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散った花



「ボタン!」



 腹に穴の開いたボタンは、膝から崩れ落ちる。そこにはなんの抵抗力もなく、ボタンの中から力が抜けてしまっているのがわかった。


 ウィザーは倒した……なのに、手放しで喜べるはずもない。


 うつ伏せに、倒れ……その表情には、うっすら笑みが浮かんでいる。まるで、やりきったと言わんばかりだ。穴が空いた体からは、血が流れることはない。人間ではない彼女に、血は通っていないのだと証明するかのように。


 そして……その体は、ゆっくりと砂へと変化し、手の間から流れ落ちていく。それを止める術は、ない。



「ボタン! おい、ボタン!」



 返事は、ない。無情に、時がボタンの体を殺していく。


 びゅう、と風が吹く。それが、一気にボタンの体をさらっていく。それどころか、俺が支えている手の隙間からも、体は崩れ落ちていく。


 呼びかけても返事はなく、体が崩れ落ちるのを止める術もない。……俺が何もできないまま、それを眺めているしかなかった。ほんの数十秒……たったそれだけの時間で、ボタンだったものは、風に流され消えてしまった。


 残されたのは、彼女が着ていた服だけ。あとには、何もない。


 同時に、景色が戻る。あの、無機質な地下室へと。たくさんの樹々が、俺たちを迎え入れる。



「ユウキ、戻ろう」



 何もできなかった自分に絶望している俺に、なんの感情もないひまわりの声がふりかかる。なんの感情も、ない。仲間が殺されたことへの怒りも、仲間を失ったことの悲しみも。



「お前……」


「……」



 退屈という感情も、おいしいという感情も……怒りという感情も、悲しさという感情も、こいつらにはない。その真の意味が、ようやくわかった。


 仲間を失っても、なんとも思わない。……いや、違う。思うことができない。それが、この少女たちの……運命なのだ。仲間に対する感情がない、と冷たいわけではない、彼女には、仲間を失ったという事実すらも、無感情に受け入れてしまうのだ。



「ユウキ?」


「……あぁ」



 ……その後、地下室のオペレータールームに戻った俺は、班目へと詰め寄る。



「ご苦労だった。ボタンのことは残念だったが、これも戦いだ。今から別の……」


「ふざけんな!!」



 何か言っている班目の胸ぐらを、掴む。身長も体格も向こうの方が上だが、そんなこと関係なかった。俺は、たぶん自分でも今まで感じたことがないくらいに怒っている。



「ゆ、勇樹くん待って……!」



 その姿を見てか、一人の女性が、立ち上がる。だが、班目はそれを止める。そして、俺の目をしっかりと見返して口を開く。



「言ったはずだぞ、あまりあいつらに干渉するなと」


「世話係押し付けといて、それはないだろ! 言ってること無茶苦茶だ! それに、目の前で死んだんだぞ! 平気でいろってのか!」


「死んだんじゃない。あいつらは人間じゃないからな」


「! てめえっ……!」



 そのあまりの言い様に、頭に血が上る。少しでも、こいつのことを見直そうとした自分がバカだった。こいつは、この子たちのことを戦いの兵器としか思っていない!


 拳を握り締め、振りかぶる。だが、その拳が班目に打たれることはなかった。手首を、ひまわりに掴まれてしまったからだ。その見た目のどこからそんな力が出てくるんだと、聞きたくなるくらいの力で。



「離せよ」


「ユウキ、どうしてマダラメを殴ろうとするの? それに、ユウキの感情が乱れている理由がわからな……」


「離せって!」



 ひまわりの手も、班目も振り払う。いったい、どうしろっていうんだ。ここにいるみんな、仲間が死んでもなんとも思わないのか!?



「ユウキ、目から水が流れてる。それ……」


「……なんでも、ない」



 これが涙だと、彼女は知らない。それを教えてくれる人もいなかったのだろう。



「……おっと、他の連中も戻ってきたみたいだな」



 タイミングがいいのか悪いのか、他にウィザーと戦っていたみんなも戻ってくる。その中には、ガーベラやヘリコニアもいた。いつもの見慣れた顔ぶれ……ただ一人を除いて。



「いやあ、同時出現のわりに、弱っちかったなー。手が空いたから他の手伝いに行こうと思ったのに」


「こっちも終わった」


「ふーん。おろ、そっちボタンいなくね?」


「つまり……そういうことですか。彼女の守りの力は、素晴らしいものだったのですが」


「まー、また産まれてくるから大丈夫だろ。……ん、どしたユウキ、そんな暗い顔して」



 彼女たちが話している言葉が聞きたくなくて、俺はオペレータールームを飛び出る。どこに行くのか自分でもわからないのに、とにかく走った。目的地なんてない、ただ走った。


 どうなってんだ、ここは。世界を守る基地? 世界を守るためなら、何してもいいってのか?



「はぁ、はぁ……」



 行き止まりに突き当たり、立ち止まる。このまま、どこかに逃げてしまおうとも考えたが……ボタンの死に際の顔がちらついて、どうしてもそれは出来なかった。



『またいつか、みんなでクレープを食べに行こう』



 こんなちっぽけな、たった一つの約束さえも、守れなかった。その事実が、胸に焼き付いて消えない。

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