あの日の約束
「ギィイイイァアアア……!」
気持ちの悪い声をあげ、ウィザーが復活する。
斬られても活動を停止するどころか、分裂して動き出すなんて。こんな、ウィザーもいるのか。
一つが二つに増える。ただそれだけの変化……というわけではない。個体が増えたということは、個体から伸びる触手の数も倍になるということだ。
「くぅ!」
先ほどは、ひまわりの剣とたんぽぽの蔦、二人で触手をさばけていた状態だ。それで問題はなかった。
だが今は、単純計算で触手が倍になった。ひまわりとたんぽぽの負担も、増える。一個体の触手を一人で対処しないといけない。
先ほどは防御しながらも攻撃に転じることができていた。しかし、今は防戦一方。しかもすべての触手をさばききれない。彼女の服が裂け、肌が傷つけられる。
触手。そのうねうねと動くそれは、鋭い凶器だ。うねうねしているからといって、柔らかいわけでは決してない。それを受けないように、二人はいっぱいいっぱいだ。
そして二人がさばききれなかった残る触手は、当然ボタンへと襲いかかるわけで。
「ユウキさん、私の側に!」
「あ、あぁ」
ボタン自身と俺を守るように、植物のバリアが展開される。それは触手の猛攻を防ぐ。植物の根で構成されたそれは、見た目とは裏腹に頑丈だ。
しかし、無敵の防御なんてものはない。時間が経つにつれてバリアの強度はもろくなり、破れていく。触手の嵐は、やむことなくバリアを襲い続ける。
やがて、バリアだけでなくボタン自身にも影響が表れる。
「ぼ、ボタン……その体」
「……力を使いすぎると、こうなっちゃうんです」
ボタンの体には、明確な変化があった。顔色が悪いとか、息が荒くなっているとか、そんな生易しいものではない。
まるで、土塊が崩れるかのように、腕がぼろぼろと崩れ落ちていた。腕だけではない、顔も、足も、身体中が。
力を使いすぎると、寿命を縮める……それはつまり、こういうことなのか? 樹から産まれ、土に帰る……とでも、言うつもりか!?
「ボタン! 今すぐバリアを解い……」
「……たら、ユウキさんも私も、刺されて終わりです。ううん、ひまわりちゃんやたんぽぽちゃんだって……そうは、させないっ」
このままでは、バリアよりも先にボタンの体が参ってしまう。
しかし俺の忠告を聞くことはなく、ボタンの表情が、引き締まる。力を込めているのか、地面についた手先からはほんのりと光が溢れだす。
すると、バリアを作っているのとは別に地面から植物の根が伸びていき……ひまわりと、たんぽぽに巻き付いていく。それは二人を拘束するためのものではなく、さながら、植物の防具のようだ。
「これは……」
「二人、とも……行って……!」
ボタンの作った防具。それは、このバリアと同じく強度を誇るものだ。触手はひまわりたちの体に届かず、防がれる。それを好機と、ひまわりとたんぽぽは一気に攻め混む。
同時に、ボタンの体が崩れ落ちていく速度も加速して。
「ぼ、ボタン!」
目の前で崩れていくボタンを、俺は見ていることしかできない。俺が助けになりたいと思った少女は、俺を守るために命を賭けて……
「ユウキ、さん……また、くれー、ぷ……食べ、たいって、やく、そく…………まも……れなく、て……ご、め……な、さ…………」
「おい、こんなときに、なに言って……」
「せやぁー!!」
たんぽぽが、触手をさばく。ひまわりが、開いた道を潜りウィザーを斬りつける。それと同時に、触手を防いでいたバリアが崩れ、ボタンの体を触手が鋭く突き刺す。
「ぁ……」
ウィザーの体が何度も何度も斬りつけられ、再生できないほどに細かくなり、消滅する。
これで、なにもかも元通り……にはならない。俺の目の前には、体に空洞の空いたボタンが、ゆっくりと倒れていったのだから。




