第6話 海賊のレオナール
「……ということで、皆に事情を説明したいんだが……」
エドガーはレオを見る。
「……レオナールと、名乗るか? それとも隠すか?」
「……どう、しようかな」
レオは静かにつぶやく。
「……ずっと、海賊のレオとして生きてきたから。今さらレオナールって言われても、実感は……」
「だろうな」
アレグは笑う。
「……正直、レオナールと名乗ったほうが、皆の協力は得られそうだ」
エドガーの言葉に、レオは俯く。
「好きにしろ。レオっつう海賊でも、レオナールっつう王子様でも、レオナールっつう海賊でもいいんだからな」
「……レオナールでも、海賊でいいの?」
「当たり前だ。お前はうちの航海士だろ」
「海賊だぞ。王子様だろうが攫っちまうぞ」とアレグは大口を開けて笑う。
「そうそう。お貴族さまだってさらっちまったんだし。王子様が一人増えたくらい、今さら今さら」
「……貴族?」
エドガーは首を傾げる。
「ノエルがな」
「実はそうだったんすよね〜。すっかり海賊が板についちゃったっすけど」
「今は船医っす!」と、ノエルは自信満々に笑った。
「セイルヴィアとしては困るんだが」
エドガーは軽く苦笑した。
「その……できれば、レオナールと名乗ってくれると嬉しい。君を国に縛り付けるつもりはない。……でも、皆は、きっと喜ぶ」
レオはエドガーとアレグを見た。そして、静かに頷く。
「……いいよ。でも、アレグ海賊団の、レオナールだ」
「それで、構わない。……生きていてくれた。それだけでも、吉報だ」
エドガーは静かに頷いた。
「……レオナールって呼ばれて、反応できなかったらごめん」
「構わない。……確認したいんだが。記憶が全くない、という認識で相違ない、か?」
レオは顎に手を当てて考え込む。
「……航海術とか、人魚の歌……なんだよね、あれ」
「多分そう」
ネレイアは頷く。レオは続けた。
「ありがとう。そのあたりの技術は、覚えてる。でも、思い出は一つもない」
「……なるほど。分かった。皆にも、そう伝えておく」
「ありがとう」
レオは静かに笑った。エドガーは立ち上がる。
「先にシレネ女王に話を通そう。アレグと、レオもだな。一緒に来てほしい」
◇
一行は海へ続く水辺へ足を向けた。
透き通った水面のそばで、一人の人魚が静かに歌っている。
「シレネ女王」
歌が止み、彼女はゆっくり振り返る。
「エドガー様」
「魔物よけの歌か?」
「朝にもネレイアとかけたのだけど。もう一回かけておこうかなって」
「そうか。皆を集める前に、お前にも伝えておきたくてな」
シレネはふわりと笑う。
「何かしら」
「レオナールが海賊になって、帰ってきた。記憶がないそうだ」
「あらあら。お帰りなさい。……記憶がないなら、初めましてね。シレネ・ルミエラ・ティアマールよ。ネレイアのお姉ちゃんでもあるわ」
「……えっと、よろしく……で、いいのかな……」
「ええ、お帰りなさい」
彼女はふふっ、と笑う。
「それで?」
「……アレグ海賊団と協力して、クラーケン退治を目指す」
エドガーはそう言って方針を説明する。シレネは最後まで黙って聞いていた。そして、柔らかい表情で口を開いた。
「いいんじゃないかしら」
「……いいのか?」
「エドガー様が決めたのだもの」
その一言だけ言って、小さく首を傾げる。
「それに、レオナールくんもいるんでしょ?」
レオは二、三度瞬きをする。
「……記憶は、ないよ」
「でも、あなたでしょう? だったら、大丈夫」
おっとりとした笑顔のまま言う。
「言ったでしょう? わたくしより、エドガー様がリーダーをした方がいいって。船長が多いと海が山になる、って言うでしょう」
「……船頭多くして船山に登る、だ」
「そうだったかしら。とにかく、エドガー様に任せておけば安心ね。わたくしはわたくしにできることをするわ」
「頼んだ」
洞穴内に柔らかい笑い声が響く。シレネは「お歌に戻るわね。レオナールくんも一緒に歌う?」と笑っていた。
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