第一章「力の選択」1
「ウェルカム トゥ マイ ワールド」
何もない薄暗い空間で、男の目の前に黒い人影の様なものが漂っている。
「お前は、何だ・・・?」
男は恐る恐る黒い影に聞いた。
「私はこの世界<マイワールド>の魔王だ。マモルよ。お前のような無職を平和な世界から呼び出したのは、この魔王の嗜みのようなものだ」
魔王と自称した目の前の黒い影は、まるでマモルの写し鏡のように目の前に直立している。
「私が本気なら人間達に勝利しマイワールドを簡単に支配できてしまう。だからこそ飽いている。確定してしまった未来は面白くもない。ランダム性こそが生きる愉しみだとは思わないか?」
「俺にはよくわからない・・・」
「今はそれで良い。お前は無理矢理、このマイワールドに連れてこられた。お前は私がこのマイワールドに放つイレギュラー要素の1つだ。お前は自由にこのマイワールドで生きていけば良いのさ」
魔王が両手のひらを上に向け前に出すと、そこから野球ボール大の淡い光の玉が湧き出しては消えていく。
「マイワールドは戦いの世界。お前には戦士としての職業とその才能を選ぶ権利がある」
マモルは感覚に身を任せて、魔王の手から光の玉を1つ掴み取った。
「弓使いか。良いチョイスだ。目を瞑れ。次に目を覚ます時、お前は人間達の暮らす小さな町で目を覚ますだろう・・・」
魔王の手がマモルの視界を遮ると、マモルは徐々に意識を失っていった。
気がつくと公園のような場所の木の下でマモルは寝ていた。
初めはぼんやりと目を擦っていたが、見慣れない風景にやがて困惑する。
そこは明らかに元の世界とは違った。
マモルはさっきの出来事を思い出して、このリアルな感覚と置かれている状態から、これは夢ではないのだと理解した。
(あまりにも無責任すぎやしないか?)
マモルはそう思った。
背中には矢の入った矢筒、左手には木製の弓がある。
そういえば、弓使いがどうとか言っていたなと思い、マモルは右手で矢筒から矢を取り出し、そのまま弓を引いて、隣の木に狙いを定めた。
右手を離すと矢は真っ直ぐに飛んで、ストンッと木に突き刺さった。
「おお・・・」
マモルは唸った。
魔王の言っていた弓使いの職業と才能とはまさにこのことだった。
マモルは次々に矢を木に向かって放った。
心地よいほどに命中する矢と、木に刺さる時の快音。
「セイッ!セイッ!」
マモルはつい楽しくなって掛け声を大きくしていく。
しばらくすると背後から視線を送る人の気配を感じた。
「こんな所で矢を射るのは危なくないかね?」
背後から聞こえるのは高い女性の声だった。
マモルが慌てて振り向くと、セミロングの紫色の髪、そして皮の肩当てをした冒険者らしき女性が立っていた。
「危なくないかね?」
「すいません・・・」
「ここは公園だ。人に当たるから危ないよ」
彼女の指摘は真っ当だったが、俺はこの世界の人間ではない。
何を言っても許される気がした。
「俺は勇者だ。弓の練習をしている」
「勇者は死んだよ。とにかく、町の中で武器を振るうのはやめなよ」
そう言うと彼女は去っていった。
勇者とは、魔王を倒す者と相場が決まっている。
つまり、現状は魔王が勇者を倒しこのマイワールドを支配する一歩手前だということなのだろうか?
「しかたねえなあ・・・!」
とりあえず、飯とかの問題もあり行動を起こすしかない。
(魔王が俺をマイワールドに呼んだのは、自分の邪魔をして欲しいということなのだろう)
ならば、このマイワールドを救うためにマモルがマイワールドに来たとも言えるのだ。
マモルはこの町の長に会うために走り出した。
しばらく町を駆け回り、町で1番大きく目立った二階建ての建物を見つけたマモルは、堂々と中に入っていった。
「ここは町役所です。ご用件は?」
ロビーのような場所で受付らしき美女が話しかけてくる。
「俺は勇者志望だ。町長に取り次いで欲しい」
「そういうのは募集していないと思いますが・・・」
そう言いながら受付が奥に引っ込んでいく。
数分して受付が戻ってきた。
「お会いになるそうです。どうぞこちらへ」
マモルが奥の部屋に通されると、玉座に座ったよく肥えた男が4人の美女に囲まれていた。
おそらくその男が町長だろう。
「おお君か勇者志望は!」
そう言うと町長は立ち上がり、マモルに歩み寄って手を握手を求めた。
「残念だが、私は君を勇者と決める権限はない。だがこの町は長い間、盗賊団の脅威に晒されている。良ければ盗賊団を退治してくれぬか?」
「良いですよ」
マモルはあまりよく考えず承諾した。
「おお、それはありがたい!勇者というものはそうやって名声を上げていくものだからな!そういえば、さっきもう1人の冒険者が仕事を探してここに来た。彼女はロビーに待たせておる。一緒に行ってくれたまえ」
マモルが深々と礼をして退室し、ロビーに行くと、さっき公園であった女性が椅子に座っていた。
「やあ、一緒に仕事をすることになったみたいだね。私の名は<レイヴン>。君は?」
「俺は弓使いマモルだ」




