選ばれた理由
ひまわりの花が枯れたとき、ひまわりは消えてなくなる……そんな突拍子もない話を突然突きつけられて、俺は開いた口がふさがらなかった。
消えてなくなるって……それはつまり、死ぬってことなのか?
「信じられない、って顔だな。気持ちはわからんでもないが、俺たちはそれを何度も見てきた。それはなにもひまわりだけじゃない。あの樹から数々の花の少女が産まれ、消え、また同じ花が産まれ……繰り返し何度もな」
嘘を言っているようには……見えない。嘘をつく必要もないが、こればかりは嘘であってほしいと願う。あのふてぶてしい態度で、嘘でしたと言ってくれないだろうか。
だが、その願いは叶うことはないのだろう。
あの樹から産まれた少女は、あの花が枯れると消える。それが事実として、そこにあるようだ。
……ここで、斑目の言い回しに妙な含みがあることに気がついた。
「……なあ、今のどういう意味だ? 同じ花が産まれ、って言ったよな」
言ってから俺は、気づいた。俺は、とんでもないところに足を踏み入れてしまったのだと。
「……花が枯れると、それで終いじゃあない。花が枯れると、そこから新しい花が産まれる。この意味が、わかるか?」
「……わかりたくはないんですけどね」
頭の端に、チリチリとした痛みを感じる。受け入れたくない現実がそこにあるとき、無意識のうちにそれを拒もうとしているのだ。
だが、現実は逃げ道を残さない。
「たとえばだ。いや、事実として起きているからたとえばではないんだが……今後必ず起こる話だ。『今の』ひまわりが消えると、その後『新しい』ひまわりが産まれる。もちろん、まったく別の存在として、な」
それは、受け入れがたい現実。
つまり、こういうことらしい。『ひまわり』の花が枯れると『ひまわり』の少女が消える。その後、枯れた樹は再びひまわりの花を咲かし……同じように『ひまわり』が誕生する。
それだけなら、やられても甦る不死身の存在だ。だが新しく産まれた『ひまわり』は、以前の『ひまわり』ではない。以前の記憶などなく、俺たちが知っているのとはまったく別の『ひまわり』が誕生する。
「現に今のひまわりやガーベラたちは、俺たちが初めて会った奴と別人だ。俺たちはあいつらのことを知ってても、あいつらは俺たちのことを知らない。ただ、覚えているのは自分たちの役目だけだ」
『ひまわり』という存在は何度でも産まれる。しかし、以前の『記憶』までは引き継いでいない。『花の少女』が死ぬことはないが、新しく誕生するのはまったくの別人だ。
『ひまわり』は何度でも産まれるが、今の『ひまわり』がいるのは今だけだ。……それは果たして、死んでないことと変わりはあるんだろうか。
「だからもう一度言う。あまりあいつらに入れ込むな。最期が辛いだけだ」
「……じゃあ、俺に何ができるっていうんですか」
人ではなく道具としてとしか見ていない……そう思っていたが、もしかしてこの人は、別れが辛いからそう振る舞っているだけなのか?
さっき、何度もって言ってた。この人は、よっぽど多くの別れを繰り返している。俺は、まだそんな目にはあっていない。というか、完全に信じられていない。
斑目という人間が、何度も、ひまわりやガーベラ、その他の少女と出会い……別れてきたのだとしたら。
「あいつらの、世話係。簡単に言えば、あいつらの清涼剤になってくれってことだ」
「すいません、簡単じゃないです。ってか意味わかんないです」
せっかくこの人のことを見直そうとしてたのに、ここにきて意味のわからないことを言うなんて。
「あー、説明めんどいな。ほら、あのひまわりの花、なんで枯れてると思う?」
頭をかきむしり、ひまわりの樹を指す。
なんで枯れてるか……か。そりゃ、植物なら枯れるものだろうが、それにしたってウィザーと戦う前と後でペースが早いような……?
「それは、ひまわりが『力』を使ったからだ」
「……力?」
「あぁ。見たろ、あいつらの力……植物を自在に操り、戦う。だが、その力もリスクがないわけじゃない。植物の力を使うと、樹の養分を吸い上げていき、結果的に枯れを早めてしまう」
力を使うと、枯れるスピードを早めてしまう……つまるところ、そういうことらしい。
それじゃあ、ウィザーと戦う=あいつらの死期を早めるってことなんじゃないのか……!? 本格的に、ウィザーと戦って死ぬためだけに産まれた存在ってことじゃないか!
戦いってのは危険なものだろうけど……生きるために、戦うはずだ。その戦いのせいで、自らの死期を早めるっていうのは、とんでもない矛盾だ。
「しかし、枯れを遅延させる方法がある。そもそも枯れというのは、あいつらの精神状態に依存する」
「精神状態?」
「詳細はわからんが、あいつらがリラックス状態にあるときとそうでないとき、同じ力を使ったのでも枯れに差があるのが判明した」
それはつまり、精神状態が不安定だと、自分の命を縮めてしまうということだ。
これと、先ほど斑目が言った清涼剤という単語……あぁ、なんとなく読めてきたぞ。
「だから、キミに……」
「あの子達の心をリラックスさせるために活動しろ、と」
「ご名答」
これが、俺が彼女達の世話係に選ばれた理由って訳か。ただ、リラックスと言われても……何をすればいいのか、まったく想像がつかない。




