第六章「帝都の防衛」5
一方で東から来る刃の魔鋭セキサイ軍に備え、皇帝たちは逃走の準備をしていた。
まずは国民を逃し、足止めの兵約5000を帝都に残して撤退する。
皇帝の護衛は深淵弓のアンソニーと王の側近クロスという騎士、そしてわずか100の兵で構成されていた。
セキサイの剣士軍団はおそらく50人以下だが、セキサイが育て上げた最強の剣士たちであり、100倍の兵数差など軽く超えてくるという判断である。
そして、すでに皇帝たちは帝都ブレインクリーンを捨て、西の荒野を行軍していた。
「マモルはさすがに間に合わなんだか・・・」
皇帝は呟いた。
「はい・・・しかし炎の魔鋭の方に当たってくれただけ、まだ良かったかもしれません」
騎士クロスはそう言って皇帝を励ました。
刃と炎は魔鋭の中でも戦闘能力に優れている。
刃は個の戦闘を得意としているが、炎はまるで災害の様な力を持っていた。
集団戦であれば炎の方が明らかに厄介である。
「王様!後方からセキサイの部隊が!」
突然1人の兵士がそう叫ぶ。
なんと、セキサイは自分を含めた5人で精鋭部隊を構成し、帝都の防衛を穿ち抜いて追ってきていたのだ。
そして先陣を切るセキサイの剣が、必死で喰らいつく皇帝の護衛兵を瞬時に薙ぎ倒し、そのまま皇帝目掛けて突っ込んでくる。
「くッ、させん!」
アンソニーの深淵弓とクロスの剛剣がセキサイに襲いかかるが、それをセキサイは霞のようにいなして、とうとう皇帝に追いついてしまった。
「ここまでか・・・」
皇帝が護身用の剣を抜いて構えた瞬間、セキサイの一閃によって皇帝の首は野に転がった。
「まさか、終わったのか・・・」
アンソニーは絶望した。
この瞬間、人間は魔物に敗北したのだ。
残りの兵をセキサイの弟子たちが
相手する中、セキサイは将軍格であるアンソニーとクロスの方に振り返る。
「見ての通り、お前たちの王は死んだ。これより表の世界も我々魔鋭が支配する」
セキサイのその言葉にクロスは激昂し、すぐに刃を振るったがムネヒロが割って入り、軽々とそれを止めた。
「セキサイ先生の高弟。このムネヒロがお相手しよう」
クロスの相手をムネヒロに任せたセキサイは、アンソニーの方に視線を向けると彼はすでに泣いていた。
「お前は戦場に居ていい器ではないな」
呆れたセキサイはそう言ってアンソニーを斬ろうと思ったが、第三者の気配を背後に感じその方向に意識を向ける。
「人間はまだ負けちゃいない」
そこには総髪の忍び風の男が刀を抜いて立っていた。
ヨモギザワである。
「なるほど忍者か」
「確かに皇帝は死んで時代は変わる。だが、キリングハートの呪縛が解けた俺の時代はこれから始まるんだよ」
ヨモギザワはセキサイにそう言い放った。
「キリングハート・・・奴を倒したのはマモルとかいうあの男・・・」
セキサイはそう呟いて、酒場で会ったマモルという強烈な存在を思い出していた。
「あいつが来るまで足掻かせてもらうぞ」
ヨモギザワは4人に分身し、四方からセキサイを取り囲んだ。
「ふふッ、見事な術だな」
セキサイは言った。
4人の分身が狂ったようにセキサイに襲い掛かり、セキサイはそれを最小限の動きで躱している。
しかし、キリングハートの呪縛その心のしこりが解消されたヨモギザワの術は、最高水準にまで昇華していた。
4人のヨモギザワが密集し、さらに1人づつの分身を生み出す。
8人の影となったヨモギザワの8回の時間差攻撃が、セキサイの身体を切り刻んでいく。
「やったか!?」
近くで見ていたアンソニーは思わず叫んだ。
しかし、違った。
「分身だ」
ヨモギザワが切り刻んだのはセキサイが生み出した分身だった。
そして、すでにセキサイはヨモギザワの背後に回っている。
「愚かな。せめて夜であれば忍者であるお前にも勝機があったものを」
「ふふ、それでも俺は負けていただろう・・・」
ヨモギザワはむしろ満足していた。
最強の魔鋭にここまでの賛辞を贈られたことに。
そして、ヨモギザワは安堵している。
人間にはまだ、2人の英雄が残されていると。
だが、この中の誰一人として気がついていない。
すでに英雄の1人がここに来ていることに。
なんと、セキサイの手から刀が溢れ落ちたのだ。
「何ッ!?」
これにはセキサイも驚いた。
その刀は一つの指輪と共に空中に浮かんでいる。
そこにはまるで、透明人間がそこに存在しているかのようだった。
「剣技、刀剣取り・・・」
徐々に透過していた何者かのその実体が、色を帯びてくる。
紫髪の女性冒険者が姿を現した。
「レイヴン・・・!」
ヨモギザワとアンソニーは思わず呟いた。
レイヴンが指輪を外す。
「色蜥蜴の指輪。一定時間透明になれる便利な代物だよ」
レイヴンはそう言って色蜥蜴の指輪をどこかに放り投げた。
「お前がムネヒロとブモンが言っていた紫髪の冒険者か」
「いかにも」
セキサイの問いにレイヴンは静かに答え、奪った刀を正眼に構えた。
(刀剣取り・・・我が道場の技、あの時に盗んでいたのか・・・となるとあらかじめ、こいつは俺との戦いを視野に入れていたことになる)
セキサイはそう思った。
そうでなければ、この最強の剣士が命である刀を簡単に奪われるはずがない。
そして、奪われたのは名剣の1つ<遼遠>であり、レイヴンはそれを盗んでセキサイの力を削いだことになる。
セキサイは仕方なく腰に差していた予備の刀を抜き放った。
「気をつけろレイヴン!セキサイは今、世界で最も強い男かもしれねえ!」
ヨモギザワは声を荒げた。
しかし、レイヴンは不適な笑みを浮かべる。
「ふふ、私もこの戦いに随分慣れてきたからな・・・」




