強くなるために
一段落したところで、僕達は休憩を取った。
コンビニで何か買いに行くかと思ってたけど、影富先輩がちゃっかりとおにぎり
とか作って来ちゃっていたので買いに行く手間が省けた…が。
「雪村君、あーん~」
「やめてください。自分で食べられますから」
から揚げを爪楊枝に突き刺して食べさせようとする影富先輩。
するとそれを見ていた桜子は…
「真さん」
「なに?」と桜子に振り返った瞬間、影富先輩と同じような行動をとって
いた。しかも恥ずかしそうにしているのが顔を見ただけで分かってしまう。
僕はそれを見て、桜子が持っていた卵焼きをパクッと食べた。
「うわぁ、ひどいっ!僕のは食べてくれなかったのにぃ」
影富先輩は両手を顔で覆って号泣した。大げさにしているだけであろうが
相当ショックを受けているには違いなかった。
「真さん、美味しいですか?」
「美味しくなかったら食べないでしょ」
「じゃあ、もう一回あ~「調子に乗んな。やらないからね」
「えぇ、そんなっ!?」
よっぽど嬉しかったのか、桜子はしつこく「もう一回!」と言うが
僕は彼女の願いを叶えようとはせず、一人でもくもくと食べ続けた。
食べ終わった後、
「先輩、ごちそう様でした。美味しかったですよ」と影富先輩を回復させて
僕達は作業に戻ったのだった。
そしてあっという間に夜になった。
「すっかり暗くなっちゃったね?雪村君、家まで送ってくれる?」
「えぇ~めんどくさいなぁ」と言いつつも、桜子に留守番を任せて影富先輩
を家まで送ることにした。
「先輩、自転車とか持ってないんですか?」
「えっと、恥ずかしながら。僕…自転車乗れないんだ」
「…いや、それはないでしょ?」
「あははっ、そうだよね。実は言えない事情で、自転車壊しちゃったんだ」
「言えない事情って…何したんですか?」
「それより、雪村君」
話を別の話題に切り替えようとしている影富先輩。
よっぽど自転車については触れられたくないのか?
「氷浦家に行って、君は今より強くなりたいらしいけど。それは、本当に
君にとって必要なことなのかい?強さだけが、大切な人を守れるとは限らな
いんだよ?」
「先輩、弱いままだと僕はあいつを守ることすらできません。だから僕は
氷浦にいっ「僕が言ってるのはそういうことじゃない!」
先輩が怒鳴った。
僕は、何か場違いなことを言ってしまったのか?とどうして先輩が怒ってる
のかが分からなかった。
「君は兄弟がいないから分からないかもしれないけど、突然訳も分からなく
弟と別れて…本人に会えない、手紙や電話のやりとりすらも許してもらえな
かった思い出したくもない経験を…君はまさしくそれと同じようなことをして
るんだよ?」
「僕の言っている意味が分かる?氷浦はここからすごく遠いし、修行だって
いつ終わるか分からない。工藤さんはまだ目を覚ましてないみたいだけど、
目を覚まして君がいなくなってることを知ったら…彼女、心が崩壊しちゃうよ?ただでさえ氷浦さんとのことで熱出して休むくらいなのに。君はそれでも本当に行くの?」
「だったら…どうしろって言うんだよ」
「やっぱりそこまで考えてなかったんだね?雪村君」
「考えてなかったわけじゃない。でも、そこまで考えると行けなくなるじゃ
ないですか?目を覚まして退院したとしても、また同じことが起きたら…。
レッドアイがあるから回復力が高いってだけで、普通の人間だったら木野原
とのあの事件ですでに死んでるんですよ?僕を助けるために、僕の目の前で
死んでたんです」
あの時のこと、今でも思い出したくはない。
レッドアイの暴走で木野原が僕に仕掛けた攻撃を止めることが出来なくて。
魔法力が尽きてもうだめだと思った時、あいつが瞬間移動して…。
気が付いたときには…あいつは僕の目の前で倒れてた。
僕はそれを受け入れられなくて、必死に声をかけたけど…彼女は返事を
することも、身体をぴくりとも動くことすらもなかった。
「僕はもう力輝をあんな目に合わせたくない。今のままだと、僕はあいつの
足手まといにしかならないし、いざあいつがピンチの時に助けられないかも
しれない。そんなのはもう嫌なんだ。先輩が何を言おうが、僕は氷浦に行く。
今より強くなって、力輝を守れる存在になる」
「…僕はちゃんと忠告したからね?どうなっても知らないから」
影富先輩はいつもと違って、本当に先輩らしかった。
ようするに「男らしい」という意味で。
それから影富先輩の家に着くまで、僕は先輩に一言も話さなかった。




