揺られながら俯いている。
(アイツ、弓を持っていないんじゃないのか?)
そんなことを考えながら、ターバンの方に目をやると、男は大きな壺を抱えていた。
そして男が壺を傾けると、中から無数のニョロニョロとした生物が地に落ち這い回った。
(あれは蛇か・・・?)
「俺の名は毒蛇使いオフィウクス、この蛇の毒は馬も死ぬ猛毒よ!」
男の掛け声と共に、蛇が場内を埋め尽くすように移動していく。
あれはまずいとマモルがオフィウクスに狙いを付けたが、すでにオフィウクスの首には矢が突き刺さっていた。
討ち取ったのはレイヴンである。
しかし蛇が放たれた今、オフィウクスの生死はそこまで重要ではない。
(まずいな。馬が怯えている)
マモルは蛇が場内を埋め尽くすのを防ぐため、それを次々に射抜いていく。
そんなアクシデントに対処するの中、突然左腕を押さえている男がマモルの方へゆっくり馬を進めてきた。
「助けてくれ、弓を落としてしまったんだ・・・」
男は自信なさげな様子で、マモルに助けを求めてきた。




