番外編 郵便屋さんの休日
日曜日。
この日は配達のない、アリスの待ちに待った休日だった。
日頃の忙しさから解放されたアリスは、大きな竹籠いっぱいに洗濯物を詰め込み、街の脇を流れる澄んだ川辺へと向かった。
秋晴れの空はどこまでも高く青く澄み渡り、風が吹くたびに川面に黄金色の光が踊っている。
アリスは自分の仕事着である濃紺の制服を丁寧に洗い上げ、川辺のロープへと干した。
秋の柔らかな陽光を浴びて風になびく制服は、お日様と乾いた落ち葉の甘い香りをいっぱいに吸い込んでゆく。
「ふう……気持ちいいな」
仕事用の革鞄を下ろした肩は驚くほど軽かったが、アリスはどこかそわそわとして落ち着かなかった。
いつも肩に感じていたあの心地よい重みがないと、自分がどこかへ飛んで行ってしまいそうな不思議な感覚に捉われるのだ。
芝生の上に寝転がり、流れる千切れ雲をぼんやりと眺めていると、遠くからにぎやかな足音が近づいてきた。
「アリスちゃーん!」
「アリスさん!」
顔を上げると、そこにはパン屋のショーンが焼きたてのメロンパンの入った紙袋を抱えて走ってくる姿があった。
その後ろからは、木こりのトムが削り出した木彫りの小鳥を手にしたレオンとティノの兄弟、さらには焼き栗屋のマサおばあさんまでが、手作りのスープ鍋を抱えて歩いてくるではないか。
「みんな……? どうしてここに?」
ショーンが眩しい笑顔を弾けさせた。
「今日はアリスちゃんの休日だって、局長さんから聞いたんだ。いつも僕たちに温かい想いを届けてくれるアリスちゃんに、今日は僕たちが『美味しい』と『楽しい』を届ける番なんだよ!」
川辺の芝生の上に、色とりどりのクロスが広げられた。
香ばしい焼きたてパン、温かい野菜スープ、甘い焼き栗が並び、小さなピクニックが始まった。
子どもたちの笑い声が響き、大人たちが穏やかに語り合う。
アリスはその輪の中心で、胸がいっぱいになるのを感じていた。
手紙を配っていない休日であっても、彼女の周りにはいつでも、自らが繋いだ温かな愛の輪が広がっていたのだった。




