最終章「転移者(イレギュラー)」1
<登場人物>
・弓使いマモル
魔王に異世界転移させられた男。
しかし、魔王の仲間として召喚されたわけではないので、自由の身だ。
弓使いと防御の素質を持っている。
・冒険者レイヴン
謎の紫髪の女性。
何を考えているかわからないが、マモルにいろいろ教えてくれる。
戦闘スタイル的に、おそらく弓使いと防御の素質を持っている。
<素質の能力>
・残盾
防御の素質。2回ダメージを無効化する。
・闘矢
輝く気をまとった矢であり、威力に優れる。
・連矢
複数の矢を指に挟み込み、矢を連射する。
・転矢
残像を残して自身を矢として飛ばし、矢の到達点に瞬間移動するレイヴンの奥義。
目が覚めるとマモルはやはり病室のベッドに寝かされていた。
「ここは・・・」
「おめえ、あまりに静かに寝てたから、このまま死んじまうのかと思ったぞ」
隣のベッドに寝かされている水色の悪鬼が声をかけてきた。
「なんだお前は?」
もちろんマモルはこの珍しい色の悪鬼のことを覚えていたが一応聞いた。
「何!?冗談だろ?ヤブサメサバイバルでしのぎを削ったじゃねえか!」
ブモンが飛び起きた。
「そうだったな」
「思い出したかよ」
「ああ、まあな。それより人間は負けたのか?」
「皇帝は死んだ。そう言う意味では負けたといえる。だが、お前は炎の魔鋭を倒し、脚の魔鋭と刃の魔鋭も同様に倒された」
「一体誰が・・・!?」
マモルは驚いて飛び上がった。
ブモンはニヤリと笑う。
「脚の魔鋭は俺が倒した。刃の魔鋭は紫髪の女・・・たしかレイヴンとかいっていたな」
やはり、レイヴンが黙っていなかったとマモルは思う。
「ブモン、お前そんなに強かったのか」
「ふふ、俺とお前の勝負。今回は引き分けといったところだろう。しかし、その戦いで俺の腕はこの様。当分は戦えねえ」
ブモンは包帯だらけの腕を上げて言った。
「今回の戦いは人間と魔物。お互いに指導者を失い、世界というお宝だけがポツリと置かれた状態になった。マモルよ、次は誰の時代だと思う?」
「皇帝の子孫が後を継ぐんじゃないのか?」
「いや、転移者の時代だ。すでに時代は次へ流れつつある。俺達、イレギュラーが求めるもの。それは戦乱だろう?」
ブモンの言葉に、マモルの身体は少し熱くなった。
「そのためには、争いを長引かせなきゃならない。奴らは帝都、東西南北でそれぞれの高貴な血族を祭り上げ、王としてさらなる争いを起こそうとしている」
ブモンがそう言うと、マモルは寝床から起き上がった。
「ふふ、さっそく奴らの所へ殴り込みに行くのか」
「いや・・・」
マモルは出口の扉の前まで歩き立ったまま、ブモンの方も見ずに興味なさげに言った。
「確かに今までなら、そうしたかもな・・・」
マモルはそう言って病室を抜け出した。
帝都ブレインクリーンは魔物の襲撃があったとは思えないほど綺麗だ。
約束通り、龍飛砲をコレクターのシンに返却して、マモルが帝都を出ようとすると、門の前にガタイの良い老人が腰をかけて待っていた。
「マモル、戦いに行くのか?」
武器職人のノザワ老人が声をかけてくる。
「まあな・・・」
「ほら、これを使え」
ノザワは壁に立て掛けていた木箱を、マモルに向かって投げた。
マモルが木箱を開けるとやはり弓だったが、暗く落ち着いた金色に美しく輝いている。
「これはまさか・・・」
「そう、死の魔鋭の金色の爪を<魔穿・虹>に組み合わせた<魔星・金>だ」
魔穿・虹は全てを穿つような豪快な弓だったが、魔星・金は普通の弓と変わらない扱いやすそうな弓だった。
「それとこいつも紹介しておこう」
ノザワがそう言うと、ノザワの息子くらいの歳の男がおり、マモルを見て細かく頭を下げた。
「どうも、カラクと申します。あなたの噂を知り、ぜひこの弓の設計に協力したいと先生に頼み込んだ次第です」
武器研究の世界的権威カラク。
この男はノザワの弟子であり、数々の武器を研究開発してきた実績がある。
魔星・金は師弟の合作のようなのだ。
「威力重視の俺と、機能性重視のカラク。方向性の違いから一時は別々の道に進んだ俺達だが、今回最高の弓を作ることができたよ」
ノザワとカラクはお互いの長所を活かして、名弓、魔星・金を誕生させていた。
「なぜ俺にここまでしてくれるんだ?」
「お前の武器を作ることより誇らしいことはないだろう。なあ、勇者よ」
ノザワはそう言い残し、カラクと共に去っていった。
その後、マモルは帝都を出て、南の荒野を歩いて行く。
「・・・」
元の世界では張り合いがなかった。
戦いと言っても、他人と競い合うスポーツや格闘技ではマモルは夢中になれない。
生と死。
その濃密な戦いが、マモルの求めていたものだった。
しかし、今では2つの存在がマモルの心に焼き付いている。
セリアとチェリッシュだ。
(今まで捨てるものが無いと強がっていただけかもしれないな・・・)
マモルは思う。
これからも戦う道の先に、彼女達のような悲しみが転がっているのだとしたら・・・
(きっと、もう耐えられないだろう)
マモルはそう思うようになっていた。
マモルは考え込みながら、ハンドケア町の北の森にある白く四角い目立った建物、トウフ基地の前まで歩いてきていた。
トウフ基地の中に入ると、以前のように盗賊団の悪鬼達は見当たらず、中央には女性が後ろを向いている。
綺麗な紫色の髪をした冒険者、レイヴンがそこに立っていた。
「よく来たな。マモル」
来ることを知っていたのか、レイヴンが後ろを向いたまま言った。




