ケンカした兄弟への手紙
川沿いに伸びる散歩道には、真っ赤に色づいた大きな楓の樹々が並び、足元には絨毯のように落ち葉が敷き詰められていた。
その一本の太い幹の根元で、二人の少年が互いに反対方向を向いたまま、背中合わせに座り込んでいた。
十歳になる兄のレオンと、七歳になる弟のティノだ。
二人は昨日の夕方から一言も口をきいていなかった。
原因は、二人が何よりも大切にしていた木彫りのリスの玩具だった。
尾っぽの部分がポキリと折れてしまっており、どちらが不注意で壊したのかを巡って激しい大喧嘩に発展してしまったのだ。
「僕が大事に飾っておいたのに、ティノが乱暴に触るからだよ!」
「ちがうよ! お兄ちゃんが引っ張ったから折れたんだもん!」
激しい言葉をぶつけ合い、お互いの胸を突き飛ばし合った記憶が、二人の頭の中でまだくすぶっていた。
怒りと、ほんの少しの後悔と、頑なな意地。
秋の冷たい川風が二人の頬を撫でていくが、どちらも決して振り返ろうとはしなかった。
サクサクと落ち葉を踏み鳴らす音が近づき、アリスが二人のすぐ横で立ち止まった。
「ふたりとも、こんなところで何をしているの? 背中合わせで座っていたら、冷たい風が入ってこない?」
二人はプイッと顔を背けたまま、口を揃えて「別に」と小さく呟いた。
アリスは苦笑しながら、二人の隙間に一通の手紙を置いた。
柔らかな薄桃色の封筒。
そこに躍る丸い文字は、どこか絵本の題名のような温かみを帯びていた。
「夕焼け郵便局からだよ。『喧嘩をして背中を向け合っている、ふたりの小さな騎士へ』」
レオンとティノは思わず顔を見合わせ、同時に手紙へと手を伸ばした。
二人の手が重なり、ハッとして弾かれたように手を引こうとしたが、アリスが優しくその二人の手を包み込んだ。
「ふたりで開けてごらん。手紙はね、二人で読むために届いたんだから」
二人は渋々といった様子で封を破った。
中から現れたのは、落ち葉で遊ぶ二人の小さなリスが描かれた挿絵と、次のような文章だった。
『お兄ちゃんへ。
いつも弟の小さな歩幅に合わせて、ゆっくり歩いてくれてありがとう。
お兄ちゃんの後ろ姿を追いかける弟は、あなたが世界で一番格好いい騎士だと思っていますよ。
弟くんへ。
いつもお兄ちゃんの真似をして、嬉しそうに笑ってくれてありがとう。
あなたのその笑顔は、お兄ちゃんがどんなに落ち込んでいる時でも心を明るくする魔法です。
壊れてしまった木彫りのリスは、木工用の接着剤で直せるかもしれません。
けれど、互いを傷つけて折れてしまった心は、素直な「ありがとう」と「ごめんね」でしか直すことができないのです』
文字を追ううちに、ティノの大きな瞳からポロポロと涙がこぼれ落ち、手紙の上に小さな丸い輪を作った。
「お兄ちゃん……ごめんなさい。僕、ほんとはお兄ちゃんのおもちゃで遊びたかっただけなの。僕が強く触っちゃったの……」
レオンもまた、唇を噛み締めながら弟の肩を強く抱き寄せた。
「ううん、僕こそごめん、ティノ。僕が怒鳴ったりしたから……僕が接着剤で直してあげる。だから……もう泣かないで」
二人は涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、しっかりと手を握り合った。
背中合わせだった二人の間にあった冷たい隙間は、もうどこにも存在しなかった。
頭上からハラハラと舞い落ちる真っ赤な楓の葉が、二人の頭の上に優しく降り積もっていった。




