同じで違う存在
ヘリコニアとの会話を経て。
施設内に戻った俺は、あてもなく歩いていた。これまで彼女とゆっくり話すことはなかったが、まさかあんなことを思っていたなんてな……全然わからなかった。
感情がないとはいえ、それでなにも考えていないわけじゃない9.彼女たちだってものを考えるし、戦っている張本人だからこそ俺よりも深く考えているのかもしれない。
……と、先ほどのことを考えていたからだろうか。目の前の、曲がり角から出てきた人影に気付くのが、一歩遅れたのは。
「……ん、おっと。ごめん」
「あっ、いえ……」
その人物は、俺の胸にとんと頭をぶつけ、頭を押さえている。桃色の髪をした少女は、ゆっくりと顔をあげて……
「私こそ、ごめんなさい。ええと……ユウキさん、でしたよね?」
……ボタンは、照れくさそうに笑みを浮かべた。
以前のボタンならば、俺の胸に頭をぶつけることも不思議はなかった。だが今のボタンは、俺と同じくらいの背丈だ。なのに、なぜ今ボタンが頭をぶつけたのかというと……
「探し物、か?」
「はい。ちょっとこのあたりで落とし物をしちゃって」
何かを探すように、身をかがめている彼女の姿があったからだ。腰を折り、通常頭がある位置より下がった位置にある。そんな彼女は、ゆっくりと腰を上げる。
正直、この立ち位置はなんていうか……慣れない。前のボタンと比較するつもりはなくても、雰囲気がそのままな分、やはり違和感がある。身長の問題だけではなく、いろいろな面で。
とはいえ、彼女を避けるわけにもいかない。
「……手伝おうか?」
「え、いいんですか?」
さすがに落とし物を探している子を、放ってバイバイするわけにもいかない。なので、自ら申し出ると……彼女は微笑み、ぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございます、助かります」
そうやって笑顔を浮かべるボタンのその姿は、まぎれもなく俺の知ってるボタンと同じもので。
俺は戸惑いながらも、落とし物探しに加わっていく。
「ところで、なにを落としたんだ?」
「ええと……髪飾り、っていうものでしょうか。頂き物を付けてたんですけど、いつの間にか無くしてて……このあたりかなって思って」
探し物を問いかけ、その正体を聞く。俺の記憶では、ボタンは髪飾りなんかしていなかったはずだが……頂き物と言っていたし、本来自分の物ではなかったものだろうな。
班目がそんな粋なことをするとは思えないし……となると、以前俺の部屋に来た女の人だろうか。あの人も、この子たちに良くしていそうだったし。
「……ほんとに、覚えてないんだな」
「え?」
ふいに、口をついて出てしまう。先ほど俺の名前を確認したときといい、彼女は以前のことをなにも覚えてないのだと。
「いや、なんでもないよ……」
覚えてない相手に「お前覚えてないのか?」なんて聞いてもどうしようもない。それはもう、わかりきっていることだし。
そんな俺を見てか……彼女は、小さく笑う。
「ふふっ」
「?」
「ぁ……すみません。なんだかユウキさんを見てると……こう、胸の辺りが、ぽかぽかするんです」
己の胸を押さえ話す彼女の言葉に、俺はなんとも言えなくなってしまう。もしその話が本当なら……ボタンの中には、少なからず俺の存在が残っている、のだろうか。
記憶は消えても、その気持ちが受け継がれているとしたら……そんなこと、果たしてあるのだろうか。
「……あ、これかな」
と、そこで視界の端にきらりと光るものを見つける。近寄り、それを拾い上げると……蝶々の形をした、確かに髪飾りのようなものだった。
「もしかしてこれか?」
「! あ、はい、それです! ありがとうございます!」
それを彼女に見せ、確認をとると……笑みを浮かべ、彼女は髪飾りを手に取る。
その笑顔は、俺の知ってるボタンのものとは違ったが……俺の知ってる、ボタンのものでもあった。




