第三章「ヤブサメサバイバル」ラスト
矢は同時に放たれた。
煌めく流星のような2つの矢は宙で合致し、そのままランナーの右前脚に命中する。
しかし、突き刺さった矢は厚い皮に威力を吸収され、その脚の機能を奪うまではいかなかった。
「まさか、ダメなのか」
「いや、闘矢が不完全だった。もう一度行くぞ」
レイヴンが急かす。
ランナーはマモル達の敵意を感じ取っている。
それはもう、すぐにでも飛びかかりそうな雰囲気だった。
脚の魔鋭とも言われるランナーの走力は、馬の脚でも逃げ切れるものではない。
残るチャンスは一回だということはマモルも理解していた。
しかし、ここで忘れかけていたもう1人が声を上げる。
「俺が奴の脚を遅めよう」
アンソニーがいつのまにか並走していた。
「俺が深淵弓と呼ばれる由縁、それは心の隙間を作ることができるからだ」
「なるほど。その名、聞いたことがある。では任せたよ」
レイヴンはあっさりと承諾した。
アンソニーの深淵弓とは、弓使いの素質の突然変異とも呼ばれる異質なものだった。
マモルとレイヴンの闘矢、指を器用に扱い連続で弓を放つ<連矢>などの技術をアンソニーは使うことができない。
それどころか殺傷能力さえ無い彼の矢だが、射抜かれた者の思考にコンマ2秒ほど空白の溝を作ることができる。
つまり、実質その間は動きが停止する。
仮にアンソニーが1秒に1本の矢を放つことができるとすると、全体時間の1/5だけ動きを止められることになるのだ。
とはいえ、馬対ランナーではすぐに追いつかれるだろう。
「レイヴン俺に作戦がある」
マモルは言った。
「ランナーに突進しながら矢を放つ」
逃げながらの矢では、ランナーにダメージを与えられなかった。
それは逃げる分の速度、つまり離れる力分だけ矢の威力が軽減されたからだ。
ならば、逆にランナーに向かいながら矢を放つことで、ランナーの速度と馬の速度が矢の威力に乗るということをマモルは言いたかった。
つまり相手のパンチの勢いを利用するクロスカウンターと同じ仕組みである。
「それなら奴が全速を出すタイミングが良いな」
レイヴンはマモルの作戦を理解した。
アンソニーが時間を稼いでいる間に、マモルとレイヴンの打ち合わせは終了し、アンソニーに深淵弓をやめさせる合図をする。
それと当時にマモルとレイヴンは急旋回し、凄まじいスピードで襲いくるランナーに向かって突進した。
すでに2人の右手は輝いている。
マモルの残盾は残り1回。
失敗しても死ぬことはないが、馬は無事では済まない。立て直しは不可能となる。
しかし、その少しの心の余裕が今のマモルには良く作用していた。
2人の弓から放たれた光の矢は、見事に融合し、一瞬でランナーの右前脚を破壊した。
「ギヤアアアアアアッ!」
ランナーの左右を広がるようにマモルとレイヴンは回避し、振り返って様子を見守る。
片前脚を失って体重を支えることができないランナーは、そのまま掘に落ちてひっくり返った。
「ギヤアアッギヤアアッ!」
耳障りな叫び声が場内に響く。
マモルとレイヴン、少し離れてアンソニーが掘にハマってもがくランナーを見下ろしていた。
「勝ったのか・・・」
マモルは呟いた。
「奴はどうなるんだ?」
「あれではもう生きられないだろう。走れなくなったランナーは徐々に衰弱していくんだ・・・」
レイヴンはランナーを見つめながら答えた。
走れなくなった脚の魔鋭に、魔鋭としての価値はない。
脚の魔鋭、ランナーは死んだのだ。
魔鋭には勝った。
そして、新たな力を手にしたマモルだったが、レイヴンにはまだ及ばないことを痛感していた。
勝利と同様の敗北をマモルは感じているのだった・・・
その後の処理もあるため、ヤブサメサバイバルは終了した。
しかし、魔鋭を倒した功績は大きい。
マモルとレイヴン、アンソニーの3人には、そのまま城への出頭命令が下った。
そして、謁見の間にて。
玉座にはザ・王と呼べるほどのビジュアルの皇帝がおり、隣には側近の重装兵と、段差を数段下がった対面に右からマモル、レイヴン、アンソニーと並んでひざまずいて平伏している。
「よく来てくれた。面を上げてくれ。脚の魔鋭を倒すことは我々人類にとって緊急の課題であった。倒してくれたことに感謝する」
皇帝は玉座に座りつつ一礼した。
「特にレイヴン。間者からの情報では、そなたが最もこの件に尽力してくれたそうな。まるで勇者の再来のようだったと」
「いえいえ、買い被りすぎでございます・・・」
レイヴンは顔を伏せながら言った。
「ヤブサメサバイバルは中止となったそうだが、それではそなたらもつまらんだろう。レイヴンには唯一無二の名弓、放琉を遣わそう」
皇帝がそう言うと隣の重装兵が持ってきた縦長の木箱から、琉璃色に輝く弓を取り出した。
「この弓は完全なる自然物。威力もそうだが、惚れ惚れするような美しさはまさに奇跡と言えよう」
皇帝は放琉をじっくり眺めた後、段差を降りてレイヴンに手渡した。
「そなたがこの弓を使うのを見てみたいものだな」
「ありがたき幸せ」
レイヴンはそれを丁重に受け取り平伏した。
「マモルとアンソニー、そなたらも貢献してくれたことには変わりはないが、これほどの弓は朕といえども持ち合わせておらん。次点で高級な弓は<自動装填の勇弩>である。ぜひ、持っていってくれ」
重装兵が木箱をから取り出したのは、なんとクロスボウである。
(クロスボウかあ・・・)
自分で引かない弓に闘矢が適応されるのかマモルは不安だった。
「この弩は武器研究の世界的権威カラクが考案したものだ。替え弓に無限弓を使用し、自動装填のため非常に扱いやすく、あの勇者も使っていた時期があるほどだ」
(なるほど良さげだな)
話を聞いてマモルはすぐに気を取り直した。
「他に何か欲しいものがあれば申してくれ。遠慮はいらん」
「つかぬことをお聞きしますが」
マモルは大声で切り出した。
「死の魔鋭について情報を頂けませんか?」




