第六章「帝都の防衛」3
ブモンの振り下ろしがランナーセカンドの額を割り、皮膚の裂け目から血が流れた。
しかし、傷は皮を切り裂いた程度に浅い。
とりあえず、ブモンは飛び下がると再び剣を構え直した。
「踏み潰されたいか貴様!」
何者かの甲高い声がする。
初めは誰の声か分からなかったが、ランナーセカンドしかそこにいない。
(喋った!?)
ブモンとアンソニーは驚いた。
もしかしたらこのランナーセカンドは学習能力の高い個体なのかもしれない。
「だったらどうだっていうんだよ!」
ブモンは自分の思いに突っ込みを入れながら剣を振り上げ、ランナーセカンドに向かっていった。
しかし、ここで強風が吹き荒れる。
ブモンはハッとして、風に押し流されるまま身体を横に移動させた。
ランナーセカンドは目にも止まらぬ速さでブモンに突進を仕掛けていたのだ。
あのまま斬りかかっていたら、身体がバラバラに吹き飛ばされていただろう。
(なんという初速だ・・・)
まるで初速バーストを彷彿とさせる速さに、ブモンは驚いた。
ランナーセカンドも避けられると思っていなかったようで、通り過ぎたブモンへ振り返ると様子を探るようににじり寄ってくる。
ブモンの戦法は速度の素質の能力、加速である。
加速とは戦闘中にボルテージを上げるように、徐々に行動速度を限界速度まで上げていく能力である。
つまり持久戦によって効果を発揮する。
初速バーストとは対極の戦い方と言えるだろう。
(とにかく足を慣らさなければ)
そう思ってブモンはステップを踏んだ。
もちろん次の突進に備えて、右手で持っている剣に左手を添え、防御の姿勢を作っている。
「こざかしい小鬼め!」
ランナーセカンドはそう言うと、身体を一瞬起こし二足歩行の格好になると、大きな翼を広げ、上体を戻すと同時に翼を一気に前方に向けた。
恐ろしい風圧が砂塵を巻き上げ、何もかもを飲み込んでいく。
ブモンも一瞬のことで理解が追いつかず、ただ風圧に耐えることしかできなかった。
そして、砂煙の中に巨大な影を見た時にはすでに遅かった。
「ギャッ・・・!」
ブモンは悲鳴すら上げられぬまま、ランナーセカンドの体当たりによって数十メートルも跳ね飛ばされ地面に落下する。
傷だらけなのは言うまでもない。
しかし、ブモンは生きていた。
「お前のおかげで、なんとか助かったぜ・・・」
震えながらどうにか立ち上がったブモンは、
アンソニーに向かって言った。
実はランナーセカンドがブモンにぶつかる直前、深淵の矢を射ており、急ブレーキがかかる形になったのだ。
「ようやく身体があったまってきたぜ!」
満身創痍、常人なら絶望する状況だがブモンは逆に燃えていた。
ちなみに、この性格はマモルにも共通する部分である。
ブモンはライジングフロウを振り回しながら、ランナーセカンドに斬りかかった。
しかし、巨大な前脚による攻撃に阻まれてしまう。
ブモンの加速は、すでに限界速度に達していた。
それどころか、その限界速度さえもランナーセカンドとの攻防の中で超えていく。
(決定打に欠ける)
ブモンは思う。
ランナーセカンドの体表は分厚い皮と筋肉で覆われており、それを分厚い骨で支える鉄壁と化している。
それはマモルとレイヴンの攻撃が通らなかったほどの硬さだ。
(もはや、最後の札を切るしかないだろう)
ブモンはそう思い立つとランナーセカンドの前脚の蹴りを躱しながら数十メートル飛び退き上段に構えた。
「貴様の攻撃など痒いんじゃ!」
痺れを切らしたランナーセカンドが子供のように叫びながら、全速力でブモンに飛びかかる。
恐ろしい風圧と殺気。
しかし、ブモンはそれを待っていた。
「初速バースト」
ブモンも大地を蹴り飛び出す。
限界速度を超えてからの初速バースト。
そして、その速度にランナーセカンドの推進力が加わる。
一瞬にしてブモンとランナーセカンドの身体は交差していた。
「グググッ・・・」
ブモンの手にライジングフロウはない。
それどころか左手の指は変形し、右腕は完全にイカれていた。
あの速度で衝突したのだ当たり前だろう。
そして、もう一方のランナーセカンドは・・・
「あ!」
アンソニーは声を上げた。
彼が見ていたのは、頭が頭頂から顎にかけて真っ二つに割られているランナーセカンドだった。
その斬撃はランナーセカンドの腹辺りまで達しており、ライジングフロウはそこに突き刺さったままになっていた。
「まさか、生き残ったのか・・・」
アンソニーは安堵するとまた泣いた。
「アンタは英雄だ!」
アンソニーはブモンに駆け寄ったが、すでに彼は座ったままで気絶しているようだった。
(無理もない。ふふ、こんな悪鬼が脚の魔鋭を倒したなんて皆信じないだろうな)
アンソニーはそう思いながら、すぐに救護要請をした。
その後、急いで皇帝の居る宮殿に駆け込むと、アンソニーは最弱の魔物である悪鬼が魔鋭を倒したという事実を怒鳴りつけてまで信じさせたと言われている。




