第8話 魚寄せの歌
「ミレーユさん! 材料、足りそうですか?」
「あと服が一着か二着、ってところかねぇ」
「ガルド親分。手すりの修理終わりました」
「……助かる。次はマストの補強だ」
「怪我したら言ってくださいっすよー!」
「ごめん、手、切った」
「はいはい。包帯巻くっす!」
「レオ……さん。今日の天気は?」
「今日は晴れが続きそう。波もかなり穏やかだ」
「なら、海獣狩り日和だな」
海賊団は避難民と協力して船を直していく。レオは浜辺で空や波の様子を見ながら、傍らで釣り糸を垂らしていた。
「〜〜♪」
いつも通り、口をついて歌が出る。テノールが伸びやかに広がっていく。
「……レオ、今日も釣り?」
ネレイアが声をかける。レオは振り向いて「うん」と笑った。
「食料確保しなきゃね」
「そうだね。じゃあ、お手伝いしていい?」
「……お手伝い?」
「うん。……隣、いいかな」
レオがこくりと頷くと、ネレイアはそっと隣に腰を下ろした。そのまま大きく息を吸い、歌い出す。
「〜〜♪」
透き通るソプラノが海へ溶けていく。その瞬間、バシャバシャと魚が集まってきた。
「……え?」
「魚寄せの歌」
「……なに、それ」
「レオ、さっきから歌ってたでしょう?」
「……魚寄せの歌、だったんだ」
ネレイアは「うん」と笑うと、そのまま続きを歌い始めた。レオはしばらく黙って耳を傾ける。
「〜〜♪」
自然と低音が重なる。気がつけば、レオも歌い始めていた。
水面がざわりと揺れた。沖にいた魚影まで一斉に向きを変え、銀色の群れが浜へ押し寄せてくる。
バシャバシャバシャバシャ!
魚の大群が、うねるようにやってくる。
「来すぎ、来すぎ!」
レオは慌てて糸を引き上げながら大笑いをする。
「呼びすぎちゃった」
ネレイアもつられて笑った。
魚は足元でぴちぴちと跳ね続ける。二人は慌てて籠へ入れて回った。
「ちょっと待って、逃げる逃げる!」
「レオ、そっち!」
「分かった!」
波打ち際に、二人の笑い声だけがいつまでもこだましていた。
その笑い声に、人々も思わず顔を上げる。
「また二人で歌っているね」
「……レオナール王子が帰ってきたんだな」
「ネレイア姫も楽しそうだ。……いつぶりかね」
「本当に、よかったなぁ」
誰かがそう呟く。
浜辺には、久しぶりに明るい笑い声が広がっていた。
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