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甘い食べ物をキミに



「おーユウキー。お疲れさん」



 部屋に戻ると、真っ先にガーベラが近寄り俺の肩を叩いてくる。どう考えてもお疲れはガーベラの方なのだが、ねぎらいは素直に受け取っておこう。


 こうして見ると、とても感情がないなんて思えないんだがな。



「ここには、いろんな子がいるんだな……」



 ボタンやガーベラ、ひまわりにヘリコニア……彼女ら以外にも、この部屋には何人かの女の子がいる。みんながみんな、ウィザーと戦うためだけに産まれた子たち……ということだ。


 この子たちの世話係を、任されたわけだが。思ったより、大変かもしれないな。



「えっと確か、あさがお、トレニア、ガザニア……」



 部屋に来るまでの間、ボタンに聞いていた少女達の名前を、特徴と照らし合わせて、覚える。花の名前だから、覚えるのにそこまで労力はない。


 とはいえ、俺だって花に詳しい訳じゃない。中には初めて聞いたものもあるし、特徴が似た子だっている。


 こうして見ると、皆普通の女の子だ。とても、戦うために産まれてきたとは思えない。みんな、話したり笑ったり……きっと笑うことはあっても、どういう感情が生まれて笑っているのか、はわからないのだろう。


 その事実に、俺はなんとも言えない気持ちになる。



「……あ、そうだ」



 一通りのメンバーを把握したところで、視線が止まる。その先にいたのは、ひまわりだ。


 俺はひまわりに、大事なことを伝えるのを忘れていた。なので、ここで伝えてしまおう。


「ひまわり!」


「……なに?」



 床に座っているひまわりへと近づき、彼女の注意を得る。相変わらず無表情のままにこちらを見上げているが、それでも伝えることは変わらない。



「えっと、ありがとな。あの時、助けてくれて。まだ、お礼言ってなかったと思ってさ」



 俺が、そもそもここへ連れてこられるきっかけとなった出来事。あの日、化け物に……ウィザーに襲われていた俺を、ひまわりが助けてくれたのだ。


 そのことでここへ拉致されることにはなったが、あのことを恨んじゃいない。むしろ、命を救ってくれたのだから。感謝こそすれど、恨みなんて筋違いなことを思いはしない。



「……?」



 しかしひまわりは、ピンとこない表情だ。こんな形で、初めて無表情以外の表情を見ることになるとは。


 ま、まあ仕方ないか……助けられた俺と、助けたひまわりとじゃ認識も違うだろうしな。


 なにかお礼……をしたいが、なにをすればいいのか。ひまわりが覚えてなくても、俺が個人的にしたいことだしな。


 それに、ここから世話係としての足掛かりのようなものが、掴めるかもしれない。掴めるといいな。



「……そうだ! ひまわり、クレープって好きか? ごちそうするよ!」



 うーんと考え、ふと、思いつく。まだ学校に通っていた頃だったか……クラスの女子が、甘いものが好きだと話していたのを思い出す。駅前のクレープを、食べてみたいって話をしていた。


 もちろん、俺がその会話に混ざっていたわけではない。女子の集団が話していたのが、聞こえただけだ。


 その時から俺の中では、女の子=甘いもの好きになったんだよな。これなら、無表情のひまわりでも、なんらかの反応を見せてくれるはず。



「……くれーぷ? なに、それ」



 だが、返ってきたのは予想もしていなかった答えだった。てっきり、女の子ならば絶対知っているものだと思っていた。



「え、なにって……ほら、聞いたことない? クレープって甘い食べ物らしいんだけどさ。駅前とか、よく売って……」


「……私達、この施設から出たことないの。だから、くれーぷとかえきまえとか、そういうのはわからない」



 ……衝撃だった。クレープというものを知らないんじゃない、この施設の外にあるものを知らないんだ。


 そういえば、前に……外の世界がどうとか、言ってたな。もしかして、施設の外=外の世界ってことなのか? この子達は、こんなところに閉じ込められて、外にも出してもらえずに、当たり前のような知識さえも与えられなくて。



「……くそっ」



 こんなもん、放っておけるわけない。世話係なんて言って、こんな重大押し付けやがってあのおっさんめ……



「……ユウキ?」


「なんでもない。今度、そのクレープってやつ食わせてやるよ。ほっぺが落ちるくらいうまいぜきっと!」



 ほっぺが落ちるとは、もちろん比喩であるが……きっと、おきに召してくれるはずだ。ま、俺は食ったことはないんだけどな!



「……うん。楽しみにしてる」



 そう言って、うっすらと笑う。


 彼女の言った、楽しみという感情は……彼女自身果たして理解できているのだろうか。それは、わからなかったが。

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