最終章「転移者(イレギュラー)」2
「ああ・・・」
「交換条件の話を覚えているか?」
マモルがこのトウフ基地で大悪鬼と戦った時、防御の素質と引き換えにレイヴンの願いを1つ叶える約束であった。
「ああ、そんなこと言っていたな」
「その願い、今叶えてもらったよ」
レイヴンがゆっくりマモルの方に身体を向ける。
「魔鋭四将が倒れ、次の時代はイレギュラー達が争う混沌の世界になる。そして、私はそんな景色を望んでいた。この現象を起こすのは私にとって簡単なことだが、そのプレイヤーとなることはとても勇気のいることだった。今まで魔物として培ってきた魔力を失い、1人の人間として生まれ変わるのは・・・」
「俺に失望していないか?」
「いや、完璧だよ。他のイレギュラー達を不要と思うほどに」
「この世界を無茶苦茶にされる側からしたら、たまったものではないが・・・奴らも感謝しているはずだ。少なくとも、俺はこの世界に来て良かったよ」
マモルは感謝している。
目の前にいるこのレイヴンは、マモルと同じイレギュラーであり、魔物から人間へと同じ世界に転移し直した<元魔王>なのだ。
「俺は元の世界では無気力で何もしていなかった。しかしこの世界で戦い、生き死にを学んだ。戦いに没頭することは俺の喜びだった・・・」
マモルはそう言いながら、自然と涙が溢れていた。
「でも、それは違ったんだ。俺は自分が思っているほど強くなかった。セリアを失った時、それに気づいた。あのまま、この世界で何も失わず、ひっそり暮らしていけたら良かったのではないかと・・・」
「ふふ、人間とは悲しい存在だな・・・」
2人は数秒間沈黙した。
「この戦いから降りると言うことかい?」
「いや、戦うよ。これでしかお前に報いることはできない・・・」
マモルはそう言ったが、構えていない。
しかしその脱力した構えは、レイヴンを震えさせるほど完璧なものだった。
「想像以上だよ・・・!」
レイヴンは名弓・放琉を取り出し、すぐに闘矢を引き絞った。
そして、美しいその弓から放たれた矢は瑠璃色の輝きを纏って、マモルの心臓に向かい突き進んで行く。
だが、マモルも魔星・金を引いていたようで、同時に金色の輝きを纏う闘矢を放ち、2つの矢が衝突し弾け飛んで消えた。
レイヴンは咄嗟に2の矢の準備を始める。
正面から射る矢ではマモルを倒せないと思い、マモルの頬を掠めるように矢を放った。
<転矢>
矢の到達点に移動する弓使いの素質の奥義だ。
しかし、その矢がマモルの横を通り過ぎようとした瞬間、マモルは弓の弦でその矢を絡め取って、そのままそれを打ち返した。
それはレイヴン本体である。
(何ッ・・・!?)
レイヴンは弾き返されて宙で一回転し、どうにか着地した。
「今の俺には、小細工は通用しないぜ」
「ふ・・・生意気だな」
レイヴンはマモルの成長を喜び、次は8本の矢を矢筒から取り出す。
人を殺すのに闘矢のような威力のある矢は必要ない。
連矢のように軽い矢であっても、充分な威力だった。
しかも、防御の素質である残盾の無効化回数を容易に減らすことができる。
綺麗な8回の連射。
まるで機械のような等間隔の連射だが、マモルからすれば逆に反応がしやすい。
マモルが全ての矢を正確に弾き返す。
それも威力を上げた闘矢という形で。
「くッ・・・!」
加速し、且つ広範囲の8本矢を避けきれず、レイヴンの肩に1本だけ矢が突き刺さる。
その矢はレイヴンの持つ残盾のうち1つを破壊して弾け飛んだ。
「驚いた・・・そこまで器用なことができるなんて」
相手の矢を自身の闘矢として返す。
マモルは弓使いと防御の素質を融合させた奥義<闘矢返し>を完璧にものにしていた。
弓使いでマモルを倒せる者はいないだろう。
しかしあの瞬間、すでにマモルの残盾も破壊されていた。
等間隔の矢は誘いであり、8本のうち1本の影に追加の矢を放っており、マモルはそれに対応できなかった。
お互いに2回残盾のうちの1つが破壊され、残り1つとなり初戦は痛み分けとなった。
今度はマモルから仕掛けた。
闘矢返しのできるマモルに対し、レイヴンは迂闊に弓を向けられない。
必然の流れだろう。
とめどなく発射されるマモルの連矢を、レイヴンは横に転がりながら回避して、その装填の隙間を縫って矢を放った。
これは当然、マモルの闘矢として返される。
しかし、レイヴンからすれば読みやすい矢であることも事実で、タイミングを測るための矢だった。
(マモルを倒すには<影矢>しかない)
誘いの矢の影に隠れた読みにくい矢。
それ以外の矢では、防御型弓使いの極みに達するマモルには容易で対応されるだろう。
すでに行った単純な影矢では警戒されている。
もう一工夫必要だった。
繰り返される連矢の雨の合間に、レイヴンは1つの矢に対応させ、対応できないほど離れた虚空に矢を放った。
狙いはマモルではなく、マモルの後方。
そして、それは転矢である。
レイヴンが転矢による高速移動から、空中で振り向きながら2本の矢を放つ。
もちろん片方は影矢であり、いくらマモルであってもこの刹那にそこまでの対応することはできない。
マモルは防ぎきれず影矢を被弾し、残り1つの残盾が弾け飛ぶ。
「次の矢はお前に到達する」
レイヴンはそう言ってニヤリと笑い、マモルも同じく笑った。
どうやら瞬時に弓を操れるレイヴンの方が、弓使いとしては優れているようだ。




