いなくなった花
女性に言われた言葉が頭の中を回り、それがさらに俺をこの場から動かなくさせる。もう、寝よう。
目の前でボタンがあんなことになって、正直食欲なんかない。だから、俺は寝た。全部夢だったらいいのにと、願いながら。そう、なにもかも……
「……んなわけない、か」
しかし、現実は非情である。目が覚めた俺の視界に入ってきたのは、もうすっかり見慣れてしまった天井があった。そして、窓から射し込んでくる光が、今が朝であることを教えてくれる。
あのまま眠ることには成功したようたが、これが夢だったら……その願いは、叶えられなかったらしい。残念だとは、思わないけど。
「……行くか」
さすがに、腹が減った。現金なもんだよな、こんなときにだって、腹は減る。
だから俺は部屋を出て、歩く。正直、あんな騒ぎ立ててしまった後に顔も見せず、翌日にまでなってどんな顔をしてみんなと会えばいいのかわからない。
「……なんでここに来ちゃうかな」
俺の足が向かったのは食堂のはずだ。だが、たどり着いたのは花の少女たちが暮らしている部屋の前。どうして、ここに来てしまったのか。
自分で自分の気持ちがコントロールできない。今だって、扉を開くために手を伸ばしては引っ込め、伸ばしては引っ込めを繰り返している。
このまま、帰ってしまおうか。……そう考え始めたところで、まるでタイミングを図ったように、扉が開かれた。
『あれ、ユウキさん! おはようございます!』
扉の向こうには、アホ毛のある薄い桃色の髪の少女が、俺のことを出迎えて……
「……ユウキ、なにしてるの?」
「……なんでも、ない」
扉の向こうにいた少女、ひまわりが、無表情を保ったまま首をかしげている。俺は、少しだけ息を吐いてから、答えた。
……重症だな、これは。
「なんでもない、なんでもないんだ」
軽く中を見回して、そこにボタンがいないことを確認する。やっぱり、昨日の戦いが全部夢だったらいいのに、という俺の願いは叶わなかったようだ。
……夢だったら、か。いったいどこから夢だったらよかったんだろう。昨日の戦い? それとも、ボタンたちと会う前? それとも、ひまわりと出会ってしまった前?
答えは、自分でもわからない。
「うん、なんでもない……」
「よぉ、どうしたんだユウキー。なんか暗くね? 昨日もあのままどっか行っちまうしさー、どうしたんだ」
「なんでもないよ……」
そこへガーベラが、いつも通りに声を弾ませながらやって来る。そう、いつも通りに。
それで彼女を責めるつもりじゃないが、やっぱり……
「……お腹、減ってるのでは? 人間はお腹が減ると気分が暗くなるって、マダラメが言ってたわ」
「おぉ、なるほど! ならユウキ、今から食べるとこに行くぞ!」
「ぉ、わっ!?」
三人目……現れたヘリコニアの推論に、ガーベラが手を打つ。そしてそのまま、俺の手を引き……部屋を、飛び出す。
ガーベラもひまわりもヘリコニアも、いつも通り。その様子に、俺はとても悲しい気持ちと……少しだけ、安心感を感じていた。




