屋上って、憧れますよね。
トリックオアトリートってことでどなたかお菓子ください。
「ん⋯?」
いつの間にか意識を失ってしまっていたようで、気がついたら人気のない薄暗い路地裏に倒れていた。
「ここは、確か…」
魔法少女達から逃げるようにその場を離れたのは覚えている、がそれから先のことはお酒を飲んで酔いつぶれたように記憶が抜け落ちていた。
「まぁ飲んだことないけど。 んしょ⋯」
まだ少し体は重いが、幸い痛みはもうひいていた。 私は壁を支えにして立ち上がり、壁を伝って適当に歩き出す。
「あ、外⋯⋯」
路地裏から抜け出すと、魔物によってあられもない姿に変えられた町が広がり、意味もなく眺めていたが、ふと自分の衣服に目が行った。
「服、新調しないと…」
私を実験体としか見てない人が服を買ってくれるわけもなく、この服とは長い付き合いだがその分ボロボロになっていて、流石にこの衣服のまま人と会う訳にはいかない、ってことで。
「仕方がないよね、貰おう」
ここに住んでいた住民達はもう避難しているし、今この街にいるのはおそらく私だけ。
となれば街をこんな姿にした魔物を倒した私には衣服を貰う権利ぐらいはきっとあるはず、そうに違いない。
「適当に家覗きにいこっと⋯⋯」
もう少し休んでから行こうと思ったが、1度気になるとずっと気になってしまい、すぐに行動することにした。
「男物⋯はだめ、か」
適当に衣服を漁るとは言ったものの、女物には流石の私でも少し抵抗感を覚える。
私の外見といくらなんでも似合って無さすぎるのだが、少し前の記憶では私は男で、その記憶がある今女物を着こなすのには抵抗がある、が⋯
「さすがに男物はマズい⋯?」
元男としてのプライドか、流石に目立ちすぎるから大人しく女物履いといた方がいいという理性のふたつが喧嘩していると、良いものを見つけた。
「少し大きいけど⋯いいかも」
そこにあったのは水色のパーカーで、私は見た途端にそれを手にした。
「これでいいや、下は⋯⋯」
タンスやクローゼット、家の隅々まで私のサイズのに合うズボンが見当たらなかった。
「ズボンなら抵抗感ないのに⋯」
結局諦めて私は真っ黒で、なんか2層に重なっているスカートを見つけたのでとりあえずそれを着てみたが──
「なんか、屈辱的⋯⋯」
何かがぽろぽろと崩れてきている気がする。
なんか、変な感じもするし。
「まぁ、いつか慣れるか⋯⋯」
呑気なことを考えながら、眠くなった私はお布団を借りて久しぶりの安眠を楽しんだ。
それからあっという間に数日が経った。
人々を観察しているとみんな「すまほ」とやらを使っているらしく、私が知っているものとは随分違く、随分と進化したことを知った。
「魔物がいるというのに、みんな呑気に生きてるんだ」
見つけた学校の屋上の屋根に寝転び日向ごっこをしながら、独り言を暇そうに呟く。
「いい景色だけど、お腹すいた…」
お金がないし、適当に歩いてたせいで魔物に破壊された場所に戻ることも叶わず、いくらなんでも盗む訳には行かなかったので数日間何も食べていない。
「まぁ、それぐらいいいんだけど」
死と隣り合わせといた時期と比べたらこんなものなんてことないことは無いかも。
「けど、流石に何か──ん」
寝返りを打ち足をばたつかせながら暇を潰していると、下から階段を上がってくる物音が聞こえ、慌てて私はこっそり隠れた。
◇
お昼休みになり、私は教室から出て、気分転換がてらに今日は一人屋上で食べることにした。
この学校は屋上は立ち入り禁止だけど、ご都合展開みたいに屋上の鍵が壊れていて、こっそり入ることができる。
「うん⋯?」
