戦場に立つ意味
……正直な話、俺が戦場にいる意味はよくわからない。
戦えるわけではない、なにか指示が出せるわけでもない……むしろ戦えない俺がいることで、花の少女たちの負担になっているのではないか。常々思う。戦えない人間は、足手纏いでしかないのだから。
『お前さんが近くにいると、あいつらの精神状態は安定している』
『あなたは、無能な足手纏い、ではなく……おバカな足手纏いとでもいいましょうか』
『なんか最近、体が軽いんだよなー、あっはは』
『いてもいなくてもいい、けど……ユウキがいると、「守らなきゃ」って思う。これが感情なんだって……胸の中が、熱くなる』
……思い返しても、積極的に『お前は必要だ』と言われたことはないなあ。若干バカにされてるんじゃないかとも、思ってしまうし。
でも……それでも、俺が戦場に立つ意味があるのだとしたら……
「『ユウキさんが傍にいてくれると、なんだか力が湧いてくるんです』」
「!」
以前にも言われた言葉を、一言一句間違えることなく、そのまま目の前の少女が話す。その言葉に、俺は意識を現実に戻して……
「……ボタン? 今……」
「え、き、聞こえちゃいましたか? うぅ……」
目の前の少女、ボタンは……以前、ボタンが俺に言ってくれたのと同じセリフを話した。たとえ記憶はなくても、彼女の中にはあのときの気持ちが残っているのだと、実感した。
そうだ……俺が彼女たちの助けに、少しでもなってるなら……こうして考える必要なんて、ない。
「おーい、なにしてんだー?」
「あぁ、今行く」
ボタン、ガーベラ、ヘリコニアは危なげなくウィザーを倒し、誰一人散ることなく戻ってきた。
彼女たちの連携は、見事なものだった。ヘリコニアが指示を出し、ガーベラが攻撃し、ボタンが防御する……まるで、以前のボタンがそこにいるかのように、コンビネーションがしっかりしていた。
「おう、戻ったか」
戻ると、相変わらずタバコを吹かした班目が迎えてくれる。ったく、吸いすぎだろ……俺が見る班目は、常にタバコ吸ってるぞ。
「……あれ、ひまわりたちは?」
そこで、気づく。俺たちよりも先に出たはずのひまわりたちが、まだ戻ってないことに。
俺のと俺の問いに、班目はモニターを指して……
「まだだ。むしろ苦戦、してるみたいだな。それに……ひまわりがそろそろ限界だ」
モニターに映るのは、ひまわりたち三人の少女と、対峙するウィザーだ。ウィザーはでかいわけではないのだが、妙な姿をしている。
長方形の、まるで箱のような容姿。そして背中と思われる場所からは、何本もの手が生えているのだ。タコのような触手ではない、手だ。
それは触手よりも厄介で、一つ一つが意思を持っているかのように動く。ひまわりたちの攻撃をさばきつつ、反撃に転じている。建物の瓦礫なんかも、まるで野球ボールのように武器へと変わる。
……いや、それも問題だが。それよりも……
「……今、なんて? ひまわりが……限界?」
班目は、確かにそう言った。俺の聞き違いを信じたいが……対する班目の表情から、それは否定された。
俺の視線は自然と、ひまわりの樹に向かう。そこには……今にも散ってしまいかねない、ひまわりの花があった。見間違いではない、吹けば枯れてしまいそうなものが、そこにあった。
「っ……!」
「おい、どこへ行く」
思わず走り出す俺を、班目の声が制止する。どこへ……そんなもの、決まっている。
「ひまわりのところに、決まってるでしょ。なんとか、あいつが散るのを食い止めないと……俺、世話係だし、あの花を元気にさせるとか……」
「散る花の進行を遅らせる対策ならともかく……あそこまで進行が進んだ花を、しかも元気に? そんな方法があればとっくに試してるし、教えてる」
タバコの煙を吹かし、班目は鋭い目を向ける。
「……あの様子じゃ、この戦闘が終わるまで持つかさえわからん……目の前であいつが散るのを見届けたいってのなら、止めはせんが」
枯れる花の進行を遅らせる方法はある。しかし、枯れた花を元に戻す……せめて少しでも回復させる方法は、ない。
班目の言うとおりだ、そんな方法があればとっくに教えられてるはずだし、なにより彼女たちが散ることだってない。
だから、って……!
「それでも、ただ見てるだけは……!」
「ゆ、ユウキ!?」
驚くガーベラを、冷静に見守るヘリコニアを、そして表情の見えない班目を置き去りに……俺は、走り出す。たとえ方法がなくても、俺がいる意味がないとしても……!
俺は俺が、彼女たちの力になれることを証明したい!
そして俺は……二度目の戦場へと、足を、踏み入れた。




