月ノ宮の分家「嘉瀬」
中に入ると、桜子とは比べものにならないほど地味な部屋だった。
本当にこれが女子の部屋なのか?
「真、なにぼーっとしてるのよ。早く座りなさい」
「あっ。うん…ごめん」
僕はアリスに言われてすぐに腰を下ろした。
「二人共、何か飲む?と言ってもお茶ぐらいしか出せないけど」
「お手伝いしましょうか?」
「いいわよ。これぐらい一人で大丈夫だから」とアリスは三人分の湯飲みを用意しお茶を入れて
僕達のところへと持っていく。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「それで、どうするの?ここまで来ちゃったけど」
「大丈夫、今からそれをやってみせるから。桜子、よろしくね」
「はい」
数分後、桜子は一人でアリスの部屋から出て行った。
堂々と歩いている桜子を近くで見ている少女の姿を、僕とアリスは捉えた。
だが、桜子は気づいておらずそのまま歩き続け角を曲がろうとしたところで僕達は彼女に声をかける。
「ちょっと良いかしら?」
「えっ!?」
突然声をかけられたことに驚いた少女。
黒髪の三つ編みにメガネ。良く見ると彼女は星羅の中等部の制服を着ている。
「貴方、私を付けてたわね?」
「えっ?そっ、そんなことしてませんよ。私はたまたま…」
「じゃあ、なんで桜子を見てたの?それに、明らかに付けようかって悩んでたよね?」
「うわっ、どうしてそれを!?」
分かりやすいというか、こいつも嘘が顔に出るタイプだな。
「はっきり言わないと、学校に通報するよ?高等部の女子をストーキングしてたってね」
「えっ!?そっ、それだけは…」
「じゃあ、白状しなよ?どうしてアリスと僕達を付けてたのかを。でないと…凍らせるよ?」
僕は大げさに彼女やアリスに冷気を出してみる。
それを見た二人は驚いて無意識に僕から距離を置く。すると、それを見ていた桜子が走って僕の元へと
駆け寄って来た。
「真さん、ダメですよ。女の子を怖がらせちゃ」
「桜子!」
救いの女神がやってきた!と言うようにアリスは桜子を見つめている。
そんな大げさな…。
「別に好きでやってるわけじゃないよ。ただ、その子が言わないからやってみただけ」
「あら?ということは、この子がアリスさんを付けてたというストーカーさんですか?」
「そっ。たぶん幻惑魔法だと思うけど、それで後を付けてたみたいなんだ」
「そうだったんですね?始めまして、私は氷浦桜子です。貴方のお名前を教えていただけませんか?」
「あっ…はい。星羅魔法女学院中等部三年、かっ…嘉瀬翼です」
僕は、嘉瀬という苗字に聞き覚えがあった。
それは忘れもしないあの時に―――。
「嘉瀬って、もしかして月ノ宮の分家の「嘉瀬」?」
「そっ、そうですけど…どうしてご存じなんですか?」
嘉瀬はどうして自分が月ノ宮の分家であることを知っているのかと疑問に思ったらしい。
僕は彼女の質問に答える。
「前通っていた学校に影富先輩っていう月ノ宮の分家の人がいたから、それで教えてもらったんだよ」
「…そうでしたか」
「知ってるかもしれないけど、一応自己紹介しておくね。僕は氷浦真。で、こっちがアリス」
「ちょっと、ちゃんと自己紹介しなさいよ!…私の名前は三好玲央奈。アリスはイギリス名だから気にし
ないでちょうだい」
「あっ、はい。分かりました」
「それで。どうして私達を付けてたの?」とアリスが嘉瀬に尋ねる
「えっと…言いづらいんですけど。実は」
「「「実は?」」」
「絵のモデルで…その、頼むのも恥ずかしくてそれで追跡しながら描いてました」
「「「えっ?」」」
僕達は想像していたものと全く違う答えが返ってきて、一斉に声が綺麗に揃ってしまう。
