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宇宙工場サブファイロット 05章 探索機の去来7


 無言で夕食をつつきながら、ナットはため息をついた。

 展望ルームには、四人が揃っている。しかし同じ丸テーブルを囲みながら、パドは椅子を妙に後ろに引いて食事に手を付けずにいるし、ボルトも変に間を取って座り、皿の中身を途切れ途切れに無言で食べている。もっとも食事の席に明るさがないのは、食卓に走る緊張感のせいばかりでもない。

 とうとうナットは、隣のスペアに囁いた。

「ね、カレーライスってすごい料理だね。」

「・・・これはカレーだったのか。」

 抑揚のない声だったが、ぽつりとつぶやいたパドに、スペアはほっとして続けた。

「うん。だけど材料が足りなかったんだ。」

「だろうな。カレー粉がなかったんだろう。」

 カレー粉というのは材料リストになかったとスペアは正直に答えた。彼のデータブックにはカレールーと書かれていたが、食料庫からそれを見つけられなかった彼は、なるべく似ていた板チョコを大量に鍋に投入したのである。しかし、辛くておいしいはずの料理がそうはならなかったので、仕方なくスペアは辛そうな物を次々に足したのだった。

 結果、彼らの皿の中には、チョコ味のたくわんや梅干し、塩辛などがごろごろしているという訳である。


「僕、これはあまり好きじゃないみたい。ご飯だけにしてもいい?」

 花瓶いっぱいの水を飲み、ナットが鼻をかみながら言うと、スペアもすまなそうに答えた。

「やっぱり、俺には辛い料理は向いてないみたいだな。これからは、甘くておいしい料理を作ることにするよ。」

 すると、ボルトがぼそっと賛同した。

「それがいいな。お前の作る他の料理はうまいもの。このぐにゃぐにゃしたのもすごい味がする。錆びた基盤に廃棄オイルをかけたみたいだ。これは何ていう食べ物なんだ、パド?」

 茶色い液体から何かつまみ上げたボルトに、何かの塩辛だろう、とパドが静かに答える。鍋を他のテーブルに移していたスペアはちらっと二人を見、ナットもほっと表情を緩めた。

 彼らはしばらくご飯だけをほおばっていたが、そのうちボルトが、ぽつりと言った。

「ぐにゃぐにゃもすごいけど、さっきのあんたも、相当恐かったぞ。」

「本当に悪かった。二度とあんなことはしない。許してくれ、ボルト。」

 返事をせず黙っているボルトに、スペアが顔を寄せて、

「許してやれよ。おっさんだって、突然あんな話聞かされたらおかしくもなるって。」

 ボルトはスペアを見上げて、わずかに頷くと、置いたスプーンに話しかけるように続けた。

「どのみち、あんたの仲間や家族を殺したのは、私たちの作ったロボットなんだ。だから復讐するなら、私たちだけにしてくれないか。ライトタワーだとか何とかだとか、やっていたらきりがないだろう。その間にあんたは、私たち以上に人殺しになる。あんまり、あんたをそんな風にしたくないって気がするんだ。」


「それでロボットが話せないようにしてたんだ・・・。パド、ボルトの言うとおりだよ。ライトタワーにだって何も知らなかった人がいるかもって、僕は思うよ。僕たちみたいなロボット工場とは違うんだもの。どうしても復讐するんだったら、僕たちとその大臣ぐらいにしておいたら。」

「ナット! 変なことを言うなよ。おっさんをけしかけるつもりか?」

 スペアがたしなめたが、ナットはめずらしく反発して、きっぱりと言った。

「だって、ひどすぎるもの。自分のステーションを裏切って、敵側について攻撃させるなんて。そんなこと、僕だって許せない。戦闘ロボットを送ってやっつけたいぐらい。」

「その必要はない。防衛大臣はパズサワーがなくなった後、リーダー・ロボットのR53STの頭部パネルをこじ開けようとして、その場でロボットにやられている。ロボット制作者でもないものが、勝手にパーマネント・パーツをいじろうとしたんだから、当然だな。戦闘ロボットの記憶データを改ざんしたかったらしい。」

 のろのろと喋るボルトに、

「誰にそんな話を聞いた。」とパドが静かに尋ねた。

「さっき。I222のロックを外して、聞いてきた。生きていたら何も言わないつもりだったけど、死んだんだったらいいかと思って。」

 深いため息の音に、スペアは小さく声をかけた。

「おっさん・・・。」

 パドはしばらく動かなかったが、やがて疲れ切った顔をわずかに上げ、

「お前たちに、説教される日が来るとはな。いろいろ知らなかったのは、お互い様ってところか。俺もまだまだだな。」

 そう言って緩やかに頭を振ったパドに、ナットが手を伸ばし、そのぼさぼさの頭をためらいがちに撫でる。パドは目を閉じたまま、わずかに微笑んだ。


第1章終了

次回更新は7月下旬の予定です。


第二巻以降の目次


02 コモンプログラム


06章 コモンプログラム

07章 囚われの制作者

08章 レジェンド・フーラー

09章 宇宙ドライブ

10章 仲間の帰還

11章 パドの追放

12章 サブファイロットからの脱出


03 イエローフラッグス


13章 ホワイトアウト、そして別れ

14章 イエローフラッグス(前編)

14章 イエローフラッグス(後編)

15章 レジェンドの意志

16章 バグプログラムの改造

17章 旅立ち


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