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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅴ幕 【彼岸の郷土】

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帰郷編・30『神造人間007』

 

 その日から萌々香とエマソンは、逆転生の儀式の研究を進める傍ら、萌々香を素体とした神造人間(ホムンクルス)の製造を開始した。


「女神として先に言っておくわ。今日から始めるのは生命の疑似創造、つまり本来なら生を司る第3神ブラット様にしか許されない行為よ。もちろん私がやるだけなら、種族神としての実験の範疇でなんとでも言い訳が立つ。けど本当は下位種族のあなたが知るべき知識ではないの。この技術は決して外に漏らさないこと……いいわね?」

「はい、わかってます」


 はじまりの丘の研究所――その地下深くには、重力制御エレベーターで降りた先に広い特別研究室があった。


 円柱型の水槽のようなものが百以上も並んでいて、床や壁には太い配管が走っている。

 まるで人体実験場のような場所だった。


 萌々香は、その中央にあるベッドに寝かされていた。


「より精度の高い複製体のために、モモカ、あなたの因子を血や肉からたくさん取るわ。それと出来上がった神造人間の因子を後から調整するような権能なんて私は持ってないから、性能的に期待外れだった場合、生み出した彼女たちを人形のように使い捨てることにもなる。私は神だからとくに何も思わないけど、あなたにとってこの実験は、道徳的にも心情的にも厳しいものよ。それでもやる?」

「やります。少しでも、先輩を助ける道に繋がるなら」

 

 迷いなく答えた萌々香。

 最後の警告に即答されたエマソンは、小さくため息をついてから頷いた。


「……わかったわ。じゃあまずは各部位の因子を抽出するわね。麻酔薬を投与するから、力を抜いて」


 そう言ってエマソンは、萌々香を使った神造人間の実験を開始した。






「まず始めに、世界の創造に倣って7体を造っていくわ。検体番号は001~007。あなたの因子に手を加えて、この世界のヒト種に近づけたときにどんな状態になるかの実験よ。魂の適合率は無視した肉体検証のための第一世代ね」


 地下実験室に並ぶ水槽の、端から七つが液体で満たされていた。

 その中にはすでに赤子のような肉体が漂っていて、まるで母の胎内で眠るように体を丸めていた。

 萌々香は杖をついて歩きながら、水槽の赤子たちをじっくりと眺めて回った。


「これが、私のクローン……」

「この子たち第一世代は見た目も様々よ。培養液のなかで五歳くらいまで一気に成長させて、そのあとは取り出して普通に育てていく。寿命はおそらく三十年くらいね。ただ環境に適応できなかったらすぐに肉体の死を迎えるから、覚悟はしておいて」

「……自我や意識はあるんですか?」

「ないわ。魂がないから私の侍女たちと同じく命令されたことだけに従う人形になるはず。人間とは違うから、ちゃんとわかっておいて」


 おまえの目の前にいる赤子たちは、ただの人形だ。

 あえてそう言わんばかりの言葉を投げたエマソン。その手で自分の腕をぎゅっと握っていなければ、とても非情な女神にも見えただろう。


 だがそれはすべて萌々香のためにしていることなのだ。

 だから萌々香はゆっくりと首を振った。


「エマソンさま、いいんです。自我が無くても魂が宿らなくても、この子たちが命だってことはわかってます。わかっててやるんです。そこから目を背けることはしません」

「……そう」


 萌々香の言葉を聞いたエマソンは、やはり悲しそうに目を伏せたのだった。



 




「まだ一ヶ月くらいなのに……もうこんなに」


 試験管の子ども(ホムンクルス)たちは、みるみる大きくなっていた。

 すでに想定通り五歳程度の肉体だった。

 七人の幼女が水槽内で漂っている姿は、どう見ても健全な光景とは言い難かった。

 その様子を眺めながら、エマソンが萌々香の頭を撫でてから、装置を触る。

 

