第3話 本命?
冬の澄んだ空気が私を歓迎するかのような心地の良い風が心の奥底まで風が染み渡るように広がり、私は実感した。
「やっと、外だ」
前世ですら私は自由を手にすることができないまま無念に散ってしまい、奇跡的に記憶を思い出した今世ではもっと深い檻の中に監禁されていて。
正直こうして外に出れることすら今世の私はもう到底叶わないと思っていた。
「はぁ⋯⋯いい空気」
けれど私の目に映る世界は、空はたしかに私の目の前にあって、掴めてしまいそうだ。
「まぁ⋯さすがに掴めないけど」
嫌いだったこの冬の冷たい風ですら、今の私には愛しく思う。
「っと⋯⋯忘れてた、魔物を見に行かないと」
この時間を名残惜しく思いつつも、私はその場を後にし、この家の天井に上り家々を跳びながら探していると、すぐにお目当ての魔物を発見すること発見することができた。
「あれが⋯」
家を何軒も積み重なったぐらいの巨大な魔物が魔法少女達に向けて攻撃を放っている。
私は攻撃が当たらないぐらいの場所に移動し、戦闘中の魔法少女達をしっかりと見れそうなマンションの手すりに座り、じっと見ることにした。
「さて⋯⋯確かめさせてもらうよ」
私嗜好⋯悦をそろそろ話してもいいだろうか。
もう忘れてしまうほど前の話。昔、彼以外の研究員がいた時期があった。
彼女はこのような場所にいるべき存在ではなく、彼よりも人情に満ちていて、いつも私を見る目はどこか申し訳なさそうな目をしている、そんな研究員の女性。
空腹で死ななかったのも、髪がまだギリギリ清潔で保てたのも、彼女の存在が大きかったと思う。
彼女の細かい話は重要では無いから端折るが、本来安全位置にいたはずの彼女は、あるひとつの質問で破滅へ向かうことになる。
『⋯いつもあの部屋で、何をさせられてるの?』
彼女は何も知らないのか、そんな質問を私に投げかけてきた。
『⋯⋯』
だが、既にその時の私は記憶が抜け落ち、深海の底へ意志を置き去ってしまっているようなもの。
私は答えるはずもなく、あるのは沈黙のみで。
『ひどいことされてない⋯わけないか』
『⋯⋯』
優しく微笑みかける彼女の瞳はどこか濁っているようで、今思うととても綺麗だった。
『これ、ほんとなの⋯!?』
『⋯⋯』
ある日、彼女は何かが書かれた本を私に見せつけながら私に真偽確認を求めてきた。
だが、何が書かれているかなんてその時の私にはどうでもよくて、見ようともせず。
──けど、今思うとその本の中身は私がさっき見つけた記憶消去の本なのかもしれない。
『そっか、だからいつも──』
『⋯⋯』
何かが繋がったように彼女は独り言をつぶやく。
『あ、れ⋯⋯じゃあもう私には⋯』
そこに何かタイトルをつけるならそれはきっと『全てをようやく知った彼女と、もう既に手遅れの少女』
遅すぎた後悔と、真っ暗闇の絶望を混ぜたような、その光を失った瞳に私はその瞳に宿った闇に吸い込まれるかのようにその瞳を見つめた。
それが私の悦だと気づくのは、手遅れだった私に奇跡の一手が打たれた今日。
「あの瞳が、欲しい」
1番の絶望者が絶望を欲すのはおかしなことだけど、私は欲望を抑える方法なんて知らない。
とはいえ私もそこまでひねくれてない、助けれたはずの人を見捨てるほど心を冷たくはしていないし、もちろん助ける。
ただその代価としてその瞳を見せてもらうだけ。
「───!」
「⋯忘れてた」
過去の回想に浸るあまり、目の前の大きな存在を忘れていた。
その絶望的な瞳を見るのに目の前で必死に魔物と戦闘をしている3人の魔法少女は、とても都合がいい。
彼女らじゃ到底あの魔物には勝てないし、他の魔法少女が来る様子もない。
