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人か否かか



 違和感に髪を引かれつつ、オペレータールーベンスへと戻ると……



「どうだった少年、感想は」



 開口一番に、斑目が聞いてくる。俺なんかより、ひまわり達に「お疲れ様」くらいの労いの言葉があってもいいのに……


 だが、四人の方も特に気にした様子もない。



「どうと言われても……ただ驚きがあったくらいしか言えないというか」



 あんな化け物を目の前で見せられて、どうもへったくれもないだろう。何度も言うが、俺はまだこの状況をすべて理解できていないのだ。


 この少女達は樹から産まれたと言われ、ウィザーという化け物と戦っていて、それを何度も繰り返していると。これをこの短期間でどう呑み込めというのだろうか。


 理解はしても納得はできない。



「そもそも、なんなんですかウィザーって」



 なので、とにかく根本的な疑問を、ぶつける。そもそもなんなんだ、あの化け物は。



「さあ、わからん」



 そんな俺の純粋な質問に、返ってくるのはたったそれだけ。何かしらを期待していた俺は、肩透かしをくらう。



「は、あ?」


「ウィザーってのも、便宜上の呼び名だ。奴らは、あるとき突然現れて破壊の限りを尽くしていった。奴らには、一般的な兵器は効かない。対抗するために、そいつらがいる」



 口にくわえていたタバコを取り、それでひまわり達を指す。そのまま淡々と、話していく。


 つまり正体不明の化け物を倒せるのは、この子たちしかいないと。そのために、俺を含めたみんなただ指をくわえて見てるって訳だ。



「ちなみに、あの樹に対する質問も同じ答えだ。わからん。なんでこんなところに生えてるのか、なんでこいつらを産むのか。おまけに、この樹の近くでないとウィザーの出現場所に飛べない」


「だから、樹がある場所に施設を作った……」


「ビンゴ」



 ビンゴ、と指を鳴らす。しかし当たっても、嬉しくはない。というか、わからないことだらけじゃないか。


 わかったのは、どうして施設の中に樹があるのかということだけ。そもそも逆だったんだ……施設がある場所に樹を植えたんじゃない、樹がある場所に施設を建てたんだ。



「これは本来、国のトップシークレットだ。ウィザーのこと、ひまわりたちのこと、あの樹のこと……こんな化け物がいるなんて世間に公開したら、パニックになるのは目に見えてる。だから俺らは、秘密裏にウィザーと戦っていた……」


「俺ら、じゃなくてこの子たちが、でしょ」


「手厳しいねぇ」



 どんな理由があっても、この子たちに危険を押し付けていることに変わりはない。それは、あの場にいて守ってもらうしかできなかった俺も同じことだが。


 ……世の中には知らない方がいいこともあるってのは、このことかもな。



「おい、お前らは休んでていいぞ。もう少し少年と話があるんでな、お前さんは残れ」


「わかった」



 斑目は、休んでていいと言いつつ暗にひまわりたちにここから去るように伝えた。四人は、別に疑問を感じてはいないのだろう。何を疑うでもなく、部屋を出ていく。


 わざわざ俺だけを残したってことは……



「俺に、何を望むんですか」


「はっはぁ、いいねぇその態度。話がサクサク進んで助かる」



 斑目のそのふてぶてしい態度も、ここまでくるとあまり気にならなくなっていた。というか、もう気にすまいと思った。今気にすることは、俺が何をしたら……あの子たちの助けになれるのか。


 それを、今から教えてくれるんだろう。



「まあ俺が言うことは、そうだな……あいつらに、あまりの入れ込むな。あとが辛いだけだ」



 だが、言われた言葉は俺の想像していたのとはまったく違ったものだった。



「……はぁっ?」



 急に、何を言い出すんだこのおっさんは。以前は、あの子たちの世話係を任せるとか言っといて……今度は、入れ込むな?


 このおっさん、頭いかれちまったのか。世話を焼いてたら入れ込むななんて、無理だろう。



「意味が、わからない。世話しろって言ったり、入れ込むなって言ったり」


「そうか? 単純なことだろう。そうだな……たとえば、お前さんが花を育てていたとする。水やりなどの世話はするだろうし、大切に育てるだろう。が、仮に花が枯れてしまったらどうだ? 枯れてしまったことは悲しいかもしれないが、それだけだ。それ以上なにを感じることもないだろ? また、次を育てればいい……そう思うはずだ。その距離感を、あいつらにも保て」



 ……この人は……



「次って……花と人じゃ、全然違いますよ」


「あいつらは人じゃない」



 この人は……本気で、あの子たちを、ひまわりたちを人として見ていない。ただの道具として、ウィザーという化け物に対抗する兵器としてしか見ていない。


 俺がこの人に対しての不信感を募らせたところで……なにか状況が変わるわけでもない。だが、これはあまりにも……


 斑目が、窓の外に見える樹を指す。



「あの樹……ひまわりの樹だ。お前さんらが飛ぶ前とその後、何か変わったことがあるのに気づいたか?」


「……少し、ひまわりが枯れてるような、気はしましたけど」



 今度は何を言い出すかと思えば。変わったこと、とは……俺が気のせいかと感じていた違和感。ひまわりの花が、先ほどよりも枯れている。


 そのくらいしか、思い浮かばない。



「正解だ。そして、あの花……『ひまわり』の花がすべて散ったとき、『ひまわりは』、消えてなくなる」


「……は?」



 ……何度目だろう、こうやって反応するのは。だが、今のはこれまでで一番、ぶっ飛んだ話であった。


 俺は今日、何度驚けばいいんだろう。それに、いったいあの子たちに、何ができるのだろう。

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