↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/19

第7話 クラーケンを倒すために

 避難民たちは大きな洞穴へ集められた。皆口々に「なんだろうね」「悪い知らせだったら嫌だなぁ」と話している。

 エドガーが壇上に立つと、ざわめきが少しずつ収まっていった。


「皆、聞いてくれ。……船が、来た」

「船?」

「本当に海を渡れる船なのか?」

「助けが来たってことか……?」

「海賊の船だが、共にクラーケンと戦ってくれる、と」


 ざわめきは大きくなる。


「信用できるのか?」

「海賊が相手なら、食料を奪われるんじゃ……」


 エドガーは「皆の懸念ももっともだと思う」と言って、レオに目配せをした。レオは頷いて口を開く。


「えっと……レオ……じゃなくて。ごめん、名前、なんだっけ」

「……レオナール・アドリアン・セイルヴィアだ」

「そうだっけ。えっと、とにかく。ここの王子だった、レオナール……だよ。……記憶がないから、レオって呼んでほしいんだけど……」


 レオがそう挨拶をすると、人々は顔を見合わせた。


「本当に?」

「嘘ついてないんだよな?」

「……らしい、としか、言えない」


 レオは小さくうつむく。ネレイアは人々を見渡し、それからレオを見た。


「……じゃあ、これなら分かるよ」


 そのまま彼女はワンフレーズだけ歌う。


「〜〜♪」


 レオは顔を上げる。ネレイアはにっこり笑って「……続き、歌って」と言った。


「〜〜♪」


 レオは歌い出す。テノールが響く。嵐のなかで口をついて出た歌だ。


「……これは」


 老人がぽつりと呟く。


「……セイレーンの逆さ歌、だ……。……これが、歌える人間なんて……」


 歌が響く。独特の強いビブラートが尾を引いた。


「……この、癖は……」


 一人の人魚が声を絞り出す。


「出せない音を、ビブラートで埋める歌い方は……」


 皆が一斉にレオを見る。


「……レオナール王子、だけだ……」


 洞穴から音が消えた。誰も疑う声を上げられなかった。歌声が終わる。


「レオナール殿下だ!」

「……王子様、生きてた!」


 歓声が上がる。エドガーが「静かに」と声を上げた。


「……レオナールは……いや、レオは王子だった記憶を、全て忘れている。本人も、自分を海賊として生きてきた人間だと思っている。だから、レオとして接してやってほしい」


 誰も声を上げない。女性がゆっくりと口を開いた。


「……それでも、これだけ言わせてください。……おかえり、なさい」


 口々に「おかえりなさい!」「ご無事でよかった!」「大きくなりましたな」と声が上がる。


「……えっと……ただいま……?」


 首を傾げながらそう言うと、洞穴のあちこちで息をのむ音がした。すすり泣く声が漏れる。

 何も言わずに人々を見つめていたアレグがぽん、と肩を叩く。


「……愛されてるじゃねえか」

「……分かんない、よ」

「だろうな」


 アレグはにかっと笑う。


「お前の気持ちだ。好きにしろ」

「……うん」


 レオは泣いている人々を見渡し、小さく息を吐いた。



 人々が落ち着いた頃。エドガーは恐る恐る口を開く。


「……話を、聞いてくれるか?」

「はい」


 避難民たちは頷く。エドガーは静かに息を吐いた。


「……船は、修理が必要だ。帆布が少し足りない。……服を融通してほしい。……余裕がないのは、分かっている。……だが」

「いいぞ」


 一人の青年が声を張り上げる。


「クラーケンを倒すためだろ? なら!」

「……海獣の皮は使えないか?」

「重すぎるが、あれば服や毛布を代替できる。その分、布を回せる」

「なら任せろ! 海獣ならオレたちの獲物だ!」


 体格のいい人魚が手を挙げる。


「魔物が出るんだぞ」

「今こそ頑張るときだろ!」


 あちこちから手が挙がる。


「船大工は必要か?」

「必要だ。動けるものは回ってくれ」

「人が増えたなら、魚をもっと獲ってこないと!」


 洞穴中から声が飛び交う。エドガーは目を見開いた。


「ナイフはいるかい? 魚の骨から作れるよ!」

「私、縄くらいなら編めます!」


 彼が書き留める暇もないほど、次々に声が上がった。

 アレグは周囲を見回した。


「期待されてんな。よし、ガルドが中心となって船の修理だ! ミレーユは材料とかの管理、ノエルはけが人や体調不良の対応!」

「船長、僕は?」

「天気読んで、人魚さんのサポートだ。暇になったら釣りして食料増やせ。魚はいくらあっても困らねえからな。得意だろ?」

「分かった」


 レオは少しだけ笑った。


「よし!」


 アレグは勢いよくレオの背中を叩いた。

読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。