クレープを食べたい
その日は、唐突にやってきた。
「えっ、いいん……ですか!?」
「いいんですかって、お前さんから申し出たことだろう。ただし、ひまわりを一人にしないこと。それが条件だ」
ここで働くことになって数日。住み込みという形で働いている俺は、あの日にひまわりと約束した『クレープを食べに行くこと』の許可が下りたことに歓喜していた。
ここは、外に出るのもいちいち許可がいる。俺でさえ、まだ一度もこの外に出てはいないのだ。ま、それは、ここでの生活に慣れていくために忙しかったからだ。だが、ここも暮らしてみると悪くない……食べ物にも娯楽にも、困らないのだ。
つまり、外に出なくてもなんら不便がないように作られているということだ。
外に出る、とは言っても、ひまわりたち樹の少女には基本的に許可は下りない。出ても、誰かと同伴でなければ、ダメだ。理由は、国家機密だとか暴走されたら困るとか、そんなのらしい。むつかしいことはよくわからん。
だから、同伴するにしても、相応の信頼関係を築いた者でなければいけない。
「まだ数日だが、ひまわりはお前さんといる時は比較的にリラックス状態にある」
「そうなん、ですか」
いつも無表情だから見ただけじゃわかんないけど。けど、このおっさんがそう言うのならそうなんだろう。
「おいおいそんなに驚くなよ。外に出さないのだって、別に閉じ込めてるわけじゃない。一緒についていく奴がいなかっただけだ。ただし、あまり目立つなよ」
ならあんたが着いていったらいいじゃん、とは口には出さない。結構偉い人っぽいし忙しいんだろう。それに、一緒に行くのを彼女たちに断られたのではショックもでかかろう。
外出許可が出たことにより、ひまわりと外に出ることが可能となった。他の子には悪いが、まあそれは追々考えていけばいいだろう。
…………そう、思っていたのだが。
「おー、おー! これが外かぁ!」
「す、すごいです……!」
興味深そうに、辺りを見渡すのはガーベラとボタン。二人を見てから、対称的におとなしいひまわりを見ると……軽くため息を漏らしてしまう。
どうしてこうなったかというと……その理由は複雑、というわけでは全然ない。ひまわりだけを誘おうと思っていたところへ、地獄耳のガーベラがやって来て。さらに、いやに俺から離れようとしないボタンにもばれてしまったわけだ。
そんな二人を、放置していくなんて出来るわけもない。それに、ボタンはともかく、ほっといたらガーベラの奴なんか、他の子たちに俺がひまわりだけを連れて外出したことをペラペラ話しそうだし。
「ま、仕方ない。二人ともー、俺から離れるなよー」
一緒に外に出る人数が増えると、当然監視の目が足りなくなる。だから、一緒に出るのは三人、多くても四人だ。
もちろん、俺以外にも監視するやつがいれば別だ。人数が増えたところで問題はないが、残念ながら今回は俺一人だ。
「ユウキ、早く。えっと……くれーぷ? 食べに行こう」
「え、あぁ」
ちょいちょい、と服の袖を引っ張ってくるひまわりは、相変わらず無表情だ。しかし、その様子は……どうやら、彼女も楽しみにしていたのではないかということがわかる。
まったく、素直になればいいのに。いや、楽しみって感情がないのだから、これがひまわりの素直の形なんだろう。
「たはは、別にクレープは逃げやしないって。じゃ、行くか。おーい、ついてこーい」
ひまわりに比べ周りに興味津々なガーベラとボタンを呼び、三人を引き連れ歩いて行く。その間も、誰か一人でも勝手にいなくならないように注意しなければならない。
特に、ガーベラは要注意だ。さっきもだが、目を離すとすぐどこかに行こうとする。まったく、これじゃ世話係どころか子守りだ。
「これは、ひまわりや、ボタンはまだおとなしいからいいものの……ガーベラみたいな子がもう一人増えただけでヤバいかも」
疲労感が半端ではない。
それにしても、こうして歩いてると、やっぱり普通の女の子だよなぁ……周りを歩いている人たちも、まさかこの小さな女の子たちが、世界を救うために戦っているなんて誰一人思いもしないだろう。
それに。三人とも、ウィザーと戦うとき……というか施設にいるときは軍服っぽいものだったのに、今は普通に私服なのもそれを思わせる。
白いワンピースで清楚な印象を与えるひまわり。それに、彼女の被っている麦わら帽子がどことなく涼しさを感じさせる。別に、ひまわりだからイコール麦わら帽子をかぶらせたわけではない。多分。だって三人のコーディネートしたの、女の研究員さんだもん。そう、この間俺の部屋に来た人だ。
なぜか『G』と大きくプリントされたシャツを着ているガーベラは、活発な彼女らしく短パンで行動している。白く伸びた脚は健康そうなものを思わせる。あのシャツもあの人が選んだのか、それともガーベラが譲らなかったのか。おそらく後者だろう。
ボタンもワンピースを着ているが、こちらはフリルがあしらえてある。それに、ワンピースではあるがこちらはミニスカートタイプ。さらに肩回りを冷やさないためか、上から薄手の服を羽織っている。
そんな感じで、三人のことを観察しつつも歩いていると、やがて目的地にたどり着き……
「お、ここだな。ほれ、どれがいい……か」
クレープ屋が閉まっていることに、俺は絶望した。




