第一章「力の選択」2
「無限弓は手に入れてるかい?」
「何それ?」
「射ても矢が無くならない弓だよ。無いと不便でしょ?確か町長が所有している倉庫にあったよ」
レイヴンは椅子に座ったまま腕を組んでいる。
「それって貰って良いのか?」
「良いんじゃないかな?ここの町長儲けてるみたいだし」
レイヴンはそう言い終えると腰を上げ外に出ていったので、マモルもそれについていった。
町役所の隣には、町長の倉庫らしき四角い建物がある。
「町長に許可を取らなくていいのか?」
「許可も何も、盗むんだよ」
「えっ?」
レイヴンは倉庫の裏手に回り窓を開けた。
「玄関は鍵がかかっている。でも、ここの窓だけなぜか空いてるんだ」
「なんでそんなこと知ってるんだ?」
「さっき忍び込んだから。待ってて」
(おいおい・・・コイツ、盗賊の仲間じゃねえだろうな・・・)
とマモルは一瞬思ったが、さすがにそれは考えすぎかと思い直した。
どちらにせよ1人で何もできないタモツは、レイヴンを頼りにするしかないとも考えている。
しばらく外で待っているとレイヴンは鉄製の弓を2つ持って倉庫から出てきた。
「これが無限弓だ。1個あげるよ」
「2つあるけど、君も弓使いなのか?」
「まあね」
レイヴンが何も言わずにスタスタと歩いていくので、マモルもそれについていくしかなかったが、聞けばなんでも教えてくれるため、盗賊団の拠点に向かう道中でいろいろなことを聞いた。
しかもレイヴンはこの世界での常識であっても、マモルのわかりやすいように教えてくれる。
まず、あの町は<ハンドケア町>と言われており、長い間、北の森に潜む盗賊団の被害に悩まされているらしい。
町にも衛兵のような者はいるが、戦力に余裕がないため、町長は旅人や傭兵などに盗賊討伐を任せているがあまり上手くいってないようだ。
「<悪鬼>?」
「そう、盗賊団を構成しているのは人間じゃない。小鬼とも呼ばれている魔物だ。奴らは体長120cmから140cmと小柄で知能は低いが、動きが軽く、筋力も人間並みに強い。正直言って人間を相手にするより厄介だよ」
しかし、マモルは安堵した。
なぜなら人間を殺めることになると覚悟していたからだ。
そして、それなら少しは迷いが薄れるだろうと思っていたその時に事は起こった。
すでに森に入っている。
橙色の肌をした小男が、近くの木から落下し短剣を持って襲いかかってきた。
「悪鬼だ!」
レイヴンはそう叫んだが、叫ぶと同時に矢をそいつの眉間にぶち込んでいる。
もちろん即死した。
「まだいるぞ!」
今回は両側の茂みから、2匹ほぼ同時に飛び出してきた。
1匹はレイヴンが射抜き、少し遅れてマモルも1匹射抜いた。
マモルの矢も偶然か眉間を正確に捉えており、悪鬼は即死している。
「なかなか上手じゃないか」
レイヴンは言った。
悪鬼とはいえ人間のような生物を殺害した感覚を得て、マモルは手が震えた。
しかし、後悔しているのではない。
戦いの世界に馴染むために一歩前進したという思いからの震えだった。
それから少しして藪の中に入り開けた場所に出ると、白い石造りの四角い建物を発見した。
ここは<トウフ基地>と呼ばれる悪鬼盗賊団の基地である。
なんでレイヴンがこの場所を的確に知っていたかは不思議だが・・・
扉の前には2匹の悪鬼がいた。
「隠れて。まずは見張りを倒す」
マモルとレイヴンは同時に悪鬼を射抜き、トウフ基地に接近した。
レイヴンは音を立てないようにゆっくりと扉を開け閉めして、2人は中に侵入した。
中に部屋は無い。
しかし、乱雑に置かれた木箱などが悪鬼達の死角となっていた。
辺りに人骨らしき物も散乱している。
2人は入り口近くの右側の木箱に身を隠して、木箱の影から場内の中央を覗いた。
中央は比較的障害物が少なく、20匹の悪鬼が座り込み輪になって談笑しているようだが、1匹だけ大斧を持った異常に大きい悪鬼がいる。
「あれが群れのボスだね。生物の特性でああいうのが産まれてくる。体長2・5メートルはありそうだな」
レイヴンは呟いた。
「あれは一撃で倒せない。周りの雑魚から確実に仕留めていこう」
レイヴンの指示で、マモルは入り口付近の左側の物影に移動し、身を屈め合図を待った。
マモルが位置についたのを確認し、レイヴンが右手を挙げる。
瞬時に2人は弓を予め引き絞り、物影から立ち上がって攻撃を開始した。
悪鬼達が異変に気がつく前に、マモルは1匹、レイヴンは3匹仕留めた。
そして、接近を許すまでにマモルは2匹、レイヴンは7匹を仕留める。
残り7匹。
レイヴンに4匹。マモルに3匹向かってきたが、マモルの方にはボスが含まれている。
レイヴンは素早く前転して悪鬼の攻撃を掻い潜り4匹を仕留め、マモルの方に行った2匹を素早く片付けた。
「デカいのは任せたよ!」
レイヴンが叫ぶ。
マモルは大悪鬼が振り回す斧による攻撃を後ろに飛び退いて避けたが、それ以上は壁に阻まれ退く事はできない。
幸い仕留めにくる時の大悪鬼の攻撃は大振りで、振り下ろす事がわかったため、それを横に回り込んでなんとか回避した。
マモルは思った。
(生きるという事はこういうことだな)




