突然の訪問
風呂から上がった後もアリスはしつこかった。
桜子がなんとか話を逸らそうと頑張っても、彼女はまた同じ話題に戻そうとする。
お昼からもまた道場で『雪柳』の練習をするが、一旦上はTシャツだけ着ることにして
桜子達と共に銭湯から出てすぐのことだった。
「真さん、あそこに誰か人がいます」
「えっ?どこ?」
「ほら。あそこです」
ここからだと遠くではあるが、確かに一人の人間が辺りを物色している。
「家政婦さん…とかじゃないよね?」
「たぶん?」
「えっ、ちょっと何?ってことは不審者なの?ねぇ!」
「アリス、ちょっと黙って。桜子、アリスとここにいて。僕が見てくるから」
「分かりました。お気をつけて」
「分かってるよ」
ここで『吹雪』を使って、僕は不審者(仮)に近づくことにした…が。
「ん?…なんかいるな」
トントン。
「うわっ!?…びっくりしたぁ…」
「それはこっちのセリフですよ。…何しに来たんですか、影富先輩」
「やぁ。久し振りだね、雪村君。いや、今は氷浦君だっけ?」
「雪村でいいですよ。桜子と被りますから」
「いやぁ~氷浦の家に初めて来たけど、随分ご立派なお屋敷だね~」
「それより、何しに来たんですか?まさか泥棒に来たとかじゃないでしょうね?」
「失礼だな。僕はそんなことしないよ!実はね「あっ、影富先輩じゃないですか!?」
「やぁ、お久し振り。氷浦さん」
「お久し振りです。どうしたんですか?またお会いできて嬉しいです!」
大げさだな。あれから5か月?ぐらいしか経ってないのに。
「それより、後ろにいる金髪の美少女は…氷浦さんのお友達?」
「はい。同じ星羅に通う三好玲央奈さんです」
「どっ、どうも。初めまして…」
「こんにちは、影富岬です。よろしくね、三好さん」
「それで、影富先輩。本日はどのようなご用件で?もしかして遊びに?」
「それもあるけど、二人にお土産を渡しに来たんだ」
「「「お土産?」」」
「あぁ~もうやっと帰って来た」
「沼口。お前も来てたのかよ…」
「おう、久し振りだな。雪村」
「まぁ。沼口さんもいらしてたんですね!」
「久し振り、氷浦さん。沼口先輩が氷浦さん家に行こうって朝早く家に来たからさ、ついでに土産
渡そうと思って付いて来たんだ」
「まさかの突然訪問かよ」
もし仮に沼口がいなかったら、どうしてたんだろうか?いや、この人にそんな心配は不要か。
「ほれ、お前に言われた通り買ってきてやったぞ。メロン」
沼口がまだ箱に入った状態のメロンを持ち上げて僕に見せる。
「本当に買ってきたのか…」
「お前が買ってきてって言ったんだろ?」
「冗談のつもりだったんだけど」
「まぁ、いいじゃねぇか。せっかく買ったんだしさ、皆で一緒に食べようぜ?そういえば…後ろにいる
金髪美少女さんは氷浦さんの友達?」
「あぁ。彼女は三好玲央奈って言って日本人とイギリス人のハーフ。外国名はアリス・フィリアで僕達
はアリスって呼んでるんだ」
「なんだそれ、かっけぇな!」
「アリス。これ、僕の友達の沼口」
「どっ、どうもはじめまして…」
「よろしくな。っていうか雪村、「これ」ってなんだよ?「これ」って」
「別にいいでしょ?」
「もっと他に言い方があるだろ?例えば、「僕の大親友です!」とか」
「何それ、やめて」
「例えばの話だろ?別にはきはきとしなくてもいいし」
「そこは「友達です」の方がまだましだよ。大親友ってそんな…」
「だから例えばの…「はいはい。二人共、その話はおしまいにしてお昼にしよう」
影富先輩がどこからか大きいお弁当箱を持ってきて見せびらかすが、生憎それは僕達には必要ない。
「すみません。僕達、家政婦さんに作ってもらっているので…食べないわけには…」
「じゃあ、これもお土産ということで!」
「弁当がお土産って聞いたことないですよ、先輩。それよりも先輩達が食べればいい話じゃないです
か?あそこからここまで来たんだから結構大変だったでしょ?」
「えっ、何?心配してくれるの?嬉しいなぁ~。大丈夫だよ、僕達電車の中でお昼ご飯食べたから」
「ふーんーコンビニで買ったんですか?」
「ううん。これとは別に作ってあったのを」
こんな大きい弁当こしらえといて、自分達用に作ってるなんて用意周到かよ…。
全く魔法師一族の遠縁に当たるとはいえ、未だにこの人の謎は深い。『吹雪』で近づいたのに、気配
で分かったのかばれちゃってたし…本当に。
「そうだ雪村君。僕、大学に進学したんだ」
「おめでとうございます」
「でねでね。進路のことで悩んでいるなら僕と同じ大学に…「それは嫌です」
「えぇ~なんで?」
「なんでって、先輩と一緒の大学にしたら絶対について来るでしょ?お昼一緒に食べよ~とか」
「でも、氷浦さんと同じ大学に行くよりはましじゃない?それに今だって星羅に一年間っていうことで
通ってるんでしょ?」
「…先輩。前々から思っていたけど、いったいどこでそんな情報を仕入れてるんですか?」
「うーんとね。内緒?」
「桜子、喋ってないよね?」
「もちろんですよ」
沼口はそのこと教えてはないから、話すはずがない。
ということは、やっぱりどこからか情報が漏れているということになる。
まぁ、先輩のことだから悪用はしないはずだけれど。
「真…」
「何?アリス」
「…おなかすいた」
「あっ、ごめんごめん。久し振りだったから、つい。お昼にしよう」
「アリスさん、どうぞこちらへ」
「先輩、適当に空いてる席に座ってください」
「…うん」




