第二章「魔鋭四将」ラスト
眩しい日差しを浴びてマモルが目覚めると、ヨモギザワの姿は消えていた。
(逃げた・・・!?)
マモルは少しゾッとした。
寝首を掻かれていてもおかしくはない。
ヨモギザワのいた場所には、焼き切れた縄と折りたたまれた紙が落ちている。
焚き火で縄を焼き切って逃げるなど、簡単に思いつきそうなものだった。
(うかつだった)
そしてマモルは不思議そうに、縄と一緒に置かれていた紙に手を伸ばす。
紙にはこう書かれている。
「分体が集まる所に、奴の裏の世界がある」
ヨモギザワの置き手紙の様だが、マモルには意味がわからない。
考えてもしょうがないのでマモルは起きてきたセリアに置き手紙を見せた。
「分体とか裏の世界とかいったい何なんだ?」
「分体はよくわかりませんが、裏の世界は魔物が元々住んでいた世界ですよ」
セリアはマモルの無知さに驚きながら答えた。
どうやら、このマイワールドには表裏2つの領域が存在するというのは一般常識らしい。
人間の住んでいる領域が表の世界とするならば、魔物が住んでいる領域は裏の世界ということになるだろう。
もっとも魔物からすれば自分たちの世界が表かもしれないが。
「じゃあ、魔物達は裏の世界から表の世界を侵攻してきているというわけだな。しかし人間側最大戦力の勇者が敗北した割には、ハンドケア町で人が普通に暮らせていたよな」
「勇者が敗北して早5年。依然として魔物達が本格的な侵攻を、表の世界に仕掛けてきてないのです」
(なるほど、魔王が人間と戦うのを飽きてしまったのが理由かもしれないな)
マモルは話の途中であることを思い出した。
「そういえば町長の件、何で死の魔鋭の仕業だと思ったんだ?」
「町長が言っていたんです。彼はたまに放心状態になり、夢遊病のように何かを呟いていましたから」
「それは確実に操られているな」
マモルは想像して笑った。
話を終えたマモルとセリアは、再び帝都ブレインクリーンを目指し歩き出した。
森を越えると何もない平原が広がっている。
現代からやってきたマモルにとって、見たことがない景色だった。
繰り返される平原というものは歩いていて非常につまらないが、乗り物があれば移動しやすそうだなとマモルは思う。
それから何日か歩き続けて、ついに帝都ブレインクリーンに到着した。
それからまず宿で疲れを癒し、夜に人の集まる酒場でひたすら死の魔鋭についての情報収集を行なった。
「死の魔鋭の居場所?わかりませんなあ」
「死の魔鋭?炎の魔鋭は自分の身体を燃料として攻撃を強化するらしい」
「死の魔鋭?聞いた話だが数年前に魔王が突然姿を消し、側近の魔鋭達でさえ行方がわかっていないらしい」
「脚の魔鋭は走るを止めると血流も止まって死んでしまうらしい」
「無限弓は無限な代わりに威力は弱いらしいよ」
マモルとセリアは手分けして2時間ほど声をかけたが、ただ知らなかったり、全然関係ない情報が多かった。
しかし、その中で銀色の長髪の男の話には驚かされた。
「死の魔鋭のことは知らないが、刃の魔鋭のことなら良く知っている」
「ぜひ、教えてほしい」
マモルは頭を下げた。
「俺がその刃の魔鋭、セキサイだ」
長髪の男の言葉を聞いて、マモルは身構えた。
普通の人間に見えるが、どこか底知れぬ雰囲気があるのだ。
「おいおい、弓を下せ。俺は人間と敵対していないんだ」
(魔鋭なのに敵対していない?)
確かに敵対しているなら、堂々と正体を明かすはずがない。
「どういうことだ?」
「俺は人間だからとか魔物だからという区別はしない。俺は剣を極めるために表の世界に道場を開いていてな。そこでは剣を扱える者なら誰でも入門を許可している」
セキサイは腰に携えた刀を強調している。
「こんな所で何をしている?」
「ここにいる他の奴らと同じ理由だよ。酒を楽しみにきているんだ」
人間にもいろいろあるように、魔鋭にもいろいろいるのかもしれないようだ。
「あんた魔鋭なのに他の魔鋭の居場所も知らないのか?」
「知らんよ。仲が良いわけでもないしな。ただ、あの身体では表の世界に侵入できんだろう」
欲しい情報は得られなかったが、この魔鋭の実力への好奇心をマモルは抑えられない。
「そうか。もし俺がアンタと戦いたいと言ったら戦うか?」
「素質はあるようだが、戦うには値しないな。少なくとも連火、放琉、龍飛砲などの名弓がなければ、魔鋭の相手は務まらんだろう」
魔鋭と互角に戦うには、強力な武器を使いこなすことが最低条件のようだ。
(そういう物もあるのか)
「なるほど、良い話が聞けた」
「ふ、お前とは何時か戦場で会うかもしれないな」
セキサイはそう言って微笑むと、席を立って酒場を出ていった。
やがてセリアとの待ち合わせの時間がきて、お互いが得た情報を共有し合う。
「どうやら、死の魔鋭を倒すにはそれなりの武器が必要らしい」
「それなら良い話があります。近々<ヤブサメサバイバル>という大会が開かれるらしく、その大会の賞品が放琉という弓らしいのです」
「確か、セキサイもそんなことを言っていたな」
放琉、唯一無二の宝弓の1つ。
威力はもちろんだが、その輝きの美しさは一国に値すると言われている。
マモルにとって、願ってもない話だ。
マモルは魔鋭四将との戦いを楽しみにしつつ、ヤブサメサバイバルの準備を始めた。




