(2)脱出は思いきって強引に
歩いていると、ただひたすらに広く、真っ白で、どこか不自然で既視感のある空間に辿り着いた。
「ここは⋯⋯」
彼が無駄にただ広い空間を用意するとは思えないから、この空間には必ず何かがある。
大鎌を持つ力は強くなり私はその緊張を水面に沈めるために深呼吸をする。
「よし⋯⋯」
大鎌を構え、いつどこから襲われても即座に対応できるようにし、その扉へ向けて歩く。
──直感が告げている。
彼が私に対しての何かがあるのなら、それを行うのはここだと。
「──!闇を纏う斬撃!」
背後から殺気を感じ、私は即座に大鎌を背後に向け飛んできた剣を弾き、その人型の何かに向かって容赦なくスキルを放つ。
「───」
人型の何かはそれを躱し、私との距離を詰めて接近戦を仕掛けてくる。
大鎌と剣が交わる音がこの空間に響き、攻めたり、攻められたりを繰り返す。
それと同時に上での戦いが始まったようで、複数の魔力を感じ取った。
おそらく、魔法少女達が魔物と戦闘をしているのだろう。
「めんどくさいな⋯」
私は人型との距離を取り、この戦いを終わらせるために私は足に少し力を込めて地を蹴り、一瞬にして大鎌の間合いまで距離を詰めた。
「ちっ」
人型の何かは体を躱し、急所を外すかのような動きを見せたが、剣を持ってる腕は斬った。
だが、まるで傷んでる様子はない。
「やっぱり」
こいつは、人間じゃない。
いくらバケモノじみた忍耐力があっても、片手を斬られたら少しは反応を示すもの。
それだけじゃなく、あの人型の私に向けてくる殺気という名の波はあまりに綺麗な一直線で、感情に揺さぶられる気配の一切ない完璧な線。
人間ではこんなに綺麗な一直線の殺気が出せるはずがなく、もっと本格的な波のように揺さぶられるもののはずなのだ。
「人形⋯ってことかな」
落ちた手を見ながら、私はそう結論づけた。
「さて⋯⋯」
左手に剣を持ち直して私に攻撃を仕掛けてくる人形に私は内心舌打ちをしながらその剣を防ぎ、反撃を行う。
「今度こそ、終わらせる」
私は人形の顎を蹴り上げ空に飛ばし、私も追いかけるように空へ跳ね上がり、大鎌で体を突き刺し人形を地面にたたき落とした。
「ふぅ⋯⋯この程度の人形で、私を止められると思ってるの?」
身体に風穴が開いたもう動かない人形を見下ろしながら、この場にいない彼に向けて私は言葉をこぼした。
奥にある扉を壊し、適当にあった本をペラペラと捲りながらなにか無いかと探していると、ちゃんと日本語で書かれた記録本をみつけた。
「これは⋯⋯ドール実験?」
さっきの人形のことだろうか、本を開く。
ついに、薬が完成した。
これさえあればN1は完全に自我、意志を失い、完璧な私の操り人形になるだろう。
この薬の効き目も先日確認できた、今日早速使うとしよう。
もし失敗して暴走したとしても、あの人形でも倒せれるぐらいには弱体化を受けているはずだ。
N1の素質はこの国を揺るがす⋯いや、もはやこの国を手にすることすら容易だ。
もう少し確証を得てからこの薬を使うべきかもしれないが、私には時間がない。
この力をものしたらまずは邪魔な存在を全て殺し尽くし、国を手にするところから始めるとしよう。
薬を打ってみたが、特に変わった様子がない。
あの人形に投与した時はすぐに効き目がではじめたのだが、N1の身体を考えるとおかしいことでは無い。
人形と同じくN1は痛みに耐えるような反応も見せている、暴走している様子もない。
これから私という存在が世界の脅威となると思うと興奮が止まらない。
「彼の目的は⋯⋯私を利用して国を乗っ取ることだったんだ」
余計な記憶や意思を消し、私を人形として利用する⋯⋯考えただけでもおぞましい。
「でも、彼の実験は成功していない⋯⋯」
私の記憶の消去には成功しているが、あの薬は前世の記憶を思い出させるという、意志を消すとは真逆なものだった。
「きっと私が前世を思い出したのは何かしらのイレギュラーで、そのイレギュラーによって私は意志の消失は免れた」
そう考えると、おかしくはない。
前世を思い出す前までの私の状態も、彼が意図的にした事だったのだとしたら、納得がいく。
「でも⋯⋯あの人形って、もしかして」
──彼は私が思っているよりもずっと、残忍で危険な人物だったのかもしれない。
私は自身の手が震えているのをじっと見つめながら、私はまだまだ覚悟が足りないなと、歩きながら考えていた。
「鏡⋯?」
ふらついていると、鏡をみつけた。
「よし、見てみよう」
上にあがることよりも自分の外見を見てみたいという好奇心が勝った私は、鏡の前に立つ。
「これが私⋯⋯」
幼い顔立ちの割にはその顔には生気が薄く、腰まで伸びている綺麗な白髪、そして蒼い瞳。
あまりの生気のなさに我ながら悲しくなるが、思い出されるここでの苦い過去を思えば、それも仕方がない。
「それより…私ってこんなんだっけ」
私は前かがみになり鏡に近寄り、自分の髪や瞳をじっと観察する。
記憶は薄くとも、自分の髪や瞳ぐらいは覚えてるつもりだったのだが⋯⋯。
「まぁ、でも⋯⋯」
鏡の前で一回転する。
「うん、可愛い」
決してナルシストではない。
決してそうでは無いけど、可愛いものに可愛いと言って何が悪い、そう、私は悪くない。
「この腕とか、ちょっと力込めて握ったら折れちゃいそう」
実際は折る側なのだが、あまりにもこの腕は細く、儚い者の印象を与えるには十分なもので。
「儚い系ロリ⋯」
そして、最後にチャームポイントのアホ毛がちょこんと私の頭上にそびえ立っている。
今世の私のチャームポイントはアホ毛らしい。
「そろそろ、行かないと⋯」
もう少し自分自身をゆっくり見て、私は上にあがる道を再び探すことにした。
「でも、魔物の気配が感じ取れるようになって来た」
ということはもう既に地上に近く、そろそろこんな陰気臭い場所から出られる⋯⋯自由になれる。
「あ⋯⋯風の音」
もう外に近いのか、風が吹いてきた。
その風に導かれるままに歩き、物陰に隠れた階段をみつけた私は頂上へ辿り着くが⋯
「行き止まり⋯?」
いや、ちがう。
隙間からは風が通っていて、微かに光もみえる。
「この壁が邪魔して出れない⋯?」
隠し扉のようなものなのだろうか、じゃあどこかに開くための仕掛けがあるはずだが⋯⋯探すのも面倒だ、いっそ壊してしまおう。
「ふんっ⋯!」
思い切って蹴飛ばしてみると、ドアは奥に吹き飛び、新鮮な空気が私を包みこむように吹き荒れる。
「ここは⋯家の中?」
家の中に出たようで、至る所に生活の痕跡を見かけた。
無駄に怪しまれないように彼が家の中に地下を作ったんだろうけど、それにしては地下広すぎじゃないだろうか。
「────!!!」
「うるっさ⋯⋯」
魔物の叫び声が私の耳に響く。
感動して忘れていたが、そういえば魔物がいるんだった。
「さっさと行こ⋯」
いちいち玄関まで行くのも面倒だった私は適当にみつけたガラスを割り、外への脱出をついに果たした。