証拠に嘉瀬は、鞄からスケッチブックを取り出しアリスに「どっ、どうぞ」と手渡しする。
アリスは恐る恐るぺらぺらとページをめくると、そこには鉛筆で描かれた自分の姿が。
「へぇ~すごい」
「上手ですね。もしかして美術部に入ってるのですか?」
「えっ!?あっ…はい」
「はっ、恥ずかしい…」
アリスは見終わってすぐに嘉瀬にスケッチブックを返した。
「ごめんなさい。やっぱり迷惑でしたよね…」と嘉瀬はアリスの反応を見て申し訳なさそうに謝る。
「それより、本当にこれだけなの?」
「えっ?」
「この一冊だけなの?スケッチブックって」
「そっ、それは…」
彼女は僕から目を逸らした。やはりまだ持っているらしい。
「その鞄の中身、見せてもらってもいい?」
「っ!?ダメです、それはだめっ!」
「ふーん~そう。だったら、仕方ないね?」
僕は彼女に少し痛い目にあってもらうことにした。
魔法を発動させて彼女の足を氷で固定させる。
「っ!?冷たいっ」
「真さん、何を!?」
「あのスケッチブックにはアリスしか描かれてなかった。だとしたら、僕と桜子を狙った意味が分からな
い。勘違いならまだ納得できたけど月ノ宮の分家なら、それはまた別の話。絵のモデルなんて嘘なんでしょ?本当は何か別の目的で僕達を付けてたんでしょ?すべて白状しなよ。僕、そういうの大嫌いなんだ
よ」
「真さん…」
「桜子。真、かなりやばりよっ!?どうしよう、止めなくちゃ…」
「早くしないと、このままだと氷漬けにするよ?」
「ひぃぃ!?わっ、分かりました。見せますから、お願いやめて!死にたくない!!」
僕は嘉瀬の言葉を聞いて、すぐに魔法を解除した。
そして嘉瀬はその場で座り込み「たっ、助かった…」と胸を撫で下ろす。
「で?」
「あっ、はい!」
嘉瀬はすぐさま鞄からスケッチブックを三冊取り出して「どっ、どうぞ!」と僕に勢いよく差し出した。
「どれどれ…」
さすがに三冊一辺に見ることは出来ないので桜子とアリスに一冊ずつ渡してスケッチブックを見ることに。すると一ページからとんでもない絵が描かれていた。
「えっ?…これって」
それは明らかに腐女子と呼ばれる人が読むような絵で、僕は目が悪くなったのかと思い
目を擦りもう一度見る。だが、絵は全く変わらなかった。
「ちょちょちょ…なんなのこれはっ!?」
「うわぁ~すごいです。これは恋愛漫画ですね?」
アリスは顔を真っ赤にするし、桜子は絵の上手さなのか恋愛に対しての凄さなのかは知らないが目を
キラキラさせて嘉瀬の方を見ている。
僕が持っていたのは明らかにBL漫画。しかも結構やばいから内容は伏せておくけど…問題なのは。
「嘉瀬、ちょっといい?」
「なっ、なんでしょうか?」
「ここに描かれてる男子、僕そっくりなんだけど。これって…どういうこと?」
「っ!?そっ、そそそそれは…その…」
「正直に答えて。あんた、僕をモデルにBL漫画描いてたの?」
しかもびっしりと丁寧に。本当にプロの漫画家が描いたようですらすらと読めてしまい、
あっと言う間に読み終わったが、正直いい気分にはならない。
なんだって自分そっくりな主人公?がやられまくってるのだから…。
「ごごごっ、ごめんなさい。高等部に男子生徒が編入するというお話を聞きましてどうしてもお姿をこの
目で見たくて学校が終わった後こっそり友達と見に行って以来、あまりにも素敵な容姿だったのでそれ以来頭から離れられなくて絵を描き始めたら段々止まらなくなって気がづいたらスケッチブックいっぱい
に描いちゃってて…」
「嘉瀬…」
「ゆっ、許してください。ひっ、氷浦先輩」
「誰が許すかぁ――!!!?」