「じゃあ養液から出すわね」


 すると水槽内の液体が減っていき、すべて抜けきると蓋が開いた。 

 全員、水槽の底で安らかに眠っていた。


 エマソンは彼女たちを取り出して、ベッドに並べていく。侍女たちが順番に服を着せていくと、もう普通の子供にしか見えなくなった。

 顔や体格、髪の色はみんな違うが、全員どこか似ていて姉妹のようだった。


 エマソンが彼女たちの服に数字が刻まれたプレートをつけていく。001から順に、007まで。


「これでいいわね。まず001だけど、」

「レーイちゃん」

「え?」


 キョトンとするエマソン。

 萌々香はあっけらかんと言った。


「この子はレーイちゃん。次の子は、レニーちゃん。その次はレレミちゃん」


 プレート書かれた001から順に、そう言って名前を付けていく萌々香。


「レーシーちゃんに、レイコちゃん、レムちゃんに、最後はレレーナちゃん。生まれてきたみんなのこと、番号じゃなくてちゃんと名前で呼んであげたいんです……ダメでしょうか?」


 じっとエマソンと見つめる萌々香。

 エマソンは呆れたように笑いながら、


「モモカって意外と強いわよね。いいわ、あなたの娘として扱ってあげなさい」

「はい!」

「ならプレートも作り直さないとね」


 面倒そうに言いつつも、どこか嬉しそうなエマソンだった。


「じゃあレーイから説明するわね。まずこの子はドワーフと同じ因子配列に組み替えたわ。黒髪黒目はあなたと同じだけど、中身はドワーフだから各種耐性はかなり高いはずよ」


 そうやって順番に説明するエマソン。

 002(レニー)は耳が尖ったエルフ、003(レレミ)は猫耳が生えた獣人、004(レーシー)は体が大きい半巨人。005(レイコ)は鱗が生えたリザードマン、006(レム)は髪も肌もやたらと白く天使族の要素を持っていた。

 予想外のことが起こったのは、最後の娘を説明し始めたときだった。


007(レレーナ)はこの世界の純人族を取り入れたわ。なかなかキュートでしょ?」

「はい。可愛いです」


 少し癖毛の茶髪に、高い鼻と綺麗な白肌。ハーフの子どもみたいに顔が整っていた。

 萌々香がレレーナを観察していると、彼女は突然パチリと目を開いた。


 燃えるような()()()()だった。

 

 くりくりの目を何度か瞬かせて、両手を萌々香に向けて伸ばしてくる。


「まーま、まーまぁ」

「ママ? えっと……そうだよね、わたしがママだよ」


 萌々香は頷いてレレーナを抱き上げた。

 子どもをあやすのは初めてなのか、少しぎこちない動きで揺らす。

 だがレレーナは嬉しそうに笑顔を萌々香に向けていた。

 

 そこでようやく、絶句していたエマソンがつぶやいた。


「う、うそ……なんで? モモカの因子が特殊なの? こんなことが起こるなんて……」

「どうしたんですかエマソンさま? エマソンさまも抱っこします? すごく可愛いですよ」

「モチロン抱っこはするけど、違うのモモカ……その子、()()宿()()()()()。ほら、まだ喋れないみたいだけど明確な意思があるでしょ?」


 そう言われて、萌々香もハッとして抱えた幼女を見る。

 レレーナは嬉しそうに、萌々香の長い前髪を引っ張っていた。まるで大きな赤ん坊のようだ。

 エマソンも目を輝かせてレレーナを眺める。

 

「すごいわ。この子、生を司るブラット様に認められたのよ。生まれるべく役割を持った本物の命として」

「本物の……命」


 萌々香は感慨深くつぶやくと、レレーナを抱くその手にギュッと力を込めたのだった。

 


 



