受け継がれるもの
三人が、しっかりとクレープを味わい、満足そうな雰囲気を感じる。その中でも、一番感情豊かなガーベラは、お腹をポンポン叩いて気持ちを表現している。
「いやぁー、んまかった! これがあまいとかうまいってやつか!」
感情がないと言われる少女たちだが、隣を歩いているガーベラは間違いなく笑っている。もしも本当に感情がないなら、みんながみんな、ひまわりのように無表情でもおかしくないのに。
今のガーベラは、言葉を知らないだけの女の子……言ってみれば、教育されずに育った女の子だ。甘いを教えれば理解するし、笑いもする。
「なあ……ガーベラたちって、同じ花の少女なのに、ずいぶん違うよな」
まるで人間みたいだ。
だから俺は、遠回しに聞いてみた。なにか、個人で違うものがあるんじゃないか、と。
「んー、そうだなー。アタシはひまわりみたいに無愛想でもないし、ボタンみたいに恥ずかしがり屋でもないからな!」
「ぶあいそう……」
「は、恥ずかしがり屋ってぇ!」
ガーベラの評価に、二人とも不服そうではあるが……うん、その評価は間違っていない。言い得て妙ってやつだ。
施設からここまで来た道のりを、今度は、逆走して帰る。なにも考えずに見れば、単なる散歩の一幕、と思われるのだろうか。
だが、他の人と同じように歩きながらも……少しずつ、人がいない場所を通っている。いきなり人通りのある場所から消えるのではなく、徐々に消えていく……だから、誰にも不審がられることはない。
施設から出たときは、ただ目的のクレープ屋を目指すだけだったが……こうしてよくよく見てみると、ちゃんと考えられているのかもしれない。
まるで、徐々に周りの景色に溶け込んでいくカメレオンのようだ。俺たちの場合は、景色に溶け込んでいくどころか、周りから離れていってるのだが。
「けどまあ、アタシもどうしてこんなに明るくなったのかわからないんだよなー。産まれた時からこうだったっていうか……ユウキも知ってんだろ? 今のアタシらが命尽きたら、また新しいアタシらが産まれるってこと」
「あ、あぁ」
やっぱり……その事実を、受け入れているのか。
「その時、なんも記憶は引き継がれねえらしいんだけど……この性格とかは、引き継がれるらしいぜ?」
「性格?」
「そ。一番最初に産まれたアタシらはみんな同じように無愛想な人形だったらしいんだけどよ、それじゃつまんないと思ったのかは知らねえが……誰かさんが、こう考えた。『あの娘たちに猫じゃらしを与えたらどんな反応をするだろう』と」
「なんだそりゃ」
暗くなりつつある道を歩き、路地裏を抜け、公園を通り……誰でも通るような道を通り、しかし周りからは徐々に人が消えていく。
「するとどうだろう。ある一人はまったく興味を示さなかったのに、ある一人はひどくそれに興味を引かれた」
「つまり、みんな無感情だけど、性格まで一緒じゃないってこと?」
「そゆこと。不思議だよな、アタシらは人間じゃないのに、まるで人間みたいだ。人間だって産まれた時はみんな一緒だけど、その育て方で感性とかってやつは変わっていくだろ?」
そりゃ、確かに。
「けどそれなら、本当に人間と変わらない……」
「っと、そこまではな。問題は感情のあるなし。人間なら、一度『痛い』と思ったものにはもう近づかないだろ? 『痛い』って気持ちに恐怖があるからだ。けどアタシらは違う。それが『痛い』ってわかっても、『恐怖』ってものがない。『痛い』って感情がない。だから何度だって、『痛い』に近づいていく」
何を言っているのか、わかるようで、わからない。わからないようで、わかる。ガーベラの言葉は、そんな感じだった。
だけど、話している内容が苦しいものなのに……それを話す本人が全然苦しそうじゃないのが、とても苦しかった。
「で、さっきの続きな。猫じゃらしに興味を覚えたのがアタシ、無反応だったのがひまわりとしよう」
「なぜ私」
「いっからいっから。んで、そのガーベラとひまわりが命尽きました。そして次に産まれてきたガーベラはあら不思議、それが猫じゃらしだと知らないのに、猫じゃらしに関する興味は持っていたのです」
「じゃあ、ひまわりは猫じゃらしに興味を持たなかったのか」
「正解!」
「だからなぜ私」
不満そうなひまわりだが……言っては悪いが、わかりやすい例だったのでそのまま続けさせてもらった。
「じゃあ、ガーベラたちが、感情がないっていうわりに個性的なのは……」
「過去、前のアタシらに誰かさんがいろいろ教えてくれたんだろうねぇ。これはおいしいもの、とかこれは遊ぶもの、とか。でも記憶は残んないから、サ」
「残るのは感性だけってことか」
今まで、彼女たちが施設の外に出たことがないわりに、いろいろな言葉を知ってたり、感情がないというわりには人間味のある性格だとは不思議だった。
だけどそれは、過去生まれ変わる度に蓄積したものが、今に反映されているから。記憶は残らなくても、その身に焼き付いたものは残る。
それも、理屈ではわかるようなわからないような、曖昧なものだ。だからこそ、彼女たちの存在自体がひどく曖昧なものであると、わからせてくれる。
「そういうわけだからさ。今日食わせてもらったクレープの味、アタシは忘れちゃうけど、次のアタシにも同じもの食わせてやってくれよ」
そう語るガーベラの背中は、ひどく小さく思えた。どんな表情をしているのか、確認する勇気はなかった。
周りには人の気配がなくなり、一つの門が目の前にあった。それは施設と繋がる、大きな門。
いつの間にこんなに歩いたのか……それとも、あの地下室がウィザーのいるところに飛ばしてくれるように、施設へ飛ぶようななにかが働いたのか。それはわからない。
けど、クレープを食べ終えた俺たちは、ちゃんと帰って来た。初めての外出を、初めてのクレープを彼女たちに、堪能させることができたのだろうか。




