第四章「分体集め」5
「なんだって!?」
マモルは驚いた。
確かに妙な老人だが、まさかそんな大者だとは思いもしなかった。
「カラクは合理的すぎる。神器は偶然や不合理の中でしか生まれないことをわかっていない。あいつの武器では魔鋭を倒せない」
ノザワはそう言って、マモルの手元に転がっているジュエルスピアを拾った。
「将来、人間と魔鋭の戦いは避けられないと思ってる。そうならば、武器を作る前に敵を研究する必要があるだろう」
それでノザワは分体を欲しがり、チェリッシュに断られてテーブルですねていたらしい。
「お前達と過ごし、分体の性質は大体わかった」
ノザワはそう言ってマモルを見つめた。
「勇者よ。俺に武器を作らせてくれないか?」
「悪いが見返りはないぜ?」
マモルがそう言うと、ノザワはジュエルスピアを突き出した。
「この槍は今、偶然俺の元に辿り着いた。弓として生まれ変わるために」
それだけで十分だ、といわんばかりにノザワは言い終えて去っていった。
偏屈な老人がマモル達を無視して一点を見つめ続けていたのは、意地もあるが武器の構想を脳内で広げ続けていたようだった。
とりあえず、マモルはノザワを信じてみることにした。
数日後、マモル達が確保した分体は400体を超えていた。
キリングハートの身体が1000体の分体でできているのならば、ほぼ半分集めたことになる。
魔物の襲撃もたびたび起こるが、タクティクスほど強力な魔物が現れることはなかった。
目立った異常はない。
(キリングハートの焦る姿が目に浮かぶな)
マモルは水路に身を投げる分体を眺めながらそう思い、その日も足腰の鍛錬を続けていた。
キリングハートは分体が帰ってこないことに異変を感じているはずだった。
既に別の魔物からの報告を受けている可能性も高い。
(さて、どうなる)
このまま分体を捕らえ続ければ、最後にガリガリのキリングハートが現れるのか、それとも折れて分体を送り込まなくなるのか、今後のことは誰にも予想できなかった。
その時、マモルの視界に水路を流れる金色の細長い何かが映る。
「ギヤアアッ!」
その後、地下の方から現実派の尋常でない叫び声が聞こえてきた。
「何だ?」
マモルは急いで地下への梯子を降りると、そこには血を流して倒れている現実派の遺体と、人型となった分体が立っていた。
分体のビンが破られている。
マモルに気がついて振り向いた人型分体の顔には、鬼のような金色のお面が付けられており、緑色に透き通った肉体の胸の辺りに核のような金色の玉があり、さらに右手の先から突き出るように骨のような金色の刃が備えられていた。
人型分体がその金色の刃を掌を開くようにすると、5本の刃が重なっていたことに気付かされる。
それはまるで死神の鎌のように指から生える巨大な爪だったのだ。
「貴様、知っているぞ」
人型分体はマモルを指して、カタコトで話しかけてくる。
「俺の愉しみを邪魔した奴だ」
「キリングハートだな」
マモルがそう言うと、キリングハートは高速で移動してマモルに襲いかかってきた。
大きな爪の攻撃を間一髪で防いだマモルだったが、キリングハートは既に地下から這い上がっていた。
「待て!」
マモルは急いでそれを追った。
キリングハートの狙いは小屋にある分体だろう。
今すぐにでも分体と一体化したがっている様子だ。
(おそらく奴の金色の部分が弱点だ)
マモルは特に胸にある金色の核、心臓部が弱点だと仮説を立てた。
つまり肉の薄い今がキリングハートを倒す絶好の機会だった。
しかしキリングハートは凄まじい速度で、追うマモルを引き離していく。
(この重装備では追いつけん)
だが、小屋の方にはセリアが待機している。
セリアが少しでも時間を稼いでくれれば、まだ分体との一体化は阻止できるかもしれない。
やがてキリングハートの背中は見えなくなり、マモルはそれでも必死に茂みをかき分けて走った。
マモルが駆けつけると、小屋の前では盾を構えたセリアと身長約2メートルで体重200kg以上に肥え太ったキリングハートが対峙していた。
「セリア!大丈夫か!?」
「ええ」
セリアは振り向かずに答えた。
「実に良い・・・」
キリングハートは呟いた。
「キリングハート!なぜ悪事を働く!?」
セリアの怒鳴り声が響く。
キリングハートはセリアの兄の仇。
当然の怒りだった。
「殺人が好きだから」
「何ッ!?」
「逆に殺人の邪魔をして楽しいかね?」
「そういう問題ではないッ!」
「悪いが2000年以上も生きていると一般の感情がわからなくなるのだよ。兄の死がそんなに悲しいかね?俺は不老不死になって、死の美しさを知った。美しい死に出会うために表の世界に干渉する」
キリングハートがハンドケア町の町長を操り優秀な冒険者達を死にいざなっていたのは、人間の勢力を縮小させるためではなかった。
ただ、人間の死という情報が欲しいだけだったのだ。
「貴様は生かしておけんッ!」
セリアは叫びながらキリングハートに向かっていった。
(こいつは人間の心を失った、言葉を話す怪物だ)
セリアはそう思い、走りながら剣を抜く。
そしてキリングハートに斬りかかったセリアは、袈裟斬りから斬り返してそのままキリングハートの緑の肉を滅多斬りにした。




