第四章「分体集め」1
<登場人物>
・弓使いマモル
魔王に異世界転移させられた男。
しかし、魔王の仲間として召喚されたわけではないので、自由の身だ。
弓使いと防御の素質を持っている。
・冒険者レイヴン
謎の紫髪の女性。
何を考えているかわからないが、マモルにいろいろ教えてくれる。
戦闘スタイル的に、おそらく弓使いと防御の素質を持っている。
・剣士セリア
魔鋭四将に殺された兄の復讐を誓う金髪の美女。
・刃の魔鋭セキサイ
魔鋭四将の1人、銀髪の魔物。
剣への探究心が高く、人間と魔物の剣術道場を開いている。
・死の魔鋭キリングハート
魔鋭四将の1人。
人間の戦力を削ぐため、人を操り悪事を働いているらしい。
皇帝といえども死の魔鋭の居場所については知らなかった。
しかし、マモルが<分体>という言葉を言った瞬間に皇帝の目の色が変わった。
そもそも分体とは何なのか?
この話は極秘らしい。
死の魔鋭、キリングハートはゲル状の身体をスライムのように引きちぎって分裂でき、それが分体と呼ばれている。
キリングハートは魔物の世界である裏の世界から、人間の世界である表の世界に分体を送り込み諜報活動をしているようだ。
現在は魔王が姿を消し、人間と魔鋭の関係は非常に微妙なものとなっている。
どちらかが大々的に攻撃を仕掛けてしまった場合、すぐに戦争に発展するだろう。
だが現に、死の魔鋭は分体を人間界に送り込んで悪事を働いており、一方で人間サイドは死の魔鋭の分体についての研究を進めていた。
つまり、水面下での戦いは続いているのだ。
現在、帝都の研究施設には6体の分体が保管されている。
しかし、それ以上に分体を捕獲して所有している人間が2人存在しているらしい。
マモルはその内の1人に紹介状を書いてもらった。
やがて謁見を終えたマモルは、レイヴンとアンソニーと再会を約束してそれぞれの道に戻っていった。
城から出てきたマモルをセリアは城門前で出迎る。
「装備を変えたのね」
セリアはマモルを見て言う。
「いろいろ試してみたくてね」
マモルは皇帝からの褒美、自動装填の勇弩を装備していた。
やはり弩では闘矢を使用することができないが、その代わり片手持ちである。
なので、左手に盾を装備することができるのだ。
(闘矢と連矢を犠牲にするが、防御特化を試すのも良いだろう)
マモルは<ベーシックシールド>という手頃で扱いやすい楕円形の盾を選んで皇帝から譲り受けていた。
早速2人は帝都の城下町に住んでいる分体所持者の居場所に向かった。
その男は<収集家のシン>と呼ばれる男で元々道具屋で大儲けし、現在は趣味でアイテム収集や交換をして暮らしているらしい。
指定された屋敷には大きな看板に希少品交換所と書かれており、扉を開けると壁中に剣や槍などの様々な武器が立て掛けられ、棚には古い人形と何かの目玉や臓器が入っている透明なビンがずらっと並べられていた。
「何かお探しか?」
部屋の中央には、ちんまりと老人が座布団に座っている。
マモルは紹介状を見せた。
「なるほど、キリングハートの分体か・・・」
シンは顎髭をいじりながら奥の部屋に入って行き、すぐに10センチメートルのビンを持って戻ってきた。
中には緑色の液体が脈打っている。
「これが、分体なのか?」
マモルは思わず聞いた。
「ああ。うちにはこれが12個保管してある。しかし、これはあまり持っていたいものではないな・・・」
「何で持っていたくないんだ?」
「普通に考えて魔鋭の身体の一部など持っていたくないだろう?逆探知されるようなことはないようだがな」
「じゃあくれよ」
「タダではやれんよ」
希少品には違いない、当然の反応だった。
どうやらキリングハートは、肉体を1000体以上に分けることができるらしく。12体消失したくらいでは気にならないらしい。
「わしより持っている者で言えば、南西の山の麓に<ガニエフ>という奴がいる。そいつは109体の分体を所持しているようだな」
「え・・・?」
マモルとセリアは絶句した。
人脈のある収集家でさえ12体しか分体を集められていない。
ガニエフの所有数は異常だった。
「流石に109体もの分体が消えたとなれば、キリングハートも怪しむのだろうな。ガニエフは1年ほど前から魔物に付け狙われ、街には住めなくなった」
「情報ありがとう。会いに行ってみるよ」
マモルは感謝して話を切り上げたが、せっかくなので良い弓はないか探していた。
「お前さん弓使いか。では、良い物を見せてやろう」
シンは奥の部屋に入って行き、縦長の木箱を持って戻ってきた。
そして、その中から茶色い龍を模したの弓を取り出して、シンはニヤリと笑った。
「これは三大名弓の1つと称される 龍飛砲だよ」
(まさか、放琉と肩を並べる龍飛砲がこんなところに・・・)
実質ヤブサメサバイバルでレイヴンに敗北したマモルは、名弓の1つ放琉を逃した。
魔鋭に対して通常兵器では分が悪い。
キリングハートと戦う上で、この龍飛砲はどうしても手に入れたい代物である。
「無理だとは思うが、これを俺にくれないか?」
「これだけは絶対に譲れない」
シンはただ自慢したかっただけのようだ。
マモルとセリアは希少品交換所を後にした。
「情報収集は順調に進んでいるわね。今日はもう夕食を済ませて、明日出発しましょう」
よく考えるとマモルはマイワールドに転移してから、激動続きでろくな食事ができていなかった。
食べた物といえば、よくわからない干した肉や野菜、川魚くらいのものである。
(戦闘と鍛錬に熱中しすぎていた。たまにはゆっくり食事を楽しむのも悪くないだろう)
セリアに連れられ辿り着いた飲食店は、この世界にしては清潔で高貴な雰囲気を漂わせている。
2人はカウンター席に腰を下ろし、マモルが辺りを探してみるがメニュー表などはない。
高級店はコース料理が基本のようだった。
まずはドリンクが運ばれてきた。
(天然のココナッツジュースみたいな味だな)
マモルにとって飲めないことはないが、元の世界の飲み物の方が断然飲みやすいと感じていた。
次に運ばれたのは白いゼリー状の物体だった。
「何だこれは・・・」
「これは、闘神牛という魔物のエキスを固めたものね。栄養価が高いみたい」
すでにメイン料理のようだが、付け合わせの野菜などもない。
恐る恐る口に運ぶマモル。
(う、うまいッ!)
濃厚な豚骨スープのような味がした。
しかし後半は口に運ぶたびに殴られたようなめまいがしてくる。
(マイワールドの人間はこんな激しい物を食べているのか・・・)
マモルがそう思って横を見てみると、セリアも妙な顔をしてそれを咀嚼していた。