私が階段を上がっていると、小さい女の子のような声が屋上から聞こえた気がして、少し警戒しながら屋上に入った。
「あれ…?だ、だれもいないんですか?」
返事は聞こえない。 もしかしたら、気のせいだったのかも。
そうこじつけて私は座ってからお母さんが作ってくれたお弁当を開けた。
「いただきまーす」
視界の先に広がる青空を眺めながら卵焼きを食べて、数日前の出来事を思い出していた。
「あの子が来なかったら⋯⋯」
あの後、2人に自責をあまりしないように叱られたけど、やっぱりどうしても気にしてしまうもので、ここ最近私はそればっかり考えてしまっている。
「どうしたらあの子みたいに⋯⋯」
小さいあの子を羨むのは情けないことだって自分でも思う。
こんなことを考えてるってバレたらまた怒られそう⋯だなんて思いながら食べてると、真後ろ⋯いや、上から『ぐぅぅ〜』とお腹が鳴るような音が聞こえてきた。
「⋯!?⋯!????」
ビックリしすぎてベンチに肘をぶつけながら慌ててその場から離れ音のなった方を見つめると、人影のようなものが見えた。
「だ、誰かやっぱりいるんですか…?」
太陽が重なってよく見えない、その顔を目を凝らしてよく見てみると──
「えっ⋯!?」
噂をしたらなんてやら、ってやつだろうか?
まさか、本人が現れるだなんて。
彼女はゆっくりベンチに座り、何事も無かったかのように私を見てきた。
「あっ…えっと、食べる…?」
何もかも分からないけど、さっきから空腹なようで音がなり続けているから、聞いてみたんだけど⋯⋯。
「うん、たべる」
あっ可愛い…
「えっと…なんでここにいるの…?それに、体調は大丈夫?」
この子がお弁当を食べたそうに見つめてくるので、そのまますべてあげた。
「ジャンプしてきた」
「うん…?えっと、体調は?」
「?」
無口だからやりずらい⋯⋯私もあんまり人と話すのは得意じゃないどころか苦手だから、なんて声をかけたらいいかもわかんない。
「ちなみに⋯えっと、なんでこんなところに?」
「暇だから」
「そ、そっか⋯⋯」
き、きまずい。
「いただきます」
「あ、うん、どうぞ」
私が使っていた箸をそのまま使って、卵焼きを最初に食べるのを見つめていたが、急に口だけ動かして他はガクンとロボットみたいに固まってしまった。
「ど、どうしたの…?もしかして口に合わなかった?」
「ううん、美味しいと思う。」
「…?」
そのまま食べ続けてるのを見るに口に合ったのだろうと思うけど、言葉がちょっと他人事のように聞こえて。
「なんか、懐かしいものを感じる」
「へ?な、なんのこと?」
言葉の意味がわからず、私が聞くとこの子はまた私に言っていいレベルじゃないものをさらっと口に出した。
「味はわかんないけど⋯⋯暖かい」
「もしかして、味覚が⋯⋯?」
「そうかも、残念」
呆気なく言うこの子の瞳は、味覚がないということがどうでもいいと思っているかのように見えて、私は一瞬その瞳が恐ろしく、けれどその瞳に吸い込まれるように──
「⋯⋯」
「な、なに?」
何も話しかけずにただ私を見てくる子に違和感を覚えながら、私は優しく声を出す。
「えっと、どうしたの?」
「なんでもないよ」
「…?」
そこからの会話はなく、私はこの子の顔をじっと見ていた。
ただでさえ記憶が抜け落ちているというのに、味覚もないとポロッと大事なことを言うこの子の事を考えずにはいられず。
でもそれはただの同情なんかじゃなくて⋯⋯じゃあ、この気持ちは?
「あ⋯⋯そっか」
きっと、私は最愛の人と重ねて見てしまっているんだ。
髪色も目も雰囲気も何もかも違うけど、それでも私には──お姉ちゃんに見えて仕方がなかった。




