番外編 春になって届いた手紙
厳しい冬が去り、山に雪解けの水音が響く春。
夕焼け郵便局の周りには、秋の燃えるような紅葉に代わって、柔らかな薄桃色の桜が咲き誇っていた。
アリスが郵便局の前で箒を手に清掃をしていると、木製の郵便受けの投函口が「ガラガラ……」と風で揺れる音を立てた。
何気なく裏蓋を開けると、底の方に一通の手紙がぽつんと横たわっていた。
秋の濃い橙色ではなく、春のやわらかな光を吸い込んだような、さくら色の封筒。
宛名は「夕焼け郵便局のアリスへ」。
そして右下には、珍しく差出人の名前がはっきりと記されていた。
「……遠くの街の、ミオより」
「あ……! ミオちゃんから……!」
アリスはほうきを置き、躍り上がる心で大切に封を開けた。
中から現れた便箋からは、春のうららかな陽光と、ほんのり甘い桜の香りが漂ってきた。
『アリスちゃんへ。
お元気ですか?
去年の秋、あなたが丘の上のブランコにいるリオへ、私の手紙を届けてくれたことを知りました。
あの手紙のおかげで、私とリオは素直になることができ、いま手紙のやり取りを続けています。
喧嘩別れをしたまま遠くへ引っ越してしまい、ずっと後悔していた私の心に、あたたかな勇気を届けてくれて本当にありがとうございました。
今年の春休み、私は久しぶりにあの街へ帰ります。
青い屋根の庭にあるブランコで、今度は私の口から直接リオに「ただいま」と言いたいです。
そして、私たちをもう一度繋いでくれたアリスちゃんにも、直接お礼を伝えに行きますね。
桜の咲く丘で、また会いましょう』
「ミオちゃん……!」
手紙を胸に抱きしめたアリスの目から、あたたかな涙が零れ落ち、春の光を受けて眩しく弾けた。
秋の日に風に乗って届けられた「言えなかったありがとう」の一粒の種は、厳しい冬を乗り越え、春の訪れとともに見事な絆の花を咲かせたのだ。
アリスは革鞄をしっかりと肩に掛け直し、桜吹雪が舞い踊る坂道へと向かって、晴れやかな笑顔で駆け出した。
季節がどれほど巡ろうとも、想いを繋ぐこの小さな郵便屋さんの足音が途絶えることはないのだった。




