複雑な思い
新しい花の、少女の誕生。それは本来、歓迎すべきものなのかもしれない。
だが俺は、開いた口が塞がらなかった。なにを言えばいいのか、わからない。
俺の知ってるボタンと、見た目は違う。髪や目の色など、そういう部分以外は、髪の長ささえも違う。だがその雰囲気は、間違いなくボタンのものであった。
……いっそのこと、共通点なんかないほうがマシなのかもしれなかった。
髪の色、しゃべり方……どうしても、前のボタンと共通する部分がある。
「ええと……」
「自分の役割はわかるな。俺は斑目、この少年は勇樹。お前はボタンだ」
「あ、はい……マダラメさんに、ユウキさん、ですね」
キョトンとした様子で、斑目の言葉を受け入れている。斑目は、もう慣れているのか、狼狽えるどころか淡々と告げるのみだ。
俺は、いまだに彼女にどう接すればいいのかわからないのに。いや、ここでなにも感じずに話せていたら、俺は自分で自分が怖いが。
ボタンの態度は、斑目や俺のことなど、全然覚えていない風だ。かすかに感じていた希望は、打ち砕かれた。
「案内する、こっち」
「ありがとうございます」
ボタンを部屋に案内するひまわりも、いつも通りだ。『ボタン』が死んだときも、次の『ボタン』という少女が現れても……無表情を崩さない。
ついこの間まで接していたボタンとは、別人。それでも、切り離して考えるのは難しい。ひまわりは、それをうまく切り離して接している……のならば、素直にすごいと言える。
だがひまわりには、そういった『感情』がない。だから、悲しみも怒りも、戸惑いすらも感じることはない。
「……わかったか? これが現実だ。いくら頭で納得しても、実際にこういう場面に出くわすとどうしたらいいかわからなくなる。頭が真っ白になって、理不尽をぶん殴りたくなる」
こう、斑目は告げる。まるで、自分もこういう経験があるかのように。
……そうか、やっぱり斑目は、ひまわりたちを兵器としては見てない。だからといって、人間として見ているわけでもない。少女が死んで、生き返ったかと思ったら以前の記憶はない。それも一人や二人ではない。ここにいる少女すべてが。
こんなことを繰り返していたら、心がどうにかなってしまう。だから、心を鬼にして、ひまわりたちに親しくは接しない。それでも、人でなしにはなれないから、できるだけ不便がないのように施設の設備を整えている。
「……俺もマダラメさんみたいになれば、こんな思いはしなくて済むんですかね」
「俺みたいに? はっ、馬鹿馬鹿しい。俺みたいにな人間は一人で充分だ」
なんとなく呟いた俺の言葉に、斑目は答える。それは、斑目は決して自分自身の在り方をいいとは思っていないのだと感じる。
けど、こうならなければ、自分の心は壊れていたのだろう。
「……お前さんなら、俺みたいにならなくても、あいつらとうまく付き合っていける。なんでか、そんな気がするのさ」
それだけを言い残し、斑目は地下室を出ていき、オペレータールームからも出ていく。
ボタンはひまわりが連れていき、他の職員もいなくなったため、残されたのは俺一人だ。俺は、そこにあるボタンの樹を見上げる。
「……はぁ」
今産まれたのが、目の前にいるのが、前のボタンだろうが今のボタンだろうが。ひまわりどころか他の子たちも、何も感じることはないのだろう。
それは……とても、寂しいことだ。それを感じるのが当の本人ではなく、俺だということも含めて。
「……どうすりゃいいんだ」
ボタンであって、俺の知るボタンではない彼女に……果たして俺は、普通に接することだろうか。




