気分屋のスイッチは実は本人も制御できない
話はあの子が私達を救ってくれたところまで遡る。
私たちを助けてくれた幼い魔法少女が去ってしまった後、私達は帰る準備をしていた。
「ふぅ…みんな大丈夫??」
「私は大丈夫だけれど⋯春菜は?」
「もう無理⋯動けない、あちこち痛いよぉ〜」
唯華さんはまだ傷が浅くてまだ動けそうだが、春菜ちゃんはそうともいかない様子だった。
「強かったもんね、あの魔物…」
私達がまだまだ弱いのは認めざるを得ないけど、その魔物をあんな小さな子が一瞬で倒してしまったのを見ると、少し複雑な気分。
「ねぇ、あの子大丈夫なのかなー?」
「大丈夫なわけないでしょう、血まで吐いていたんだから」
「うーん、魔物はあっという間に倒しちゃったのに、なんでだろ⋯」
お礼もできていない。
私に返せるものがあるかと聞かれるとわからないけど、それでも何かしらお礼をしないと気が済まない。 命の恩人なのだから。
「今追いつく体力もないし、とりあえず局に帰りましょう。 話はそれからよ」
「そうだね、もう私動けないよー」
「あっ春菜ちゃん、唯華さんにおぶって貰ったら?」
「私?まぁ、いいわよ」
春菜ちゃんがやったー!と言いながら唯華さんに背負われに行き、おぶってもらうのを見ながら私も立ち上がった。
「魔物は?倒したの?」
「ひゃあっ!?」
突然後ろから声をかけられ、私はびっくりして跳ねながら尻もちをついてしまった。
「あっ、る、海月さん⋯」
「やっほー私が来た。魔物は?」
魔法少女海月、彼女は私達の所属している局の中でもかなり強い部類の人で、本来ならさっきの災害級魔物を倒すはずだった人。
「魔物はもういません。春菜が怪我をしているので、今から局に戻ろうかと」
「もういない?」
「えっと、知らない魔法少女が倒してくれまして」
「がーん、横取りされた」
真顔で全く悔しくなさそうに口を零す海月さんは私が知っている人達の中でも1番バグ⋯じゃなくて変わっている人で、何を考えているのかわからない、不思議でミステリアスな人。
あの幼い魔法少女に少し似ているし、きっとこの2人は仲良くなれるだろう。
「そ、それにしても⋯⋯今回は海月さん1人なんですね」
「うん、だめ?」
「いやいやいやいや!いつもあの人と一緒だから珍しいなって⋯」
「遅いから置いてきた」
「置いてきた⋯?」
「そんなことより、戻ろうよ」
海月さんがそう言いながら歩きだすのだが、その方向は局とは真逆な方向なんですが⋯⋯?
「あの、海月さん、そっちは⋯」
「遠回りしていこう、遅い人に見つかったら怒られる」
「え?いや、えぇ⋯⋯?」
「一応私怪我人なんですけどー!」
「うるさい」
「痛っ!?」
「確かに。じゃあ美華、一緒に行こ」
「わ、私ですか⋯!?」
春菜ちゃんが黙って聞いている唯華さんの後ろから叫び唯華さんに怒られ、何故か海月さんは私の手を掴んで「はやくはやく、私ぶん殴られちゃうよ」と自分を囮にしてきた。
「わかりました、わかりましたから⋯!」
「よし」
「ふぅ⋯じゃあ2人は先に帰っといてくれる?」
「おっけー!気をつけてね、美華ちゃん」
「えぇ、また後で」
海月さんは極度の気分屋で、いつもペアで行動している魔法少女の先輩も苦労させられてるらしいのだが、その気持ちが少しわかった気がした。
「こ、ここまで遠回りする必要ありました⋯!?」
「うん、もちろん」
20分近くも遠回りさせられて私はクタクタになりながら局に帰ってきたというのに、海月さんはまだまだ元気そうで羨ましい。
「報告いる?」
「いります⋯⋯」
「じゃあ、いこ」
海月さんの気分屋は凄まじいものだな、と思いながら私はのこのこと後ろを着いていった。
「きたよ」
「だから、ノックはしろと⋯」
「まぁいいじゃん」
唯華さんから既に話を聞いていたようで、魔法少女のことや春菜ちゃんの怪我のことなど、色々なことを謝られた。
「改めてすまなかったな、こんな重い任務を任せてしまって」
「いえ⋯頼まれなくても行ってましたから」
「⋯⋯そう言ってもらえると助かるよ」
私がそう言ってもやはり私たちの上司でありこの局の責任者である佐藤さんはどこか顔を曇らせて私たちに微笑みかける。
「そんなことより、帰っていい?」
「いや、君はダメだ。沙羅から呼び止めるように言われていてね」
「げっ⋯⋯」
いつもこの気分屋さんと一緒に行動しては苦労を強いられている人、沙羅先輩。
私達にいつも優しくしてくれて憧れの先輩ではあるんだけど、海月さんに振り回されてる姿は可哀想としか言えない。
「とりあえずはご苦労様、しばらく休暇を与えるから休んでくれ」
「あの、佐藤さん⋯」
「なんだ?」
「私、またあの子に会ってお礼をしたいです!」
私はまだ、あの子にちゃんとお礼を出来ていない。
本人は要らないと言っていたけど、やっぱり私達3人の命の恩人で、あの子がいなかったら私はここにはいられなかったわけなのだから。
「そうだな⋯私個人としても気になってはいる、特徴は既に唯華に教えてもらったから、情報が出たら教えるよ」
「ありがとうございます!」
これでお礼をする機会はもらえた、あとは見つけれさえすれば何かしらのことは出来るかもしれない。
「今日はお疲れ様、休んでくれ」
「ありがとうございます!」
「あぁ⋯⋯ところで、海月はどこに行ったんだ?」
「え?」
後ろを振り返るとさっきまでいたはずの海月さんが居なくなっていて、代わりに閉めたはずのドアが開きっぱなしになっている。
「⋯⋯」
「はぁ⋯」
気分転換の海月さんに振り回されているのは沙羅さんだけじゃなかったらしく、私は「お疲れ様です、ほんとに⋯⋯」とだけ言い部屋を出た。




