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やがて散る者



 俺の役割……それは、ひまわりたち花の少女の世話係。世話係と聞くとぼんやりしているようだが、要するに彼女たちにストレスを溜めさせない、そして発散させる方法を考えろってことだ。


 その理由は、彼女たちがストレスを溜めないことが、彼女たちの寿命を伸ばすことになるからだ。彼女たちの精神状態が安定するかどうかで、彼女たちの命を伸ばすことになるか縮めることになるかを左右する。


 それにしても、俺もなんだかよくわからない役回りを押し付けられたもんだ。


 だいたい、俺より少し若いくらいの子に……そんな相手に、彼女いない歴年齢の俺がなにかできるとも思えない。いくら人間じゃないと言っても、女の子であることに変わりはないのだから。



「あっ、ゆ、ユウキさんっ」



 オペレータールームから出て、先ほどひまわりたちがいた部屋に戻るために歩いていると……少し歩いた先の壁に、ボタンがもたれていた。もしかして……待ってくれていたのか?


 彼女は、俺に近寄って……



「あ、あのっ。部屋、わかんないかと思って……」



 と、うつむきながら話す。どうやら、俺が迷わないために待ってくれていたらしい。いい子だ。


 こんなおっとりした子が、先ほどまであんな化け物と戦っていたなんて信じられない。俺を守ってくれるという役割ではあったとはいえ、そんなのわずかな問題だ。


 むしろ、目の前で守ってくれただけに彼女のすごさは一番よく伝わっている。



「ありがとう。じゃ、案内してくれる?」


「はいっ」



 先ほどの斑目との会話が、頭の中をぐるぐる回る。この子は、人間ではない……ウィザーとの戦いのために産まれ、いずれ消え行く命。それを、本人は……知らないはずない、か。


 受け入れた上で、みんなここにいる。あるいは、本人の意思とは関係なく強制されているのかもしれないが……そんな感じは、しなかった。


 戦いのために産まれ、散って、そしてまた……その、繰り返し。それからは、逃れられない運命なのだろうか。


 まるで、植物が地面に根を張るように、複雑に絡み合った運命から、彼女たちは逃れられない……なんて、そんなうまいこと言ってる場合でもないんだよな。



「あの、ボタンちゃん……」


「ボタンでいいですよ。なんですか?」


「えっとさ……怖いとか、ないの? あんな化け物と戦うなんて……」


 

 本人にそんなことを確かめるのは、もしかしたらものすごく失礼なことなのかもしれない。理不尽な運命に、俺なんかが踏み込んでしまっていいのかと。


 だが……それやわ聞かずには、いられない。彼女の真意は、いったい……



「……こわい?」



 俺の質問を聞いたとたん、ピタ、とボタンの足が止まる。やっぱり、聞くべきじゃなかったか……怖いなんて当たり前だろう。むしろ、なんでこんな運命に縛られなければならないのかと、憤怒しているかもしれない。


 彼女が何を言っても、俺は受け止めるつもりでいた。だが……



「こわい、って、なんですか?」



 ……だが、振り向いた彼女の口から出たのは、俺が予想もしていない言葉だった。だって、そうだろう。怖いとはなにか……そう聞き返されたのだから。


 思わず、俺も足を止めてしまう。俺は、なにかとんでもないことを聞いてしまったのではないかと思って。



「いや、その……ほら、ウィザーに対して恐怖とか、さ。そういうの、感じないのかなって」



 怖いって、なんだ。どう言葉で説明すればいいのか、改めて聞かれるとわからない。だから、言葉に詰まってしまう。


 ……いや、そういう問題ではない。怖いとはなにか……そんな当たり前の感情を理解していないことに、言葉を失ったのだ。



「……ごめんなさい。そういうのは、感じないんです。なんて言えばいいか……私達は、ユウキさんたち人間が当たり前のように感じることのできる『感情』というのがわからないんです」



 感情がわからないと、彼女は笑う。その笑顔は、少し寂しそうで。


 感情がわからないなんて、 そんなバカな話があるもんか。そう言いたかったが、とても彼女が嘘をついてるようには思えない。


 それに……



『たいくつ? なんだそれ』



 あの何もない部屋で、退屈でないのか聞いたあのとき。ガーベラから返ってきたのは、こんな言葉だった。あのときは、あまり気には止めなかったが……こういうことか。


 退屈を感じていなかったのではない。退屈という『感情』がわからないのだ。


 ……まてよ。怖いって感情がわからないのだとしたら。彼女たちは、恐怖心なんて持っていないということ。ウィザーとの戦いに、恐怖を感じず……それどころか、一切の感情を感じないままに立ち向かうことになる。



「……馬鹿げてる……!」



 考え、結論に至る。あくまで想像の範囲内だが……多分、これが真実だろうという結論。


 感情を持たないということは、無機質に敵に立ち向かえるということ。恐怖という感情は時に動きを鈍らせるが、感情がなければ動きが鈍ることもない。


 感情なんて、邪魔なだけ……なんとも斑目が言いそうなことだ。ただ、感情をなくすなんて行為を斑目達がやってるのか、それとも樹から産まれた時から欠落しているのか。


 ……おそらく後者だろうな、と思う。感情がなければ都合がいい、と考えそうなのは斑目だが、わざわざ感情を消してやろうなんてことは考えないはずだ。


 だとしても……だとしても、これはあまりに……



「ユウキさん、どうしました?」



 立ち止まり、拳を握りしめる俺を心配してくれてるのか、不安げにボタンが問いかけてくる。感情がないというわりに、こういうところは人間らしい。



「なんでもないよ、行こう」



 戦いを続け、続け、続け。その果てに散っていく。そのために産まれた、感情も持たない存在。これじゃまるで、人の形をしただけの兵器だ。あるいは、それが正しいのかもしれない。


 だが、そのために生き続けるなんて……あんまりじゃないか。これではあまりに、救われない。


 それとも……こんな運命を背負った少女達になにかを残すことが、俺の役目なのか?


 感情がない相手の精神状態を、どうやって安定させろというのだ。そんな矛盾した疑問を……追及する気にはなれなかった。すでに今の時点で、矛盾した問題だらけなのだから。

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