第六章「帝都の防衛」ラスト
そして、最後の防衛点である北の地には、おびただしい数の火の矢が降り注いでいる。
すでに大地は炎の魔鋭アンガーが放った火の矢によって燃え盛る炎の海と化し、その中心でマモルは回転していた。
回転しつつ火の矢を弾き飛ばし、マモルの手の延長である弓の弦が届く半径だけは、炎を全く寄せ付けていない。
弾け飛んだ火の矢は、回転の勢いで掻き消され、宙を舞い地面に突き刺さっていく。
(なんだ、この高揚感は・・・)
マモルは素質の開花を予感していた。
弾け飛んだ矢がアンガーの方に向かって徐々に飛距離を増していく。
一方でアンガーは、マモルが苦しみながらギリギリのところで踏みとどまっていると思っている。
「ふふ・・・一時は押し切ったと思っていたが、崖際で踏み止まったというところか!」
アンガーはそう言いつつ、まだまだ暴れ足りなかった。
だが、一本の矢が不意にアンガーの顔に迫った。
アンガーはそれを軽々避けたが、頬に傷を負う。
(この炎の嵐の中で射返してきたとでもいうのか?)
アンガーは意味がわからなかった。
しかし、2の矢、3の矢が自分に向かって飛んできたのを見て確信した。
(マモルが盛り返してきている・・・!)
それでもあり得ない。
無数に迫る火の矢を防ぎながら射返すなど。
そう、マモルは矢を射たわけではない。
アンガーが放った矢を弦に引っ掛け、正確に飛ばし返しているのだ。
「なおさらあり得ない!そんなことは!」
アンガーは矢の速度を速めた。
アンガーの名弓<連火>は最高の連射性を誇る。
そして、アンガーの闘矢とも言える火の矢と、火花散らす速度の連矢。
人間であれば不可能と言えるその同時使用によって、魔王軍の誇る最高兵器として、のし上がってきたのだ。
だが、マモルには関係なかった。
マモルが射返した矢は徐々に数を増し、そして・・・
「うおおおおおおお!」
アンガーは無数の矢を浴びながら叫んだ。
それでも、致命傷は避けている。
アンガーは弓を引く手を止められなかった。
「連射力と制圧力で後れを取ることはできん!」
アンガーの身を焼き続けている炎が、アンガーの怒りに呼応しさらに勢いを増す。
アンガーは炎の塊のような魔物。
しかし、実際は薪や蝋燭と同じで、やがて炎が身を焼き尽くしてしまう。
だが、命の炎は勢いを増し、それが火の矢の威力と連射、火力に上乗せされた。
マモルは苦しんだ。
いくらチェリッシュの祈りで炎を軽減されているとはいえ、魔鋭が命を削って作った炎は桁が違う。
「アンガー!お前には負けられねえ!」
マモルは叫んだ。
「俺はランナーとセキサイとも戦わなきゃならないんだ!」
「ふん、奴らも来ているのか!」
アンガーも叫びながら鼻で笑った。
マモルは必死で回転しながら矢を弾き返すが、炎に身体を焼かれていく。
そして、アンガーも無数に帰ってくる矢に身体を削ぎ落とされ苦痛に顔を歪めていた。
「ぐう・・・!」
マモルのうなり声がアンガーに届く。
「はは・・・焼け死ねいッ・・・!」
あとひと押しとアンガーが思ったその時だった。
アンガーの元に降り注ぐ矢が、突然、龍の姿に変化する。
「うおおおおおおおおおッ・・・・!」
無数の龍がアンガーに喰らいつき、その身体が砕け散っていく。
マモルはアンガーの矢を、名弓<龍飛砲>の闘矢の性質を加えて一斉に返したのだ。
それは<弓使い>と<防御>。
両方の<素質>を組み合わせた最終奥義とも呼べる代物だった。
アンガーはその衝撃で粉々になりながら宙に投げ出され、灯火の状態になりつつも、一緒に投げ出された連火のありかを手で探っていた。
「よう、顔を合わせるのは初めてだな・・・」
マモルが1000メートルの距離を移動してきて、アンガーを見下ろしていた。
「お前、わざわざ歩いてきたのか・・・」
「ああ。お前、話をしたいと言っていただろう?なんでお前ら、今になって帝都に侵攻したんだ?」
「知らんな。ランナーはただの獣だし、セキサイの考えもよくわからん。だがもしかしたら、俺や奴等にも魔物としての団結意識みたいなものがあったのかもしれないな・・・」
「・・・」
予想してない返答にマモルは何も言えなかった。
「俺達は魔王に見捨てられたのだよ。圧倒的な力を持ちながら彼女は・・・俺達の世界を放棄したんだ・・・」
「魔王いったいどこに行ったんだ?」
「ふふ・・・彼女の魔力ならなんでもできる。案外近くに居て、この戦いを観ていたかもしれないな・・・」
アンガーはそう言い残すと、完全に火が消えた身体が砂の塊のように崩れさった。
「行かなければ」
マモルは弓を杖のように地面に突きながら、帝都ブレインクリーンに向かって歩き始めた。
マモルはまだランナーとセキサイが倒されたことを知らない。
「おかしいな。身体が言うことを聞かない・・・」
マモルは気持ちだけが先行して身体がボロボロなことに気づいていなかった。
それから数歩進んで倒れ込み、その場で眠ってしまった。
そして、その現場に紫髪の女性冒険者が歩み寄り、眠っているマモルのことを微笑みながら見下ろしていた。




