第四章「分体集め」ラスト
しかし、キリングハートはセリアの猛攻に全く動じていない。
(切断面がすぐに再生していく)
マモルはセリアとキリングハートの戦いを冷静に観察していた。
キリングハートが金色の爪を振り上げ、セリアに向かって振り下ろし、それを盾で防いだセリアだが圧倒的な力に吹き飛ばされてしまう。
(やはりあの分体の部分は、本体の一部として考えないほうがいいな)
マモルはそう考えて、金色の核目掛けて矢を放った。
マモルの装備はまだ自動装填の勇弩と盾である。
ノザワ老人は弓の作成を約束し去ってから、マモルの前に一度も姿を見せていないのだ。
もっともマモルはノザワに対して、そこまでの期待をしているわけではないが。
マモルの矢はキリングハートのゲル状の肉に突き刺さり、威力を殺され核に到達する前に止まってしまった。
前衛剣士と弓使い。
現時点での有効な攻撃手段はない。
せめて魔法でも使える者がいれば、戦いの幅が広がったかもしれないが、現実派の中に戦闘ができる者はいなかった。
小屋にあった分体は約100個。
他は別保管されて無事だが、ここでキリングハートから逃げれば、その場所を特定されるかもしれない。
つまり、逃げることもできなかった。
今度はマモルに向かって金色の爪が襲いかかり、どうにかそれを盾でいなして、後ろに飛び退がる。
(さっきほどではないが、行動速度が速い)
キリングハートは分体と一体化するたび、重みでスピードは落ちるようだが、分体を巧みに操ることでそれなりのスピードを維持している。
鎧を装備したマモルよりも素早かった。
「早く貴様らの死を見せてくれい!」
今度はマモルに的を絞ったのか、金色の爪の自在な攻撃がマモルに襲いかかる。
連撃の一回がマモルの腹部を抉り、残盾で無効化された。
(このままでは負ける)
マモルは思った。
さらに一回の斬撃で残る残盾も消し飛んだ。
マモルが撤退の提案をしようとした瞬間、目の前に割って入る者がいた。
セリアである。
金色の爪と盾がぶつかる金属音が聞こえ、セリアは後ろのマモルもろとも吹き飛ばされてしまった。
「おいおい、無茶をするなよ」
マモルはそう言って覆い被さっているセリアを起こした。
血が流れている。
「セリアッ!?」
盾で上手く防いでいたように見えて、金色の爪はセリアの肩から腰にかけて大きく斬り下げられていた。
セリアはすでに自分の死を理解していた。
感じている痛みが薄れていくように、見ている世界も霞んでいく。
セリアにはマモルがやられそうな瞬間、殺される兄の姿がダブって見えた。
(ようやく苦しみから解放される)
セリアはそう思いマモルを見つめていた。
その間マモルは何か言っているが、うまく聞き取れない。
マモルはセリアをそっと寝かせ、立ち上がった。
「負けられねえ・・・」
マモルは怒りに震えていた。
「負けてたまるかこらあああッ!」
マモルは弩を連射した。
(俺が打算的だったばかりに・・・)
マモルはやっと気がついた。
負けることを考えて勝つことはできない。
そんな心の迷いのためにセリアは死んだ。
マモルの放った矢は、虚しくキリングハートの肉に吸収される。
しかし、マモルは止まらない。
マモルはセリアに命を託されたと受け取ったからだ。
(守っている暇があるなら、奴の肉を抉れ)
ここからは命を賭けて、必死に勝利を掴みにいくだけだ。
でなければ、犠牲になったセリアが報われない。
マモルはキリングハートの高速の攻撃を盾で受け止め、隙あらば肉に矢を打ち込んでいく。
もはや、この戦いはマモルにとって損か得かの次元にはない。
朽ち果てるまで、キリングハートを追い詰めていく。
その精神からマモルの防御も冴え渡っていた。
(こいつら、なんなんだ・・・?)
キリングハートは思った。
キリングハートの目に映るセリアは尋常ではない気迫だった。
しかしそれはあくまでも小物の気迫だ。
相手にはしない。
だが今はその気迫がマモルに乗り移り、それが増幅していく。
(なんだ、この粘っこい意地は・・・)
キリングハートは焦り始めていた。
そして、マモルは気がついていない。
キリングハートの肉の再生がだんだん遅くなっていることに。
キリングハートの肉の再生は無限ではなかった。体力か魔力か、何かしらのリソースを消費している。
マモルは修羅場の中で、ふと冷静さを取り戻すと、キリングハートの肉が大幅に縮小し行動速度も大きく低下していた。
我も忘れ格闘していた時間は約4時間。
とんでもない泥試合である。
(今なら核に当たる)
マモルは金色の核に狙いを定め、矢を放った。
だが、矢は核に到達し弾かれた。
「そんな物で俺の核は破壊できん」
キリングハートは息を切らしながら嘲笑った。
キリングハートを倒す術は鼻から無かったのだ。
キリングハートはすぐに反撃として爪の横薙ぎを放ち、それを飛び退がって回避したマモル。
しかしその着地点で背中にそっと触れる、大きな人の感触があった。
例の大柄な老人ノザワが立っている。
「待たせたな。これが例の物だ」
ノザワはドリルのような巨大な矢と虹色の弓を持っていた。
「<魔穿・虹>、奴にギリギリまで近づいて射てみろ」
マモルはすぐにそれを受け取り、キリングハートに向かって駆け出した。
ギリギリと捻れながら矢が引かれる感覚。
なんと矢が弦の中を通っており、螺旋状の溝が彫られていた。
キリングハートの攻撃を掻い潜り、核に迫ったマモルは渾身の闘矢を放った。
矢は回転しながら飛び出して、核を削り取っていく。
「や、やめろおおおおおおッ!」
キリングハートの断末魔は金属同士が擦れ合う音で掻き消され、割れた。
「ああああああああああッ!」
矢が貫通し、キリングハートの肉は紫色に変色して蒸発するように消えていった。
カランと金色の爪だけが床に落下する。
「勝った・・・」
疲れ切ったマモルは倒れ込み、そのまま気を失った。




