本命? (2)
◇
私達の攻撃が全く通用しない。
剣で切っても魔力を込めた矢を当てても傷がつかず、それは私達の力の差を表しているようで、無力感に苛まれる。
「くぅっ⋯⋯」
私の魔力も底を尽きかけている。
できるだけ節約はしていたつもりだったけど、人を回復させるのは魔力消耗が激しくて、ほんの少ししか時間稼ぎにしかならなかった。
「こんなことになるなら、もっと訓練をしてたら…」
もっと私に体力があれば、私がもっと魔力量を鍛えてあれば、もっと、攻撃スキルがあれば──もっと、あの人達のように才能があったら。
もう全て遅いのに、どうしても私はたらればを考えてしまう。
言い訳にしかならないけど、私は攻撃は得意じゃない。 そんな私ができる唯一のことは、回復だけ。
2人に置いてかれないように、足手まといにならないように必死に訓練を詰んできたと思ってた。
回復スキルが得意な先輩にどうすればもっとみんなを守れるか聞いて、試してみたりしたけど、魔法少女の世界は、結局は全てイメージの世界。
私には、みんなを守れるような力を持つイメージが湧かなかった。
魔力は足らず、魔力不足で体が重くなって動けなくなったせいで、焔ちゃんを運ぶことさえも容易じゃなくて──
「ごめん⋯」
「気にしないで陽葵、怪我はない?」
「そんなこと言ってる場合じゃ⋯!」
私の訓練が足りなかったせいで、焔ちゃんをこんな目に合わせてしまっているわけで⋯⋯焔ちゃんの優しさが剣のように心に刺さる。
右腕と左足を負傷し、剣を握ることはおろか歩くすらも難しそうなのに、私の心配をしてくれる。
とっても優しくて強い、私の親友なのに。
「少し、判断を誤っちゃったかな」
「え⋯⋯?」
こんな勝てるはずもない相手に私達がここに招集されたのは、近くに魔法少女がいないかったから。
私達が所属する組織である魔法少女局から時間稼ぎを任されている。
本来なら時間稼ぎだけで、少しでも危険を感じたら逃げろ⋯⋯そういう指示だったのだが、そんなことをしたら住民の命が危ないと思うと、私達はここから離れることができなかった。
「みんな、守らなきゃ」
「立っちゃだめだよ、焔ちゃん!」
「遥さん1人に任せる訳にはいかないじゃん?」
「そうだけど⋯!」
遥さんは遠距離からの攻撃が得意で、あんなに魔物に接近するのは命取り。
そんな遥さんを1人魔物の相手をさせるのは私も気が引かないけど、今の焔ちゃんは──
「焔ちゃん」
「⋯⋯ん?」
2人が私の為に時間を作って逃げさせようとしているのに⋯私だけが何もしないなんて、嫌だ。
「⋯⋯っ!」
私はまだある魔力ギリギリまでその杖に宿し、無理矢理焔ちゃんに回復魔法をかける。
「陽葵!?だめ!」
「グウッ⋯!」
私は身体能力が高くないから、遥さんのように時間を稼ぐことすらできない。
だけどそんな足手まといは⋯私が私を許さない。
「なにしてるの、バカなの!?」
魔力の酷使による頭痛で今にでも気を失ってしまいそうだが、気を失ってる場合じゃない。
──せめて、焔ちゃんだけでも動かせるぐらいには回復させて見せろ、私。
「はぁ⋯はっ、これで、剣は握れる、よね⋯?」
「そうだけど⋯!」
こんなことをしたのは初めてで、少しでも油断したら意識が途切れそうだ。
「遥さんを呼んで陽葵ちゃんを連れていってもらうしか⋯」
剣を握った焔ちゃんがぎりぎり聞き取れる声でそう呟く。
「そんなの、だめだよ⋯焔ちゃん見捨てるだなんて、私達が出来るわけ…」
焔ちゃんは一時期、私が生きる気力を何もかも失った時に私を何度も何度も励ましてくれた恩人であり、親友。
昔私が何もかも嫌になり、部屋に閉じこもって涙を流す日々から助けてくれた焔ちゃんを恩返しもできずにここに置いていくなんて、ありえない。
そんなことになるぐらいなら、私が残る。
「陽葵ちゃん…だったらどうすればいいって言うの!?」
私の固い意思を察したのか、普段優しい焔ちゃんとは思えないぐらい強い声が出る。
「焔ちゃんが囮になるぐらいだったら、私がなる!!」
そう言うと、焔ちゃんの顔がくしゃりと歪む。
そんな顔を見たかった訳じゃない、そうじゃないけど⋯私だって、同じ気持ち。
「ごめん⋯⋯でも、焔ちゃんだけを置いて逃げるなんてこと、絶対にしない」
けど現実とは無情なもので、私達にあの魔物を倒す力はなく、正直これといって案が浮かんでるわけではないけど、魔法少女はいつだってピンチを抜け出す力を心に宿しているって、私は信じてる。
「──逃げて!!」
「え⋯?」
「っ⋯!陽葵ちゃん、いって!」
「っ──!」
魔物の技がいつの間にか放たれ、私の目の前に来ていて──
「お姉ちゃん⋯ごめんなさい⋯⋯」
もう逃げることができないと悟った私は、亡き姉を思い出しながら、目を閉じた。
◇
「黒洞洞」
私が魔物の技を吸収しきると、その場は一瞬静寂に包まれた。
「え、え⋯⋯?」
「⋯⋯」
独り言しか喋ってこなかったからか、人との話し方を完全に忘れてしまった。
まずは挨拶を──いや、まずは安心させるところから?いや、そんなの私に合わないから⋯⋯
「邪魔だから、どいてて」
率直に言うことにした。
「ま、前!攻撃が!」
青い魔法少女の声が聞こえ、魔物の方へ視線を向けると、無数の氷柱が飛んできていた。
もう魔物はお役御免、もう倒してもいいだろう。
飛んでくる氷柱を軽々と大鎌で破壊しながら、魔物の方へ歩く。
「邪魔だから、どいて」
「⋯⋯ありがとう、任せたわ」
青い魔法少女は困惑しながらも、私に全てを託すように2人の元へ急いで駆け寄って行った。
「ふぅ⋯終わらせよう」
私が大鎌を上に掲げると、魔物の頭上に巨大な大鎌が出現する。
私の手元にある大鎌を動かすと、魔物の頭上にある大鎌も連動して動く。
このスキルは私の持つスキルの中でも、人際目立って、異彩を放つスキル。
その名は──
「死を告げる大鎌」
───私が大鎌を振り下ろすと、魔物の体は真っ二つに引き裂かれ、消し炭となり虚へ消えた。