それにヒーローにまだ避難をできていない市民を置いて逃げ出す勇気はないだろう。
「連携だけは良い」
それが彼女ら3人が未だに戦えている理由で、きっと普段から一緒に行動している仲なのだろう。
1人が魔物の注意を自分に逸らし、剣で攻撃を与えながら他2人を守っている炎の剣を宿した赤い魔法少女。
その子が捌ききれない攻撃をもう1人の子、弓使いの魔法少女が安全位置からスキルを使い弓で代わりに捌き、魔物を射抜く3人組の中核を担っている青い魔法少女。
もし青い魔法少女の支援が間に合わなくて怪我をすることがあっても最後の子、杖を持って祈るように立つ魔法少女が治癒を行い、再び最前線を立てるようにする。
「確かにこれならある程度格上の魔物にも通用するけど⋯明らかに相手が悪い」
彼女らじゃ致命傷に繋がる攻撃を出せるとは到底思えないし、魔力も消耗していってるようだし、現に黄色い子は少し苦しそうだ。
「私なら⋯攻撃はせずに逃げるけど」
魔法少女が魔力が切れたらどうなるかなんて、私ですら知っている。
「変身が解けて⋯動けなくなるんだったよね」
それが意味するのは、死のみ。
だからこそ私は、彼女達がむやみやたらに攻撃を行う理由が一切分からない。
「魔物の技は、今のところ氷柱のようなものを無数に放ってるだけだけど⋯」
でも、それだけじゃないはず。
「その技だけじゃ地下に響くほどの音は鳴らない⋯もうひとつ以上、何かがあるはず」
推理をしていると、突然魔物の魔力がより強くなって行き、そのもうひとつの技を放つ準備を行っているらしい。
到底災害級には及ばないとは思っていたが⋯まだまだ本気じゃなかったらしい。
「強い⋯⋯空気が、ピリつく」
私は片手を空に差し出し、それを掬うかのようにあの魔物が放つ魔力の波を観察する。
「さすが災害級の魔物」
魔物には危険レベルがあり、1から6まで存在している。
あの魔物は魔力を感じるにレベル4の災害級に指定される危険な魔物で、確か4の水準は街が崩壊の危機を迎えるほどの魔物。
「──!!」
遠くから声が聞こえる。
余所見をしている間に赤い魔法少女が速度の上がった氷柱の攻撃を諸に食らってしまったようで、黄色い魔法少女が急いで駆け寄り、魔力を全て使う勢いで回復を試みているが──
「まぁ、無理だよね」
魔力がほぼ空な状態で無理矢理使おうとした結果、耐えきれず黄色い魔法少女は血を吐き出してしまった。
変身が解けてないのを見るにまだ魔力は残っているのだろうが、様子を見るに大した量は見込めない。
そうなったら状況はさらに悪くなる一方なのだが⋯素直でいい子らしい。
カバーに入るように青い魔法少女が前線に出て時間を稼いでいるが、明らかに冷静じゃなく、戸惑いが行動からみてとれる。
「少し、近づいてみよう」
いい予感⋯いや、悪い予感がする。
話が聞こえる範囲にまで忍び寄り、会話を盗み聞くことにした。
「だ⋯から、逃げてって⋯!」
「出来るわけ、ないじゃん⋯!」
近寄って盗み聞きをしていると、口論の真っ最中だったらしく、無意味な言い争いが聞こえる。
「一緒に、行くんだよ⋯!」
「⋯⋯⋯」
黄色い子が赤い子を担ぎ避難させようとする。
「ゲホッ⋯!」
ただ、魔力の酷使により黄色い子も万全に動ける状態じゃない。
吐血吐くが、それでも何とかその場を離れようとする。
健気だけど、戦場だと一番に死にそうだ。
「──逃げて!」
「え⋯⋯?」
時間を稼いでいた青い子が叫び、2人がその声の方向を一斉に見た。
「──!!」
全てを片付けるための準備が出来たようで、魔力の塊のようなレーザーが放たれようとしていた。
「よし⋯行こう」
私は手すりから降り、しまっておいた大鎌を取り出した。