 萌々香の時間はあっという間に過ぎていった。


 残念なことにレレーナ以外の神造人間たちには魂が宿ることはなく、レレーナの身の回りの世話をする侍女として役目を与えられることとなった。


 レレーナは天真爛漫で、なんにでも興味を持つ好奇心旺盛な性格に育った。

 物覚えもよく、たった一年ほどで言葉だけでなく複雑な計算もできるようになり、母親役の萌々香の体調が優れないときは看病もするなど、しっかりした一面もあった。


 とはいえ子どもは子ども。

 よくワガママも言って萌々香を困らせていた。


「ねえママ、わたしもお外のママの実験室見てみたい〜」

「ダメです。魔術や秘術を使えるお部屋は色々な実験をしていて、とっても危ないんですから」

「え~。み~た~い~。ママのいじわる〜」


 駄々をこねるレレーナ。

 困り果てた萌々香は、ちょうど部屋に入ってきたエマソンに声をかけた。


「エマソンさまも、レレーナちゃんに言ってあげてください。空域の外は危険だって」

「そうよレレーナ。モモカほどじゃないけど、あなたも体は強くないんだから。モモカだってあなたのことを心配して言ってるんだから、わかってあげて」

「むぅ」


 まん丸なほっぺを膨らませるレレーナ。

 そんな姿も、萌々香にとっては愛おしく感じるようだった。

 すぐに抱き寄せて頭を撫でる。


「わかりました。次の実験のとき、見学にいらっしゃい。その代わりしっかりママの言うことは聞くんですよ?」

「ほんと? やった! ママだいすき!」


 萌々香を抱き返すレレーナ。


「じゃあ今日はわたし、ママのお手伝いいっぱいするね! ママのどかわいたでしょ? 紅茶つくってくるねー!」


 止める間もなく部屋を飛び出したレレーナ。

 本当に元気いっぱいな子だ。


「ほんと可愛いわね」

「はい。それに良い子です」

「だからこそ注意して見てあげるのよ。元気に見えても、あなたの因子を受け継いだ子なの。魔素欠乏症ではないけど、何かのきっかけで体質が変わったら同じ症状が発露するかもしれない。それに、もしいつか誰かとの子を身籠ったりしたら、レレーナが産んだ子がそうなるかもしれないわ。少なくとも、幼いうちに空域の外に出すのはあまりおススメはできないわね」

「わかってます。あの子が見た目より弱いのも、ふつうの人より長く生きられないことも……」


 萌々香は、レレーナが飛び出していった扉をじっと見つめて頷いた。


「だからこそ、私が精一杯愛してあげるんです」





 

 レレーナの実験見学のはすぐに訪れた。

 逆転生の儀式陣に使える新しい術式を閃いて、すぐに試そうとなったからだ。


 魔神ダニエリフの加護を授かったおかげで、魔力を溜める魔鉱石さえあれば魔術を使えるようになった萌々香は、エマソンすら思いつかなかった術式をどんどん思いついていた。


 その才能のおかげで実験は捗ったが、魔力を使うということは、つまり空域の外に出るということ。

 魔素欠乏症の萌々香は、実験のたびに具合を悪くしていた。


「ママだいじょうぶ? やっぱり帰る?」

「大丈夫です。いまやらないと、完成が遅れちゃうから……」


 杖をつきながら、フラフラと歩く萌々香。

 ときおり咳き込みながら、丘下にある研究所にようやくたどり着く。

 実験の前にひとまず休もうと、隅に置かれた椅子に座ってひと息つく。

 レレーナも心配そうに萌々香の様子をうかがっていたが、ソワソワした様子は隠せていなかった。


「レレーナちゃん、色々と気になりますか?」

「うん……」

「いいですよ。わたしはもう少し休めば大丈夫だから、見て回っても。ただし勝手に物は触らないようにしてくださいね」

「うんっ!」

 

 元気よく返事をして、部屋のなかを見学し始めるレレーナ。


 儀式陣のサンプルが所狭しと床に描かれ、魔鉱石がたくさん詰め込まれた棚が並ぶ。多種多様な金属粉が試験管に詰め込まれた箱に、部屋の隅々には書籍が積み上げられている。

 かなり雑多な研究室だった。


 それにエマソンの実験も並行しておこなっているから、壁一面に二人が書き殴った構築式が書かれている。レレーナにはラクガキにしか見えないだろうが、これも立派な研究成果だ。


