第一章「力の選択」ラスト
マモルは大悪鬼の背後から2つの矢を射るが、大悪鬼の暴走の手が緩むことはない。
再び強力なフルスイングがマモルの頬を掠める。
(魔王はこの世界に飽きていると言っていたな)
マモルは戦闘に没頭しながら思い出していた。
そして実はマモル自身もそうだったかもしれないと思っている。
誰もが同じ道ような道を行く元の世界が嫌だった。
もちろん無職のマモルが、一流の会社に就職し、結婚して子供を育てるという一般的な幸せの道を体験してきたわけではないが、なぜかそれらを魅力的に感じない。
決して、できなかったからの負け惜しみなどではない。
そして、大切な場面で失敗しても全てを失うわけではないから、本気になれないだけではないかとマモルは考えるようになっていた。
全て、つまりそれは命だ。
だからこそ、マモルは逆に人を殺す覚悟もできている。
もしかしたら、魔王はこの性格を見込んで俺を選んだのかもしれないと、マモルは思うのだった。
再び大悪鬼の強烈な振り下ろしをマモルは後方に飛んで回避する。
(ヒリついてきたぜ・・・!)
このままでは体力が尽きて捕まる。
しかし、虚空を見つめて生きるよりは、生死の綱渡りをしている方がマモルの性に合っているのだ。
突然、レイヴンが叫んだ。
「マモル聞け!<素質>には職業的素質とスタイル的素質が存在する。スタイル的素質には攻撃・防御・速度がある。お前は弓使いという職業を持っているが、スタイルがまだ無い。そして今、私の手に3つのスタイルがある」
マモルがレイヴンをチラ見すると、レイヴンは3つの光の玉を両手の平でこねくり回していた。
間違いない。その玉は魔王の持っていた玉と同じ光を放っている。
「お前がここを凌ぐにはこのスタイル的素質は必須だ。この内の1つをお前にやろう。ただしこれは希少品だから受け取ったら最後、交換条件として私の願いを1つ叶えてもらおう。さあ、選べ!」
(今は理解が追いつかない)
マモルは思った。
だが、レイヴンが持っているのは素質という名の力だ。
レイヴンが力の選択をしろと言っているということは理解できた。
「わかった!今は防御だ!防御を俺にッ!」
「ユニークなチョイスだな」
レイヴンは防御の素質をマモルに向かって投げた。
すると、マモルと素質が融合し、身体が一瞬発光する。
しかし、大悪鬼はそんなことにも動じず、大斧を振りかぶり横に薙いだ。
息が上がっているマモルは避けきれないと思い、弓を持つ左腕で受け止めながら、威力を殺すように飛び退く。
そして着地するまえに夢中で矢を射てから、傷口を確認したが傷がない。
「それは素質の恩恵<残盾>。数回のダメージを軽減できる体質になっている」
(数回無敵になっているということか!?)
マモルは瞬時にそれなら勝つ方法があると思った。
なぜか残盾があと1回残っていると確信したマモルは、大悪鬼に捨て身の突進を仕掛けて弓を引き絞った。
大悪鬼の攻撃をマモルは無防備で受けるが、残盾を消費して微動だにしない。
しかし、その前に大悪鬼の右目を冷静に射潰していた。
こうなったら、こっちのものである。
右側が死角となっている今なら、右に回り込めば安定して倒すことができるだろう。
そこからは、まあ泥試合だった。
マモルは余裕で優位な位置取りをして、死角から矢を射る。
やがて大悪鬼は右半身が矢達磨になり、力尽きて倒れた。
「おめでとう」
(勝った・・・!)
さすがの疲労にマモルはしゃがみ込んだ。
しかし、一息つこうとしたマモルは刹那に、レイヴンの背後に移動する人影を見た。
そして、その人影はすでにギラリと光る銀色の刃を天高く掲げている。
「あッ!」
マモルは斜めに振り下ろされる刃を見たが、声を上げることしかできなかった。
次の瞬間、鮮血が宙を舞った。
しかし、レイヴンは瞬時に反転しながら前方に飛んでしゃがみ込んだ。
右手で押さえている左肩からは血が流れている。
「レイヴン!」
「私が血を流すなんて何年ぶりだろう。お前、何者だ?」
レイヴンは余裕そうに言った。
総髪で忍びのような格好の男が、長剣を携えて立っている。
「名乗る必要はない」
「当ててやろうか?町長の忠犬か何かだろう」
「ふん・・・」
総髪の男がゆらゆら左右に身体を揺らしながら残像し始めた。
「マモル。ハメられたな。町長は私達に報酬を払う気はないらしい」
「えッ!?」
「こいつは私が相手しよう」
レイヴンは瞬時に矢を射た。
「チィッ・・・」
総髪の男の残像が2つに分裂した瞬間に矢が到達し、総髪の男が剣で矢を弾いた。
総髪の男の残像が消えて、そのまま一直線に駆けて切り込んでくる。
レイヴンはしゃがんだまま、再度射た。
総髪の男は左籠手辺りに来た矢を軽く手を上げていなす。
しかしその矢は、総髪の男が投剣を取り出す動作を封じる結果となっていた。
(俺の術が出所で封じられる・・・なぜだ?)
総髪の男は思った。
「知ってるからだよ」
「む!?」
レイヴンは弓を引き絞り、迫り来る総髪の男を見据えていた。
総髪の男の剣の間合いにレイヴンが入る直前、斬りかかるために剣を振りかぶっても、まだレイヴンは動かない。
そして、総髪の男が袈裟斬りを放ったが、剣はレイヴンの肩に簡単に受け止められてしまった。
総髪の男は急いで後方に跳躍した。
「残盾を・・・」
そう言った総髪の男の胸には矢が刺さっている。
「覚えていろ・・・」
総髪の男は苦痛に顔を歪めながら、煙玉を地面に投げつけて煙に紛れて消えてしまった。




