第六章「帝都の防衛」6
ヨモギザワとアンソニーは実力差のあるこの戦いに、加わることはできないと判断して他の兵の援護に回った。
(なんだこの違和感は・・・)
セキサイはレイヴンと対峙し、その構えからそう思う。
そして、すぐにレイヴンが遼遠を振り上げ斬りかかった。
名剣である遼遠は、剣自体の魔力によって斬撃範囲と威力、速度を向上させる。
しかし本来、セキサイにとってそんなものはハンデにもならない。
普通の相手であれば・・・
セキサイの違和感が確信に変わる。
レイヴンと激しく斬り合うたびに見えてきたものは、セキサイの基礎ともいえる剣術だった。
(こいつ、俺から剣術を学んだことがあるのか・・・!?)
セキサイは道場を開いているとはいえ、自身の剣を教えたり披露することはなく、門下生の戦いから一方的に剣術を吸収するだけだった。
だからセキサイが直々に剣を指導したものなど数えるほどしかいない。
互角の斬り合いを繰り返し、やがてレイヴンが斬り退がりで距離をとって、遼遠を後方に放り投げる。
「これじゃあ、拉致が開かないな」
レイヴンはそう言って背に携えていた名弓<放琉>を取り出した。
琉璃色に輝く弓、それはセキサイでさえも心を奪われるほど美しい。
その隙にレイヴンは渾身の闘矢を放った。
その闘矢の輝きも身体が吸い寄せられるほど美しいが、セキサイは独自のメンタルコントロールで正気を取り戻し、身体を横に回転させ回避した。
そして、同時にセキサイは2本だけ携帯していた棒手裏剣を投げる。
レイヴンはそれを弓で払い落としたが、その隙にセキサイが剣の間合いまで距離を詰めていく。
完全に斬ることができるタイミングだが、レイヴンが一本の矢を虚空に向けて放った。
そして、セキサイの袈裟斬りと斬り返しが決まり、レイヴンの身体が4つに切断される。
しかしその分かれた身体が突然、靄のように消え、放琉だけはセキサイの後方に向かって勢いよく引っ張られていった。
その方向にはレイヴンが立っており、引き寄せられた放琉をキャッチしていた。
「転矢、ただの目眩しだよ」
レイヴンは言った。
<転矢>
己の実体を乗せて矢を放ち、その方向に移動する弓使いの素質の奥義である。
その後しばらく、レイヴンとセキサイの睨み合いが続いた。
弓の間に合う距離でもあり、一歩深く踏み込めば剣の間合いにもなる絶妙な距離感。
先に仕掛けた方が隙を作ることになるだろう。
セキサイから見たレイヴンはまるで珠のようだった。
綺麗な球体。
取っ掛かりの無い珠は、どこから崩していけばいいかわからないのだ。
(俺と同類。よもや・・・)
セキサイがそう言いながら、レイヴンを軸にして円を描くようにゆっくりと足を運んでいく。
きっかけがなければ、どちらも動くことはないだろう。
だから、何かアクションを起こさねばならない。
セキサイの足運びにはそういった意味が込められていた。
それに対し、レイヴンはセキサイから目を離さずじっとしていた。
実は戦況が膠着することで得をするのはレイヴンの方だからだ。
美しい放琉の輝きは常にセキサイの目に映り、注意を散漫にしていく。
レイヴンは頃合いをみて矢筒に手をかけた。
そして、セキサイはその隙に間合いを詰めるがまだ動かない。
レイヴンは4本の矢を指に挟んで引き抜いた。
その瞬間にセキサイは目にも留まらぬ二連撃を浴びせ、レイヴンの残盾を破壊した。
(あと一刀で奴の命に届く・・・)
しかしその瞬間、レイヴンが飛び退き様に放った1本の矢に対応できなかった。
その矢は転矢。
セキサイの後方に移動したレイヴンは、すぐにセキサイへの牽制に放った一矢と、さらにセキサイの後方に一矢を放った。
セキサイはすぐに振り向いて、牽制の矢の方を対応するしかない。
セキサイがさらに背後に移動したレイヴンの方を振り向くと、レイヴンは闘矢の溜めに入っていた。
(ここが最も大きな隙)
セキサイはすぐに地面を蹴り、レイヴンに斬りかかる。
レイヴンは溜めを中途半端にして、セキサイに向けて最後の矢を放った。
だが、中途半端な闘矢くらい難なく払い落とすことができる。
セキサイは闘矢を軽々払い落とすと、そのまま次の斬撃に移行した。
しかしレイヴンの手にはなぜか遼遠があり、すでに突きの体勢を作っていたのだ。
レイヴンは先ほど放り投げた遼遠の近くに転矢し、溜めに入る前に素早く、弓の弦に遼遠を引っ掛けて自分の手元に置いていたのだ。
レイヴンの狙いはセキサイの攻撃に合わせて先に攻撃をすることだった。
魔鋭としての強靭な身体と圧倒的な技量を持つセキサイを、その最大の瞬間でしか倒せないとレイヴンには分かっていた。
セキサイは攻撃の動作に入っているため、防御は完全に封じられている。
次の瞬間、遼遠がセキサイの胸を貫いていた。
(やはり・・・)
セキサイが悶えながら後ずさる。
レイヴンの正体には見当がついていた。
セキサイが剣を教えた者で生きている者はただ1人。
高弟のムネヒロだけだ。
しかし、生死が定かでない者でいえばもう1人存在している。
「さらばだ。セキサイ・・・」
レイヴンは悲しげな表情でセキサイを見ていた。
「ふふ・・・その肉体で良く・・・」
セキサイは笑った。
「最後があなたで良かった・・・姫・・・」