「レレーナちゃん、何か飲みますか?」

「いらなーい」


 萌々香の声に空返事をして、部屋を物色しつづけるレレーナ。

 何かに夢中になり始めるとすぐに周りに興味を持たなくなる。そんな娘の姿を見た萌々香は、くすりと笑った。


「七色先輩みたい……もしわたしと先輩が結婚したら、レレーナちゃんみたいな子ができたのかなぁ」


 そんな妄想を口に出してから、ハッとしてテキパキとお茶の準備を始めた萌々香。

 もちろんお茶は二人分だ。

 なんだかんだ言っても、飽きたら突然喉が渇いたとワガママを言うのが子どもという生き物なのだ。


 そうやって準備を進めていたら、いきなり後ろで魔力反応が起こった。

 しかもかなり大きな反応だった。


「ゲホッ!」


 つい拒絶反応のように、発作が出た。

 しばらく咳が続く。口元を覆った手のひらにはべっとりと血が付着していた。


 最近は強い発作は出ていなかった。不治の病ではあるが、空域で過ごしてる分には悪化しない。

 強い魔力反応を浴びたのは久々だった。


 萌々香は咳が落ち着くと、息を整えながら実験室を見回した。


「なんで魔力が……あれ?」


 いない。

 レレーナが見当たらなかった。


「レレーナちゃん……? かくれんぼですか?」


 すぐに立ち上がって、実験室を探す萌々香。

 部屋の扉は閉まっている。レレーナが開けたらさすがに気付くはずだ。

 だが部屋の中を入念に探しても、どこにもいない。

 ちょうどそこにエマソンがやってきた。


「ねえモモカ、私の簡易陣知らない? 紙に書いておいた実験用の転移式なんだけど、ポケットに入れてたはずが見当たらなくて」

「わかりません。それより、レレーナちゃんを見ませんでしたか? さっきまでこの部屋にいたはずなんですけど……」

「見てないけど……え、ちょっと待って! そこの床!」


 エマソンが指さしたのは、書き殴った儀式陣のサンプルのひとつだった。


 もちろんそのままじゃ起動しないような設計になっている。特定の式を組み込んで、魔力を流さないと発動しない。

 だが、そこに落ちていたのは。


「私の簡易陣……それにこれ、魔力が尽きた魔鉱石……?」


 棚から落ちたのか、いくつかの魔鉱石が儀式陣の上に転がっていた。

 なぜそこに……と考えた萌々香は、すぐに息を呑む。


「ま、まさか……レレーナちゃんが、発動させたのですか?」

「……この痕跡をみる限り、可能性はあるわね。時空間指定の儀式陣が、私の転移式の簡易陣と繋がって発動したのかも……」

「そんなっ! じゃあ、レレーナちゃんは!?」


 冷静に分析するエマソンの腕に、萌々香が縋りついた。

 状況を見れば、結論はひとつだった。


 本来発動するはずのない儀式陣。だがそこには起動式となりえる術式と、リソースとなり得る純度の高い魔鉱石が転がっており、魔石の魔力は尽きている。

 つまり――


「レレーナは転移した。十中八九、そうなるかしら」

「……ど、どこにですか? お迎えにいけますか……?」


 泣きつく萌々香に、エマソンは苦虫を噛み潰したような表情で首を振る。


「無理だと思う。これって、時空間指定の実験だったでしょ? 構築式は未来の時間軸指定……つまり、レレーナは()()()()()()()()()()()ってことになるわ。その時間軸を絞るのは、私たちじゃとても……」

「……そん、な……」

「ごめん、モモカ。私がもっとちゃんと管理していれば」


 謝るエマソン。

 だが、萌々香はその言葉を聞いていなかった。


 本物の娘のように可愛がっていたレレーナが、突然消えてしまった。


 ただでさえ体に負担がかかっていた状況で、精神的に大きなショックを受けたからか、プツリと意識を失ってしまったのだ。


 こうして萌々香とレレーナの生活は、唐突に終わりを迎えたのだった。

 その、遥かなる未来の先で。

 時空を超えた神造人間007(レレーナ)は、運よく恵まれた環境で拾われ、多くの人々と関わりながら精一杯生きて、立派な淑女に成長しました。

 そして最期にはその命の役割(・・・・)を見事に果たすとともに、最愛の人に看取られながら短い生涯に幕を下ろしたのでした――

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― 新着の感想 ―
嗚呼、そういうふうに繋がっていくのね つまりルルクに楽の魂が入ったのは、なるべくしてなった事なのか
エピソード 19 の段階で出ているのもアレですが > この度はお初にお目にかかります。挨拶が遅れまして申し訳ございません、私は領主ディグレイと第一夫人レレーナの息子、ルルク=ムーテルと申します。 …
誰と思ってレレーナ、神秘の子で検索したらでてきて本当かと思って5話位まで読み返したんですが全く名前出ないんだけど何話に名前出た方なんしょうか、、、。
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