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新しい花



「おう、来たか」



 オペレータールームに行くと、そこには相変わらずの人相の悪さを浮かべた斑目がいた。俺は、一応軽く会釈をする。


 あの後、ガーベラに引っ張られた俺は……食堂で、腹いっぱいに食べ物を食べた。それこそ、やけ食いと言ってもいいかもしれない。空腹と気持ちの整理のために、食べた。


 その直後だ。一緒にいたはずのひまわりがいつの間にかいなくなり、そして俺の傍まで来たのは。彼女は言った、「マダラメが呼んでる」と。


 正直、うんざりだった。というのも、ひまわりたちもそうだが、昨日の今日でどんな顔をして会えばいいのかわからない。しかも、班目は『なんで怒ったのか』わかってないひまわりたちと違い、その上おれなんかよりも花の少女と接した時間は長いのだ。


 なんというか、すごく会いにくい。だがそんな俺のセンチメンタルに構わず「早くしないとお前さんが後悔する、とも言ってた」という言葉を続けられれば、行かないわけにもいかない。


 なので、今ここにいるわけで。



「あ、あの俺……」


「今から、こいつらの仲間が産まれる。お前さん、初めてだろう。せっかくだから見ていけ」


「……は」



 俺が、なんて切り出そうか悩んでいたところに、この男はさらっと言ってくる。まるで『お前の悩みなんて気にしてない』とでも言わんばかりに。


 いや、それもそれとして。斑目の用件……それは、新しい命が産まれる瞬間を見せること、そう言った。今までは、あの樹からこの子たちが産まれた……なんて言われてきたけど、実際にその光景を見たことはない。


 だから、この目で少女が産まれるところを見るのは初めてだ。今までは、信じていなかったわけじゃないとはいえ、半信半疑の状態だった。ひまわりたちが普通の人間とは違う、というのはもう疑いようがない。とはいえ、それでもだ。


 あの樹から、少女が産まれるなんて。見ると、その中に一つだけ、大きな花が咲いている樹があった。


 つまりは、あれから産まれるということなんだろう。



「……あれ、なんの樹なんですか」


「ボタンだ」


「……は?」



 ひまわりの樹から産まれればひまわり、ガーベラの樹から産まれればガーベラ……といったように、産んだ樹の花の名前が、彼女たちには割り当てられる。


 だから、あの樹がボタンのものであれば、産まれてくるのもまたボタンということで……



「……って、じゃあ、死んだボタンは生き返るってことですか!?」



 俺はつい、そんなことを叫んでしまう。



「忘れたか。また産まれたボタンは、ボタンであってボタンじゃない。ボタンという名前や、特徴は同じだがな。こっちはあいつを知ってても、あいつはこっちを知らない……それが、現実だ」



 と、あくまでも現実を突き付けてくる。忘れていたわけじゃないけど、それでも……



「ま、いいさ。行くぞ」



 斑目を筆頭に、数人が地下室へと続く扉を潜る。俺も、そのあとに着いていくように足を進める。戦いの時とは違い、その意味では初めて訪れる地下室。改めてその樹を見上げると、やはりでかい。



「それにしても、今回はやけに早かったな」



 と、隣に来た班目。



「え?」


「花が散り、次の花が産まれるまでの期間は決まっていない。一週間か、一年か……少なくとも、散った翌日になんてのは聞いたことがない。もしかして、お前さんに会いたくて頑張ってんのかもな?」



 そう言ってからかうように笑う班目は、無遠慮にたばこを吸っている。煙が辺りにまき散らされ、中には顔をしかめる人も。


 だけど俺は、それとはまったく別のことを考えていた。これほど早くに花が産まれるのは前例がないとのこと……そして、班目の言葉が突き刺さったからだ。もしそうであるなら、ボタンは俺のことを覚えているんじゃないかと……



「そろそろだ、よく見とけよ」



 よそ見をしてしまわないようにと、班目が告げる。その言葉に従い、樹を見る。その直後が、樹に成っていた大きな花が、枝から落ちたのは。


 それは、まるで何かの実であるかと見間違えるもの。それが花だとわかるのは、地面に落ちたそれがゆっくりと……まるで、つぼみが花咲かせるように開いていったからだ。


 その中には、確かに人影があって。



「……ん」


 小さく漏れる声は、しかし確かに聞こえた。それは、少女のもののように聞こえ、直後にそれが間違いでなかったと気づく。


 立ち上がった彼女は、何も身にまとってはいなかった。ゆえにわかる、幼くも女性らしい体つき。腰まで伸びた髪が、それを証明している。目を擦っている少女の姿を見て、衝撃を受ける。


 何も着ていなかったから、ではない。そんなもの、気にならないほどに、俺の胸は締め付けられていた。


 身長も、顔つきも、違う。髪の色は、同じ。でも長さは違う。それ以外に、彼女と外見の共通点なんてない。なのに……



「……あ、は、はじめまして」



 一目見た瞬間から、そこにボタンがいると確信した。

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