あまいくれーぷ
クレープとにらめっこを続け、一分が経つ。いや、気持ちはわかるけどそんな必死に見続けなくても。溶けちゃうから!
「おーい、そろそろ食いなって」
「ねぇ、これほんとに……」
「食べれるから。ほら、パクっといっちゃいな」
もう何度目だろう、このやり取りも。ほら、早く食べなよ。
くんくんとにおいを嗅いだり、あらゆる角度から観察してみたり、見ていて飽きはしないが……なんとも、おかしな光景だと思う。
女の子と出かけて、こうしてクレープをごちそうしてるんだから。いままではそんな余裕すら、なかったもんな。
両親が死んでから、生きていくのに必死だったから。
「では……あむ。……んー! んー!」
覚悟を決めたのか、クレープを一口食べるボタン。しばらく舌の上でそれを味わったあと、その場で飛び上がりそうなくらいに喜んでいる。足をパタパタやっているのがその証拠だろう。目も輝いている。
顔には、笑みが浮かんでいるし。まるで花が咲いたような、そんな笑顔。
「なんですかこの味! 口の中がほわほわして、とろけそうです!」
「多分、それ甘いってやつかな」
「あまい……」
この少女達には感情がない。それはつまり、食べ物を食べた時の味の感想さえもわからないというのだ。
いや、本来この子達に食事は必要ないらしいのだ。だから、味の感想なんて持ったことがないのだ。
樹から産まれたゆえに、水さえ与えておけば問題はない。口から補給するもよし、点滴のようなもので注入するもよし。
だから食事とは、本来必要のない行為。だけど……
「ユウキさん、ありがとうございます! このくれーぷ、とってもあまくておいしいです!」
「おうよ! こんないいもんがあったなんてなー。マダラメめ、内緒にしてやがったな!」
続くガーベラも、それはそれは美味しそうに食べている。喜ぶ彼女達の表情を見て、これが無駄なことだとは思わなかった。
一番表情がわかりにくいひまわりですら、その表情が輝いているのがわかる。うん、やっぱり連れてきて良かった。
「うん……おい、しい。くれーぷ、また食べに来たい」
「あぁもちろん! 次こそは、今日行くはずだったところへ連れてってやる! あそこ、人気らしいからな!」
ひまわりもボタンも、ガーベラさえもおとなしく座ってクレープに夢中で食べている。それほどまでに美味しいなら、俺も頼めばよかったな。
そう考えていたところへ、目の前にクレープが差し出される。それは、ひまわりが自分の分のクレープを差し出していて。
「……ユウキも、食べて」
そう言って、ぐいぐい差し出してくる。その……これってつまり、間接キスってやつじゃあ……?
……って、ひまわりとはすでにキスしてるじゃないか。それに、この子たちにはそんな感情はないようだし……ええい、ままよ!
「じゃあ……ぱくっ。……んん、うまい!」
おぉ、これがクレープってやつか! 初めて食べたけど、甘くてうまいな! これは女子が夢中になるのもわかる!
「おっ、ならアタシもやるよ! 連れてきてくれたお礼だ!」
「わ、私も……どうぞっ」
ひまわりに続き、二人からもクレープを差し出される。き、気持ちは嬉しいけどちょっと落ち着いて……!
そうやって、二人を落ち着けているところへ……
「ユウキ……今度また、くれーぷ、食べに連れていってね」
そう言って、笑った……ように見えたひまわりの表情が向けられる。それを俺はこの先、きっと、忘れることはないだろう。




