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それぞれの終末



 ボタンが、前のボタンから今のボタンへと生まれ変わり、一週間が経った。


 その間にもウィザーは襲ってきたが、前回の同時多発的なものはなく、誰の犠牲もなく対処することができた。ボタンの戦い方も、前のボタンを彷彿とさせるものだった。



「他のみんなも、そうなのか……」



 俺が知らないだけで、ガーベラも、ヘリコニアも、ひまわりだって今に至る前は別の花だったのだ。それに、いつ誰がボタンのように、散ってしまうかわからない。


 ここにいる間で、俺は役に立てたのだろうか。斑目からは「今までよりもあいつらの体が持っている」ということだが……それを実感する術が俺にはない。


 だって少なくとも……ボタンが散ってしまう直前ほどの大きさにまで育った花が……ひまわりが、今育ちつつあるのだから。



「誰も、死なせたくないなぁ」



 斑目の言った、正反対のことを考えている。あいつらにあまり干渉するな、とあの人は言ったが……そんなの、無理に決まってる。斑目だって、本当はわかってるだろうに。


 だけどそれは、自身につらい選択を強いるに他ならない。だから……



「おーい、どうしたんだぼーっとして」


「ぉう!?」



 考え事に集中していたためか、背後からかけられる声に肩を跳ねさせ驚いてしまう。振り向いたそこにいたのは、ガーベラだ。



「な、なんでもないよ別に」


「ふーん。ま、いいけどさ」



 背後から、俺の隣へと移動するガーベラ。



「お前こそどうしたんだよ」


「んー、なんでもねえよ?」



 相変わらず、飄々としてつかめない奴だな。それがガーベラなんだろうけど。


 今のボタンにもガーベラは、明るく接している。まるで前のボタンと同じく接するように。……いや、みんなになんだろうな。


 きっと、他の誰かが散って、また産まれても同じように接するだろうし……ガーベラが別のガーベラになってしまったとしても、同じように接するのだろう。



「なあガーベラ……ひまわりのこと、なんだけどさ」



 もしもこのまま戦いを続けていけば、次に散ってしまうのはひまわりだ。それは、止めたい。ひまわりだけじゃない、誰だってそうなってほしくないと願うのは果たして傲慢だろうか。



「おうどしたー? あれか? ひまわりによくじょうしたのか?」


「……そんな言葉、どこで聞いたの」


「ブンキがなー、ユウキはアタシらによくじょう?するかもしれないから気を付けろよーって言ってたんだ」



 ブンキとは、斑目のことだ。下の名前で親しげに呼ぶガーベラが、そう呼んでいる……って、そんなことはどうでもいい。


 あのおっさん……こんな子たちになんてこと吹き込んでんだ。欲情とか、なぜよりによってその言葉を教えたんだ。



「欲情してないし、斑目には後で文句言いに行ってやる」


「へー、そっか」



 固く、決意する。



「こほん。ひまわりなんだけど、最近変わった様子とかない?」


「変わった様子、か……」



 まあ、いきなりこんなこと聞かれても困るかな。


 だがガーベラは、その大きな目をまばたきしたあと、にこっと笑って。



「そういや、ユウキには特になついてる感じだな!」



 と、そう言ったのだ。



「え、ひまわりが? 俺に?」



 ガーベラの思わぬ言葉に、うまく言葉が返せない。だってそうだろう、ボタンみたいにわかりやすく好意を示されればなつかれている自覚もあるが、ひまわりは……


 言っちゃあなんだが、なに考えてるかわからないし。そんな自覚も、ない。



「ひまわり、俺になついてんの?」


「気づいてないのか? あっははー、ユウキは感情があるくせににぶちんだな!」



 感情がない子に鈍いと言われてしまった。なんてこった。


 しかもその口ぶりから察するに、ガーベラ以外にもそう思ってるやつはいるのだろう。ぶっちゃけ、そういう感情に鈍そうなガーベラさえも気づいているのだから。



「で、ひまわりがどうしたんだ?」



 そこへ、ガーベラが本題をぶつけてくる。



「えっ、あぁ……ひまわりなんだけど、なんとか、生き延びさせられないかなって。いや、ひまわりだけじゃなくて、ガーベラも、他のみんなも……」



 生まれ変わるのだから、生き延びさせられるとは少し違うのかもしれないが……それでも、言いたいことは変わらない。


 もっとも、これをガーベラに言ったところでなにが変わるとも思えない。なぜ、花の少女について悩んでいることを、花の少女本人に話してしまったのか。



「ははー、ユウキはなんか固く考えるな。アタシにはよくわかんないけど……多分それは、アタシらのためを想ってくれてるんだろ?」


「……まあ、ね」



 ガーベラの言うとおりなのだが、それを素直に認めるのは、恥ずかしい。しかも、本人の前で。



「けどそんなに深く考えなくてもいいぞ? これでもアタシら、ユウキに助けられてるんだからさ」


「……え?」



 恥ずかしい気持ちが吹き飛ぶほどに、ガーベラが語るのは衝撃の強いものだった。俺が、みんなを助けてるって?



「それって、どういう」


「それは自分で考えなって。けど、わからないとこがユウキらしいな」



 言葉の意味を聞いても、ガーベラは答えてくれない。だが、年頃の少女らしい、かわいらしい女の子の笑みを浮かべて。



「いつアタシらが終わるかわかんないけどさ。また次のアタシらになったとき……ユウキに会えてよかったって気持ちは、きっと消えないと思うぜ!」



 にっ、と眩しく笑い、彼女は言う。それが本音か、俺を元気付けるためかはわからないが……いや、きっとガーベラは嘘をつかない。


 俺にはその自覚がないけど、ガーベラがそう思ってくれているのなら……せめて、その言葉に恥じない俺に、なろう。

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