第四章「分体集め」4
工事開始から1か月が経過した。
分体捕獲トラップはすでに試運転の段階に入っている。
幸い近くに川が流れていたため溝に流し込む流水の確保は苦ではない。
1番の問題だったのは排水だった。
地下に送った流水をどこに持っていけば良いのか。
マモル達は仕方なく湖まで下水道を作り、水を流した。
試運転の結果は良好である。
裏の世界から侵入した分体は、水路に囲われた島から行き場を失い、やがて水路を飛び越えようとし次々に飛んだ。
しかし水路の幅は3メートル。
体長10センチメートルの分体が飛び越えられる幅ではない。
水路に身を投げた分体は、排水口に吸い込まれるヘドロのように地下室へと送られ、木や竹で作った網にこし取られて地下室へと溜まっていった。
マモルも実際に分体に触れて瓶詰めにする作業を行なった。
(これはスライムのおもちゃだな)
ただ、スライムよりも芯がしっかりしている。
跳ね回るその姿はゲル状のウサギと言っても良いかもしれない。
作業は勇者信仰現実派の者達と交代で24時間休みなく行われる。
マモルが休憩中に小屋の前で足腰の鍛錬を行なっていると、慌てている様子のチェリッシュが森の方から駆けてきた。
「大変です!捕獲トラップが魔物に襲撃されました!」
マモルは待ってましたと言わんばかりに、装備を抱えて飛び出した。
現場には四足歩行の獣や白骨化した鳥類、ドス黒い人型で構成される20体の魔物の群れがセリアに襲いかかっている。
「俺も加勢する!」
マモルはそう言いながら盾を構え群れに突進した。
まずはセリアに気を取られている人型の頭部を盾で殴りつけ、鳥類に弩を乱射する。
続いて群がる獣や人型には盾を振り回し、零距離の弩を連射した。
それを見ていたチェリッシュも荒々しさに驚いている。
「あれは弓使いというよりも狂戦士だな」
チェリッシュが声のする方を見ると、老人が仁王立ちして戦闘を見ていた。
そんな調子で魔物を全滅させると、森の奥から人型の魔物が現れる。
その人型は宝石の様な虹色の石が身体中にびっしりと埋め込まれ、宝石の槍を携えた戦士だった。
「誰だ!?」
マモルはそれに対峙して怒鳴った。
「私の名はタクティクス。キリングハート様の右腕ですよ」
宝石の魔物は槍の刃を舌で舐めながら言った。
「出てきやがったか」
マモルはニヤリと笑う。
「驚きましたねえ。こんな大胆な物を作って我々を挑発してくるなんて。死にたいですか」
タクティクスもマモルに向かって槍を構えた。
マモルとタクティクスは同時にお互いに向かって飛び、マモルの盾とタクティクスの槍が勢いよくぶつかって、激しい音と共に2人はよろめいた。
「なんと荒々しい・・・」
タクティクスはそう呟いて、槍を持っていない方の手の人差し指をマモルに向けた。
〜ジュエルビーム〜
人差し指が虹色に発光し、光線となってマモルの眉間を正確に撃ち抜いた。
マモルはそのまま倒れ込んだ。
「マモルさん!」
チェリッシュが叫ぶ。
しかしマモルはすぐに起き上がった。
「なるほど残盾ですか。ならばこの槍、ジュエルスピアの連撃で仕留めにいくしかないですねえ」
マモルはすかさず弩を構えて、タクティクスの腹を狙って連射した。
命中した矢は火花を散らしながらどこかへ弾け飛んでいく。
(こいつ防御タイプか)
マモルは舌打ちした。
「自前の防御力があれば、残盾などという小細工は必要ないんですよ!」
タクティクスが槍を構えて突進してくる。
そのまま放たれた突きは盾でどうにかいなしたが、瞬時に旋回させた柄の殴打がマモルのこめかみを打ち抜く。
「グワッ!」
これでマモルの残盾は0になってしまった。
それを悟ってかタクティクスがニヤリと笑い、大きく踏み込んで放った連続突きがマモルを襲う。
〜ジュエルファイナル〜
「チャーーーッ!」
タクティクスの咆哮はまさに魔物のものだ。
しかし、ここからのマモルの防御は神がかっていた。
まさに防御の素質と言えるだろう。
マモルはタクティクスの連続突きを正確に盾で防ぎながら、弩を連射する。
放たれた矢はもちろん宝石の肌に跳ね返される。
「無駄ですよお」
タクティクスの猛攻は止まない。
「これならどうだ?」
マモルは弩を連射しながら、槍を持つ手の方に向ける。
激しい火花が飛び散る。
タクティクスが勢いよく左手を槍から放した。
「ぐうッ、こいつ指をッ!」
タクティクスの余裕ぶった口調が変わる。
マモルはその隙にタクティクスの顔面を盾で殴りつけ、槍を持つ右手に集中して弩を連射した。
「ギャーーーッ」
タクティクスの叫び声が響く。
マモルはすぐに槍を奪い取って、タクティクスの首を槍のフルスイングで切り落とした。
首を切り落とされたタクティクスの身体はやがて動かなくなった。
(強敵だった)
マモルは思った。
しばらくマモルが座り込んで戦いの興奮の余韻を感じていると、老人が近寄ってきた。
「なかなかやるな。だが言っただろう?そんなガラクタで奴らは倒せんと」
老人はマモルの弩、自動装填の勇弩を指差して責めた。
「あのな、爺さん。これは有名な武器職人が考案したものだ。そこらへんの安物武器じゃないんだよ」
「知ってるよ。それはカラクが作ったものだ」
老人は弩を拾って弄り回している。
「こいつの利点は無限弓を片手で扱えるという、ただそれだけのこと。まあ、人間との戦いには多少使えるがな・・・」
老人はそう呟いて、近くの木に弩を撃ち込んだ。
その振る舞いは武器に精通している者の扱い方に違いなかった。
「爺さん何者だ?」
「申し遅れたが、俺はノザワ。カラクは俺の弟子だ」




