第六章「帝都の防衛」4
一方でマモルは北から来る炎の魔鋭アンガーに矢を射ようと弓を引いていた。
アンガーとの距離は1000メートルくらい離れているだろう。
しかし射る前に、一本の矢がマモルの足元の地に突き刺さる。
それと同時に脳内に直接声が響いた。
「人間よ。貴様良い弓を持っているな」
エコーがかったドスの聞いた声だった。
「何だッ!?」
「ふふ、驚いただろう。秘技、<声矢文>」
もう一本の矢が地面に突き刺さり、やはり脳内に声が響く。
矢の飛んできた方向である北にはアンガーが居る。
つまりアンガーは声矢文という技で声を飛ばしてきているようだった。
(俺もやってみようか)
マモルはそう思い、声を乗せたつもりで2本の矢を放った。
「バカ」「アホ」
「実に人間らしい底辺の侮辱だな。しかし、お前も声矢文を使えるとは驚いたぞ」
アンガーの放った矢から声が返ってきた。
どうやらマモルの声矢文は成功したらしい。
それは弓使いの素質を使いこなせている証拠だった。
とりあえず、これでアンガーとの意思疎通が可能になったわけだ。
(炎の魔鋭アンガー。奴も弓使いのようだな)
弓使い同士の戦いに、マモルは腕が鳴る思いだった。
しかしここで背後で足音が鳴り、後ろを振り向くと帝都の方から慌ててやってくる伝令が見えた。
「今度は東から刃の魔鋭セキサイの軍が現れたとの報告です!」
「何だと!?」
さすがにマモルも驚いた。
三方向から魔鋭が攻めてくるなど、マモルだけではとても防ぎきれない。
「現在、守備に徹していた帝都の戦力を総動員して食い止めていますが、いつまで持つか・・・」
(これは急がねえとな)
だがマモルはこんな状況でも、全ての魔鋭を倒すチャンスが回ってきたと考えていた。
だから、魔鋭と矢文で遊んでいる暇はないと思っている。
「アンガー。どうやら帝都の尻に火がついたみたいだ。早くケリを着けようぜ」
「俺としては人間との会話に興味があったんだが、残念だ」
矢文での会話を終えると、2人同時に弓を引いた。
先にマモルが闘矢の溜めを終え、矢を放つ。
矢が纏う闘矢の輝きが大きな龍へと姿を変え、アンガーの方へ向かっていった。
「弓矢というものは個を相手にするより、群を相手にする方が適している。ましてやこの距離では当てるのに一工夫必要だろう」
マモルのもとにアンガーの声が届いた。
龍の輝きが消えている。
どうやら避けられたらしい。
そして次の瞬間に辺りが真っ赤に染まった。
マモルが上を見上げると、まるで炎のカーテンのようなものが空を覆い、それが津波のように押し寄せてくる。
「名弓<連火>は俺の手にあってこそだ」
アンガーがそう言い終えると、辺りは火の海と化した。
「熱ッ・・・」
直撃は避けたマモルだが、永遠と燃え続ける炎に取り囲まれ、体力を奪われていく。
そして第二波。
マモルは防御の素質によって、直接の被弾を避けてはいるが、よりいっそう燃え広がる大地に息もできない。
そして徐々に皮膚がチリチリと音を立てて焼けていく。
(俺は死ぬのか・・・?)
残盾などとっくに効力を失っている。
しかし、マモルはこんな状況であっても、行き詰まった元の世界で生き長らえるくらいなら、ここで死ぬのも悪くないと思えてしまった。
ある意味、諦めの心境に変化している証拠だろう。
圧倒的な力の差だが、せめて一矢だけでもアンガーに喰らわせてやりたいと思っている。
しかし、呼吸ができなければそれどころではない。
(言うことを聞け。俺の身体ああああッ!)
しかし、ここで包み込む赤い光が・・・
それは防御の素質が開花した証。
そして・・・
後ろに確かに感じる仲間の祈りが・・・
「チェリッシュ!」
マモルは叫んだ。
チェリッシュは炎に包まれながらも、マモルの背後で祈りを捧げていた。
まさしく勇者への祈りだった。
「チェリッシュ!お前死ぬぞ!?」
「あなたは充分に役目を果たしてくれています。私の命を捧げてもいいほどに・・・」
チェリッシュは身体から火を噴きながらも、意識を保とうとしている。
「実は私は勇者を一目見たことがあります。そして、あなたに出会い驚いたのです。あなたはあまりにも勇者に似ていた・・・」
チェリッシュが放つ赤い光が輝きを増していく。
「きっとこの力は勇者に与えられたものです。魔鋭を倒す者のために使えと言われたような気がします・・・」
「チェリッシューッ!」
マモルは再び叫んだがチェリッシュの身体はすでに燃え尽きていた。
「新たなる勇者よ・・・」
しかし、マモルの身体を包み込むように発生した赤い光が、マモルの防御の素質の中に入り込み今も生き続けている。
耐火再生の祈り。
燃えた瞬間から回復するこの祈りの再生力なら、この炎の中でももう大丈夫だろう。
これは勇者を信じ続けるチェリッシュの努力が生み出した奇跡だった。
再び火の矢の弾幕が空を覆う。
しかし今のマモルはむしろそれを迎え入れようとしていた。
次々に火の矢を弓で払い退けていた。
まるで火の矢の雨の中で、己の防衛本能を研ぎ澄ますように。
(もし自分が弦であれば、矢など怖くはない)
マモルは矢を払い退けるのではなく、実は弦で弾いていたのだ。
そしてマモルは、火の矢を弾きながら自分でも気づかぬうちに回転していた。




